TOPへ

 

七世川柳

 

 

柳門七世嗣号立机会跋

我柳風の祖柄井の翁が凩やあとで芽をふけと一句を遺されてより以降代々に其号を嗣し判者たちは自から好める風致の少しく差異は有りとも、孰れも博く文よみ普く世態に渉りて許多集まる句をも諦かに撰まれし徳にて此門に遊ぶ遠近の風流雄の員増り、年々に柳の枝葉四方に茂りて隆んなる莚を回々開きしも実に祖の翁が功績と又詞宗たちの材幹に因るものなり爾るに、今や昔の景況とは事変り文の道漸時に進みて三尺の児童も異国の語もて譚りなす程に開ける大御代なれば、狂句よみでる輩らも各々学いの奥深く分入りしかは這の莚の祝いにとて楽評を賜わりし撰ミぶりを閲ても疎妄なるは更になく余が老衰の脚は稍後れて遠く及ばず、かかる迂拙き身をも先師の縁故あればとて此道の老練なる兄貴たちが手挙き腰推て誘なはれしまにまに七世の号を蒙りしは所謂栴檀の幹に榎の枝を接しに等しくいとはかなき芽生して祖の御霊もさぞかし本意なかるべし。

    何方へ向て可ならんさし柳         川柳

 

明治庚辰歳会狂句合序

(ふる)きを(たず)ねて新らしきを知るが中にも開け行く文明らげき大御代の年の(はじめ)の風俗は昔に替り、あら玉の春にはあらで魚方さえ西か東かしら魚はまだ幼児の翫弄ぶ凧にかえたる空気球玉に疵なくいと丸く治る国の時津風ひらめく国旗長閑さは万歳楽にいや優る、四海の億兆の腹鼓ことば拙き才蔵が廻らぬ筆を序にかえてお笑い艸に祝してもうす。

 

三圍神社奉額会柳風狂句合序

自古以詩文、得名天下者、無若唐土矣、然未聞悲哭淋漓有感鬼神者也、抑我朝以和歌冠天下以之感動天地者、往々有焉、如小町能因者、皆世人之所知也、巳而亦得名干俳諧者有焉、宝井其角其人也、時屬大旱、宝井氏傷農民疵苦、而驟雨一句、挿入由多加三字、獻三囲神社而祈雨、鬼神感焉、満天流墨、大雨如傾盆、於是乎、民各安其所、而鬼神霊徳、益輝干四表、蒙利者不少矣、今茲我柳門老誓沖魚者、歎遂平生素志、将篇柳風狂句干社前、於是遍告四方有志、即投稿者忽如驟雨来、乃編輯為一巻、而徴余序、余乃不辭舒以贈之

       軸

    おりこんだゆたかは大和錦の美

 

涼風集序

千びきなる石の巻の冷呵子が涼風集と云える(ふみ)を編んとて余に狂句の撰みをば需められしを閲すれば三つの題あり、其中に古今文武の英雄は往古よりも今までに其人数多有る中に女童の耳底に常に知られし人々は又句作にも類多く這を離るるはいとかたし又果物は売うめの三番叟々鈴生りの枇杷を始めに西王母が三千歳の寿を得たる桃なしとは禁句ありの実や千代が名誉の初ちぎり柿にも渋の有り無しを警えば人に善悪のあるに等しき物なるをならしがらにて改たまる心に美味の出るかし誕といえば他の句の糟をねぶるは拙なしと自ら意味を料理して動かぬ石の巻表其題号の涼風の潔きよき句をもろともに励みたまえと余も又涼風慕う残る暑の顔に汗して戯言を序文らしくも述る事しかり。

 

窓雪集序

初瀬山世の憂き者は住みぬべし杉の窓明く雪の下風と至尊の御身にて下民を慈しみ賜ういとも畏こき御製なるをや唐土の孫康は苦学の為に窓に雪を積て燈火に代えしに和朝の篤茂朝臣は窓の梅の北面は雪封して寒しと呟きたり、今や炬燵に暖まりて硝子の窓より雪の景色を眺むる果報者も有るは実に有がたき治平の恩沢なるぞかし、這回亦冷呵子大人窓雪会を催し其編集の端書を余に需められしかば古今の事跡に聊か感ずる情を述べて其責を塞ぐ耳。

      軸

    日々新聞も洗心の湯の盤

 

今井楼掛額狂句合序

あし曳の山梨の(あがた)に我柳ぶりの狂句を好める村雨ぬしがおなじ巷なる割烹家(りょうりや)今井の楼に額面を掲ん事を企画て此由を四方の同志に広く告げたるに、諸人より寄せられし水晶の玉の句は御岳の山ふとに積りぬそを(われ)人共に白根黒駒の可否(よしあし)を撰みし巻をば亮に開く日を期して告られしに、其所一里ならぬ遠き上総の国よりも成之阿豆麻ぬしだち遙々と吾(あばら)舎を訪はれて今より直に(かい)の国に赴かんとす、(いざ)諸ともに行れよと寝瀧の杜の耳に水灑がるる心地して這は夢山かと愕しが友垣結べる中の真心を毀ふも心にかかれば速に承引て伴に貸間立せが路すがら柳の門々を訪いなどして図らずも隙どり亀甲橋(かめのからはし)の這うが如く山路を辿つつ漸く縣の下につきぬ、夫の酒折の連ね歌にはあらねどもかかなえば早十年余りの昔、余此地にを引し事ありしが其頃には似もつかず今や開化に歩を進めて玉ぼこの道の繕いはさらなり、家屋の建築も石森の礎堅くその美麗なるに殆んど(まなこ)を驚かす斗りなり(やが)て後れ(はせ)ながら開巻の席に差出の磯年波寄する俤を知己(しるひと)に看らるるも物憂き思いをせり、此日や天麗にして遠近より友千鳥の群集て披講の朗詠は笛吹川の調べに合していと清らかに聞えぬ、一座各数多の当句に勝沼の深き楽しみを極め実り盛んなる(この)会の景況(ありさま)なりき這は皆会幹村雨ぬし及び補助に力を画されし三ッ輪かなめぬしの(おお)いなる勲功(いさほし)謂つべし、其夜も稍暁(つぐ)る鶏の音と諸ともに披講終りぬ、爾して其秀逸を聚め一巻の句集となし余に序を書よと需められしかばいとおこがましきわざながら猿橋の三筋も足らぬ言の葉を雨畑の硯を干して述るは柳をそめし翁より七彦の末葉なる風也坊川柳。

      軸

    人は心の盃洗が身の徳利

 

風流集序

風に梳けづる柳の門を開かれし吾曩祖(さきつおや)柄井の翁の一派をなせし句調は其源深くして凡雨尚壌の間に限りもなく湧出て汲も尽せぬ言の葉を種とし風雅の田畑を作り易からしめたる流れの末は(しだ)()に江湖に漲ぎりて今や七株の早苗なる我実生の代に至る迄しづかなる広海(わだつみ)の内に遍く此道の行なわれざる隈もあらず、這ば皆翁の功蹟(いさおし)や其の高き徳に報わんがため茲に百年を歴ぬる霊を祀るらばやと遠近の風流士(みやびを)たちに附評を需めけるに有志の君の員は夫の小倉の歌人にも起て百名に余りぬ、斯よし四方に広く告しに忽ち戻りし詠草は棟木に支える程に成りぬ、艸が中より珍瓏たる光りあるを吾人共に撰みたる其数多の巻をひらきしは両日夜に渉りて最も盛んなる会莚せけり、即ち是を乾坤二巻の冊子となしてそのかみ開きし柳の門の基礎(いしずえ)の万世までも朽る期は勿れと祈る事爾。

       軸

    樹聖の祖我釋奠や百年祀

 

五世六世川柳翁の霊を祭る文

川柳の五ツ六ツ世の翁たちのみたまをここになぐさむる祭りの莚開らきしは同じえにしに列なれる前島うじのまごころなり、孫にひとしきわなみさえいと嬉しき心地ぞするそもや柳の誉れなる荒き風にも逆らわず吹うまにまにまきつつ枝をそこねぬ優しみは、世に堪忍の鏡にて新たの年の始めより歯固め祝う太箸や餅の花咲く繭玉にくり出す糸の深みどりさしかざしたる床柱丸く結いて睦ましく奢る心を削りかけととのう家ぞ栄うらん、さればいにしえもろこしの博士も門に五もとの柳を植ておのづから世に先生と呼ばれたり、又誉れある人々には儒になきは楊子にて賢者とたたえし柳下恵文墨には柳子厚詩文に昭りしは柳宗元柳儀曽の名士あり、楊貴妃の玄宗帝の髭も涎れに潤い吹面定からず楊柳の風とは宗志南か一聯の句に名誉ありと雖も我が国都良香う気は晴れて風新柳の髪を梳する妙作には遠く及ばず、柳の徳の尊とさは水に浮きし一葉もて船を造りし発明あり又は柳の蛙を見て和朝三跡とたたえられ傾城の賢なるは此柳かなとは蕉翁が一世の粋吟、雪月花一度に見ずると貞翁の美作有り一抱えあれどとは千代みづからお尻の大きさを吹聴し浅妻船の柳には一蝶の羽根が伸て遠く島へ渡り友に信わる柳里茶は居候に家産を減らし、柳は緑花は紅いと沢庵和尚は洒落に押をきかせ柳亭種彦は田舎源氏の色気に娘連を迷わせ柳畑ケの柳北先生は朝野に活論を吐露し富之家元はいよ柳橋と喝采の聲をかけられ、花柳寿助は振付の親玉にて柳葉の骨抜きは柳川一家に名を深たり、我柳樽の軽口は幾世汲めども尽る期はなしと茲に柳尽しの拙なき寝こと祝詞にかえて聊おまつりをことふく事しかり。

 

元祖辞世の句

柳風力競第三号に元祖辞世の句疑問の論説に「凩や」」は「凩の」の誤写なるべしとの事なり云々、曰凩やと云う時は無形の凩に跡で芽を吹けと下知されたるが如し云々、焉是を無形と云ん邪し凩は一句の兼題にて確に形ち有り如斯ば格外の()()遠葉(おは)にて故人の句にも適有り。芭蕉翁の句に「たんぽぽや鶴も来てつめ松の陰」蒲公英は題のにて切字なり、来て摘は下知のにて則跡で芽を吹と同格にて切字なり、是則二段切なり、然ね共蒲公英の花の美麗なるを愛感されしやなり、と居る時は其感情を失ふせ柄井翁の句も此格に效い凩に散り行く身をはかなみて嘆息されしなり、故にともとも居へ難き場なればと居へられたり、克々熟考して味わうべし。

 

吾齢ことし還暦なれば

    糸柳玉の緒環繰かえし

 

培柳蕃殖会序詞

抑も柳風狂句の江湖に行われしより以来本会の如き盛会のありし例志を聞かず、かかる美挙に遭遇せしは実に盲亀の浮木と謂つべし爾るに短才浅見の迂老をもて各位此大巻を余に撰ましむ譬えば蠡をもて大洋を測るに等しく遂に後世の謗りを遺す必せり。

    培養の挙や僥倖のさし柳

 

魁連披露会

    友の信靡く柳にかおる梅

手向吟四章

    咲けばちる世を悟れとや花御堂

    過去帖の其日を数珠に繰り返し

    くり返し霊も愛なん糸柳

    此世の大尾を満足に得たる友

伯父川柳翁に別れ悲歎の泪そめあえず

    散り急ぐ柳はかなし春嵐

六世追薦

    栄枯の一幹柳風の沙羅雙樹

五世六世祭祀

    衆吟の祝詞嘉みせん師父の霊

素遊寿楽二霊追善

    不足なき寿も国会を見ぬ遺憾

庚申歳且

    麗かな早緑月や松の御代

八幡宮

    仁は武の極意生るを放つ神

皇太子

    厩戸に似気なき耳の御聡明

老哀歎

    我写真経り行くわれの友ならず

同胞爭

    果は皆焚火の友ぞ雪つぶて

雪埋松

    姫松の祝いや雪の綿帽子

春十四句

    海老と野老は蓬莱の友白髪

    他には削れぬ太箸のにほん国

    憎むべきものは世になし初鳫

    其髭に鶴でも留よ飾り海老

    追羽根の敵を外した椋の加護

    花日記開始めに福寿草

    品行の美は閑にあり梅見酒

    雲雀鳴く野に旅人の腮合せ

    箒木も芽出し長居はならぬ雪

    佐保姫の花婿らしい太郎月

    凪の海亀にも乗て見たき春

    願わくば長閑につれよ花一斯

    花の春いつでも親の有る心地

    類は友気長な人と延桜

夏十二句

    親骨を大事に熊野の舞扇

    母衣蚊帳の口も守るか犬張子

    鯱鉾の金魚鉢も尾張焼

    酒乱の芸子は大風の郭公

    水で持つ昆布の魚も過去の因

    子に乳母の実意傾く日傘

    能因の旅に険阻な雲のみね

    思う事云た心地ぞ夏の雨

    欲しい物外には無いか火取虫

    日傘の娘葉隠れの白蓮華

惜しい者爪剥ぐ娘花五郎

萍も誘う水にも清み濁り

秋五句

    天造の美術糸瓜の網細工

    皇国の威羽ねはつぼめぬ蜻蛤形り

    農学の卒業重し刈た稲

    日くらしの聲に見残す御門の美

    鶺鴒の尾で振り出した四千万

冬五句

    煮こごりの鮫は悪女の深情

    親の掃く雪に消えたき朝帰り

    夜をこめて酉の仕込を熊手職

    心がけ常が大事ぞ寒苦鳥

    大晦日唯一日の名にあらず

雑題四十二章

    磨け唯人は残せし名が鏡

    賑わいは静な元ぞ君が御世

    慈然の種蒔けばいつでも福は内

    いつまでも親のある気ぞ花の春

    御代の恩酒池肉林も金次第

    盡せ孝のばされた身の届く丈

    身にやにがたまるぞ吸な長ぎせる

    放す気になる俎板の鯉の意地

    木地爐ぶち心もぬつた友はなし

    慈悲の目で見れば憎げな手柄鷹

    うつり行古事を照せよ身の鏡

    補巻せよ花の命も只七日

    光陰のおうつりが来る鏡餅

    憎まるる鳫が愛さ飾った夜

    千生りの発句万事によき教諭

    年来の望み叙勲する和歌の徳

    親類へ沙汰なし後家の茶振舞

    国の美や諸県に絶ぬ孝の賞

    人よりも美事時計の腹の中

    親へ其気兼して見よ居候

    外国の貞女重ぬ小夜ケット

    嬉しさは我余命なり此開化

    合作の書画も協和の一世界

    怠らず学べ遣わぬ桶は漏り

    碁盤より広し新都は涼台

    曲ろうとする處にあり告示標

    鼠鳴私情にけり人眠猫

    八文字世間はれてのつま重ね

    刎た奴ツぬく駒下駄も桂馬飛

    冷かした斗しや洗濯にはならず

    野州に日光荒れ寺に金屏風

    伊勢屋の端青顕微鏡持て来い

    井戸釣瓶句も一対の姉妹

    家内一同其余光兀天窓

    川岸へ出る怪鳥も尾張には恐れ

    能因の旅に険阻な雲の峰

    地獄で五右衛門ぬるいから焚てくれ

    寺阪の義は黒鯛の三ツ道具

    着倒れの地岳山までも寝た姿

    楽隠居寿も養川を床遍かけ

    文明の釣瓶にすがれ井の蛙

    煮豆に干瓢濱説に交るチャリ

 

 

 ページの先頭へ

 

 

 

inserted by FC2 system