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六世川柳

 

 

本町連差柳序

からのふみにかしこきもの善々人と交て、ひさしゅうして是を敬すと誉たまいしに似て、有人ぬし盟友に信ある心からつかえのみちにたがうるなし、これや枕のそうしに有かたきもの主そしらぬ従者なるべしいまたとし若うしてなりきるよき幸ありて、都登りせしついでに日頃好める風雅に千代の古道分たと里数おおき名ところ見廻りてかえりしを待うけて、俳の友とち狂句を吐て賀莚をもうけ百川楼に集り巻をひらき賑い睦み楽しみしハ柳ぶりの本意にこそかくて抜萃小冊となし、はし書せよとのすすめにいなみの海いなみがたく只このよしをしるしぬ。

 

絵本柳たる序

夫智有ば財なし、財あれば智なし。甘水ハ渇し、貞木は切らる、得の下に失あるハ世の習なり、我柳振りは得ありて失なく、世俗に虚実を添えよろづの滑稽を云叶え、浜の真砂の尽せぬ趣向やごとなきかたの業鄙のいやしき事をも捨てず、うきたる様に聞えても内には教を守一と詠み孝を賞美し貞を誉又おかしみの句にハ笑に腹筋をより鬱を散して病をよせず、居候の不自由勝も身の錆とあきらめさせ下女のはすぱも自然と直る風狂言葉にのべがたし、されば句毎に絵をば添たるハ玉にあるとかりいるべし、見る人面白さに笑を催なば福の来る幸ともならんと思うままをしるしぬ。

 

寶玉庵三筥居士追福会序

夕部の露あしたに消え流水しはしも止ることなし、真砂連なる三箱居士ハ柳のながれに遊びめつる事一かたならずこと人にもすすめて根をふやし言の葉のしげりしげりしいさほ少からず。なんの糸爪と世を悟りふらりふらりと雅にくらせり通し頃尚歯会をせしに「長命さ弥陀も閻魔も待ぼうけ」と詠せしを人も知りしに、はかなき夢に名のみ残せしを竹柴の優いとたち其亡霊をなぐさめんと追福の莚をもうけおちこちに告しにさわに玉吟を投じて大会とハなりぬ。在世に好みし道なれば千部万部の経にも増る吊なるべし、しかして抜萃小冊となりぬこれも備物の数になしなば蓮の台にて歓びぬらんと拙き筆をそえ伝りぬ。

 

ことたま柳自序

夫大和歌は遺徳の祖にして百福の宗也、いづもの(すが)の地にて八雲立の神詠が礎と成り世々に名ある人出て千世の後も替ることなし。爰に我柳風狂句は明道の根元にして終身の長なり、祖の柄井翁は浅草新堀の辺りに此点を初しが起立(おなり)にて百の年も替る事なし。星うつり年立て七十四に及ぶ職報恩謝徳の為追福の莚開んと五世の翁其由をいい解しに心ある人々等是を助けし評をなすもの六十人になりぬ、おのれ会のあるじと成て遠近へ告しに四方の海しづかにて秋津嶋の月いたらぬ所もなきハ、祖の詠安きを教置し高徳道の幸ならめや、流れを汲でみなもとをたづねんと心々に句を吟じ詞に花を咲かせ言の葉に色を添、あめつちの事を始五際六情何くれとなくいいて下つかたなるたわれた筋や世話事を譬喩に云なして、投吟すされど古きより詠ぜし句数ハ五ツの車に乗すともたうまじ、しかあれど句作同じくて趣向は替れり、崑嶺の玉とれとも飾あり、ケ林の材切れども尽ず、今や此道盛んなりより句は森の朽葉数つもり汀のもくづ限りもなく古来に稀なり、かく茂りて大会と成しも理世撫民の大御代のありがたき余光なり開巻三日に及びぬ、其霊には経よみて僧に供養せし程の功徳なるべし、衆苦有事なくて諸楽を受極楽に車輪の如き大連筆に端置して此寸志届きなバ諸仏にも其佛の光ならん、かくてその抜萃を梓にのぼせ其麓にいたりて山のおもわんことを恥ず我おもうことをはし盛する事しかり。

 

楊柳懸額会序

浅草寺の境内なる楊柳の瀧はきょ水にちなみある名にして水は方円のうつわにしたがう茶亭ありし瀧壷の流れハ絶ずしてしかも元の水にあらず、流れに浮ぶうたかたハ消かつ結て久しくすめる家とかや、此瀧の家あるじ世の流行を好みて丸狸ぬしに狂句の額ほしとかたらいしに、とみにうけひきて五題を出しかば滝に縁ある朝遠近に飛々きみなぎる玉の吟を詠せんと瀧壷に乗入れしむかしに似て愛女の三味線儚もとどめ市中のかまいすきをいとうものは音なしの里をたづねす出しの筧の音にも耳をふさぎよみ出せし、素直なる吟は柳の枝ぶりに似て茂りしを撰て額にしるし、其余も撰て勝番にすえ折のこせる吟の残りおおきうらみもあらんがみてるをつ歓ごとハ天の道にしたがうにこそ抜萃を風狂の姿と見てこのみちに遊ぶものは心の屈せる苦をもしらず、いつも笑みをふくみ腹たつ事知らねば福も来りぬらん、そを人にもしらさんと梓にのぼせ、はし書をわれにすすむいまや昇平の鼓腹の世の楽しみを百世に示すに足なんと筆をとりておもうままをしるしぬ。

 

御嶽山奉額会序

御嶽山座五権現は霊現いちじるく神威ハ山とともに高く鈴の音絶間なく履杖は引もきらず六根清浄にして祈らバ利生ハ山に響く谺のことし、信に徳ある御やしろなれバ柳風一句毎に画を添て奉額せんと甲斐の国なる所田中になまよみならぬ桃渓連に三ッ輪藝成なるもの会莚

を催せしに、道に心ざし厚ハ句案に凝りてぬる間の夢山にも吟し昼ハ終日経石ほど趣向を尋山梨の色巧ミにうまみを含み作意に詞疋を咲せ言葉に艶をそへさハに送れり集メに黒駒山が教あるが肱と寄句ハ白嶺程嵩ミ冊なりぬ、そが中より逸見の御牧や種坂の牧勝れしを撰にえり出して寶前に捧く抜萃桜木にのぼせはじむをのぞむ差出の磯さし出て塩の山おしはかりに計りて延う猶祀吟の神慮にも叶て柳の茂れかしとねぎ事として拙き筆を染はべりぬ。

 

眞琴居士十三回追善会序

横おりふせる甲斐の国田中の里ハ文雅に遊ぶものおおく、柳風は五世の頃起り和にして枝をならさず穏に月花に富る連に眞琴なるもの道に志し、深く其爪音も調子よく仲国は駒を馳仲達は馬を走らしむ程に狂句も只律に叶い、ことの上達の六段にハ初手ゆるし勧懲秘曲の中ゆるし心をいつもつくし琴十三組のそれならで、警喩によみなす裏表言語虚にして遊び実に居て虚に遊ぶをよくしろへ覚しに奥許にも至らずして去りしをいたみ追福の莚を設く、琴に縁ある首尾の松其辺りなる茂樹子の会あるじと成り賑はしくとむらいしを、莱落というも草の名茗落ということ草葉の影へ露程なりと届きなバ、在世中好む道なれバ心も晴て西の空此善因に引接て仏果を得ん事うたがいなし、常に詠める天人座紫の雲閣に浮世を跡足浄土を前足就舌の常法を聞て諸仏に柱ほどに肩を並辺、快楽うけなんとわれも大乗の茶にうかされて八段の調子乱れ愉舌に人の笑いもかえり見ずよしなし事をかきつけ序とす。

 

新調画本柳樽自序

新調画本柳樽ひととせ事茂りてもだしぬ好人等我をせめてせん方なし言つけなせど聞入ず、されば連へも知せ新句をあつめて物しぬ、貴となく賎となく愛るハ今流行のしるしぞと心に慢じて、みんなみの窓の筆をとりて柳のいとにくり返し早いろりしてとくれからぬ斗りを撰て画を添て稿なりぬ、柳ぶりのやさしの姿好まんものの春旬のねむり覚し剪餅十枚茶一杯にはまさりなんと仕入凧するいと日みじかなる頃ふみやが春の賑いと端書して渡しぬ。

 

画入柳多留自序

歳も豊の睦月家を寿く萬歳に笑こぼるる梅が香や門を好くなる春風に、にこにこ入来る屠蘇きげん笑上戸の年始、客笑う山々佐保姫の笑産に化粧残る雪今朝とはしと朝みどり、其糸柳たおやかに霞に笑の眉ともり千葉の笑は善へ引、虎渓の笑ハ友の径笑亭損をしたはなしわらい顔には降ささず笑果が有りたなら楠殿は笑て抱えん、にくまれものの時平の大臣も七笑にハ人もめでこの小冊や笑の種にもなれバ家内和合の一助ともなりなん、朝夕笑てくらしなバ笑好の七福も悦いうなん、されば笑も其身にハ花なるべし。

 

画本柳多留自序

柳の糸をくりためて和を結んだる床の間ハみどりなすてに春の色好む、根〆ハ玉椿玉の盃底ありて芽出度いはう数々ハ、としの吉事を幾重ね迎うる為の睦月雪間の梅もまけじとの、針もつ意地の笑顔とて飛こう笠ぬい鳥若やぐ聲のさえづりも、さえた口調の柳たる古文物の理をバせめにせめに俗語平話に姿情を画し三かかえ有ても高ぶらず、下見てくらすさとし草これや此やさしの物の長ならめ、ささればみどりの春に幼童の持いになしなバ心ある老のあな目出度あなおかしと誉たまわバいみじの幸なるらめや。

 

画本柳樽序

水ハ山の姿をふくみ山ハ水の心に任す人の睦も是なるべし、斐田なる高山の心高く古川に水たえず広照の里の心ひろく黒内の緩黒ならぬ睦ましの連会毎の句ハ牛も汗せんそが中を農楽庵の撰しを絵を添て好士に見せなば道の栄とも成なん、童蒙にみせなば教ともなるらんと我に送る見るに暁の空に向う心地すみかきし句な撰バ玉柳とす、古今もおなじ流行ハ狂吟のいさおし弁慶が楳に一枝を折バ一指を切べしといいしも、郭の柳こしハ一トえだ折バ一指を己に切り、酒ハ釼菱といいしもいろ娘に移り料理の一刀流も鉄砲の錫におされ、うつり替りし世の中に相かわらぬ柳振目出度ものの数ならめと祝して筆を染はべりぬ。

 

絵本柳多留自序

夫柳の情やわらぎを胸として風になびきて雪に折ず世々な者の風見草十雨にしだれ上を見ず、こやうやまいの教草其糸柳に道風は盛に秀で貨狄は其葉に船をエみ、いづれ名誉の物なれば此柳道も数ならねど堪忍をするさとし艸、喜ぬも水波の隔なれ柳ぶりのおかしみに笑顔なさば波たちし中も水となるべし、されば家内によろこび喜多留と手前勝手も笑の種なるべし。

 

柳の庭序

青柳のいとのどかなる玉の春、芽出たく祝う年始会其人数さえ年毎茂り巻さへ気さへひらきてハ心に一ッの藝もなし、此風柳のやさ姿花の兄貴にくらべてハ妹の美女といいつべし、是に打込連中はおつな気風の生悟り其を積といえば台所を見、慈悲をたれよといえば縁側をのぞき、また女色好めバ浮名うるさし、酒を好めバ家の二日酔もいや、金を溜れバ汚名をくだす、なんでも狂句が悟りの一理と懊したるも面白く有の侭を抜萃の序とす。

 

柳迺栄序

行川の流れはしかも元の水にあらずよどみに浮ぶうたかたは旦消かつむすび止る事なしと加茂の翁のいいし如く朝魚と露と遅速あるも保つ事なし、風の艸なびき安く波の月しづまりがたき世のならい六願に仕えし翁も七世の孫に逢し翁も碁に斧の朽たる杣も皆昔語りなり、ひまゆく駒艸とく飼手バなづまずやありけん五世も其数に入りぬ、はや十三回忌に成しかば諸人の追福せるにとここむ志評数おおきも徳の顕れとうれしく投吟も浜の真砂数しるぬまで集りぬ、そが中にハ高きいやしき何くれとなく虚実こもごも滑稽言葉に尽しがたし、そを土の中に黄金をとり石の中に玉の交れるを、おのおの抜萃して開巻三日に及びぬ句賞は虚空に花ちり席上賑いしく極楽というは是なるべし、さればたえなる詞も風の塵となさし光りある玉句も露と消失なんもおしく、さくら木にちりばめて萬世につたへなば霊には持経にまさる手向ならん、道のさかんを歓喜踊躍していさこの志しを述んと江の小鮮のこころもて大海の広きをしらず拙きをも憎からず筆を染はべぬ。

 

東照宮奉額会狂句合序

掛巻も畏き東照宮は至徳の余光かがやきて神威は弥栄えにさかえ、御やしろの森の木立も物経りて神さび尊く松梢の風に音曲を奏するは神いさめともなり、御水屋の桜は心を涼しめ池前の槇は枝長く垂れ高ぶらぬ形容や温和を示し、又桜は欝気をひらき人の気根を養い実に保寿の便りともなりぬべし。されば此柳ぶりも雪折れの患いなく風折れの歎みなきは耐忍の徳にして人の此道を好めりも自然の勢いというべし。句作は昔と変らねど四時に移りてかわり是を以て彼れを風化し彼れをもって是れを誘靡し其情稍風車の水を揚る工みに異ならず、そが徳ある柳ぶりなれば御やしろの賑いにもとこれを額に記し捧奉らんと遠近へ告しに、時移らずして集句一万三千余に及べり楽判にも至急を要せしに有志は伝線より早く玉吟撰りて巻となし、しかのみならず隔てし国の仁も遠きを厭わず出席せしは是も彼も賞賛すべきなり、山の八百善にて開巻なし席上ことに賑しく即日額成りて納めぬ、こは催主北山子年々子の労力と謂つべし、其抜萃梓にのぼせ端書せよとすすめに有しままを認めはべりぬ。

       軸

    色かえぬ神威や松の深緑

 

しげり柳跋

待乳山のあらしの聲万代に伝へ隅田川の波の色千歳にすめる大御代に逢る幸いにや、我柳風の行わるる事いにしえにも膳れかされん三囲なる五世の碑の傍におのれにも建築せよと社友のすすめ有しが、白髭の老のすさび都鳥の思わん事も恥かしき業にはあれど新物することとはなりぬ。然して古き三人の友とち其事を四方に告げしに、柳ぶり好める遠近の優人たち富士筑波の高き心を連ね隅田の流れ清き思いを述賀詠を寄られしかば、梅若塚の薫り深く柳島の翠りなるを撰び頓て堤の桜木にのぼせ摺巻とはなしぬ。竹屋の渡し直なる御代に逢うこもまた幸ならめと嬉さの余り佃の寄洲浅き心を忘れ堀切のあやめあやなき根なし言をつらね諸君の厚意を謝するになん。

    老柳ひれ伏四方の薫る風

 

金龍山奉額会柳風狂句合序

浅草寺や推古天皇の御宇中臣某左遷に三人慕い来て漁を営み忠勤怠り無し、亀戸川光り物にて夜は休業なりしに誠心を勵まし出し夜其網にて出現せしを藜の柱茅屋根に安置せしに霊験新なり、年経て今の地に移せしに益々御繁栄五大洲中他にもあるまじ千万戸も御徳の光りに照され世業美や、信には諸難も悉除なれば寶前寸地も無き捧げ物満みてり、柳風の額も古び掛替せんと会合せしに志評も数多あって寄句も二万余吟の大会とはなりぬ、開巻二日に及び其賑い旁しさは是連中の共和の睦み至誠の一致心大海の波静なる時は千山顕れ人心和らぐ時は通観すと、句作も昔に一変して会毎に進歩の姿秀吟夥し筑波山葉山しげ繁き詞の林良木多けれど能く切る斧を所持せず、窓の雪に疎く蛍に近付ねば唯無智短才に精微而朗暢を心がけ、柳の糸のよりよりにとけつもつれつ風に狂えるさまの目覚しきを撰りて額にしるし、捧ぐ額面は神戸なる関山に下谷竹町なる有人子の尽力にて落成しめ、新く狂句の盛大に成しも祝の高徳の顕れたるなるべし。下等の口調も黄金の鉄の巻多きにはしかざるが如しと慢誉して抜萃を活版に印刷し端書せよと進めにかたへのそしりをもかえり見ず拙き事を認め序とす。

      軸

    救うとの慈悲や無量の深如海

 

未歳且

怠らぬ鏡とうつせ初日影

歳且吟

    是にますよろこびはなし家内無事

歳且二句

    年の口元紅さした初日の出

    戸のすき間朝寝はづかし初日の出

三ケ日

    餅の外ふくれつらせぬ三が日

喰摘

    くいつみや玉のすがたをありのまま

賀昇平

    遊バるるだけハあそべよ世は富鏡

寸陰惜

    鐘つきに茗荷喰わせん桜時

杜鵑

    此病ハさ今のほととぎす

自像賛

    うつせかし人の善事を身の鏡

祝賀

    親類は笑い寄りする賀の祝い

月今宵

    月今宵僧にもゆるせ飲酒戒

八坂の宮に詣でて

    拍手をならす八坂の宮くぐり

男山の竹の珍器給りて

    千代のたからぞ御恵披の竹枕

明治庚午歳且会

    露の玉つらぬきし美や糸やなぎ

舞翁米寿賀

    賀の餅は耳をつきぬく聲で礼

旗亭掛額祝吟二章

    程という字を忘るるな美酒佳肴

    松ケ枝に群鶴の善や千代八千代

楊柳滝茶亭掛額会

    瀧で洗わん人の作を聞た耳

手向吟七章

    咲た戯花には風雨の慈ひ無し

    雅むしろや根に返りしも返り花

    茂る葉の散っても跡に根は丈夫

    美を散らす嵐や憎し落椿

    蓮華動くらし原志の柳風

    浄土の雛形不忍の花盛

    霊も嘸愉快和合の怯莚

祖翁例祭二句

    末世錆ず祝の苦心せし斧の針

    貴誉され苦心も余所に翁草

神社奉額軸句七章

    幣のそよぎや氏子へも邪は寄せず

    笑顔して拜せ神へ和にしかず

    尊慮の慈こぼれ幸い雅も水

    虎をうつ威は夷も恐た皇国の美

    出過ても憎む人なし富士の徳

    守護に依枯なし万水に月の影

    みがく気が自然と移る御神鏡

明治庚辰歳会

    あら駒をならす柳の木下蔭

蟹麿下阪餞別

    藘の地の根にも雅致あり月の蟹

旅別惜和歌

    かえるまで無のをいのりて待そかし

         今の思いを昔しかたりに

天保調三十五章

    くらせんか慮外者めと田舎武士

    ひどい生酔喰た蚊も酔て居る

    嫁芝居ぬき場を抜てはなす也

    本復の力だめしにたたむ夜着

    孝に湧く酒に見物盛こぼれ

    李白がほまれのめば吐き吐き

    酒の一徳生酔にかまうなよ

    序に蜆も見てたもれ滑川

    其頃は隅田に桜もありやなし

    李白来て見よ我朝の美濃の瀧

    初夢を対に見たいと新世帯

    定宿を名乗り三保谷身をのがれ

    乳をのむ子を笑わせて歯をかぞえ

    読経に美音の満しる嵯峨の奥

    俵の口もすぼめてるけちな扶持

    目が覚ず異見を寝言だと思い

    右に撥客をよわせる左に酌

    返されもせず本腹の記念物

    景図見まほしき捨子に添た歌

    二階に居ながらちゃんはなぜ留守だろう

    廻し部屋場末へ越した心持

    足は喰い道にのまれる女旅

    身代の痛み痣だのやけどだの

    水差しも薄茶も恋のいみ言葉

    奥方は捨つて恥ぬおとし胤

    何もかもやたら呑込む広い腹

    送られて来たを忘れて迎酒

    月の宴歌にはおしき目を眠り

    千代の下女翌日仕立屋へやりましょう

    弥次兵衛へ来るは落馬の膝栗毛

    乳母が家に食客いづれ不幸者

    新作も亜相にたのむ茶摘歌

    里主悪口十二雨は天の時

殿様を聟の氣妾の親ほこり

弘化調十五章

    洩してはわるいと智恵の底を入

    千両で紀文が買った閑古鳥

    くさいのは鰹も赤い頬ッぺた

    (こむ)(そう)の旅寝なさけの一夜切り

    柳絞りをあらそわぬ嫁に着せ

    世を持こたえ美食せぬ舞が腹

    云事が先へ届かぬ舌たらず

    貨機は細き煙りの狭布の里

    高い敷居の難所無ひくい腰

    初イ子持冬奉公と喰いくら

    継キ上下ハまつら戸に半ふすま

    傾城に泣レ女房ハほえっつら

    鶴の水掛丹頂に紅粉が付き

    なまなか眉毛物思い歯斗カ染

    易者へ生酔おれが名を先当ろ

嘉永調四十章

龍に翅は柳桂の御教訓

造営の時は筏も波に浮き

纉Eみ男痛あれど世に出ず

白龍も魚医者と化しふられ損

目隠しは見所が無イといわせる気

しりくめ縄を大門へ母はる気

さわる雲あるも奥あり月の宴

隹魚の中へだぼはぜの奥家老

月の洩る雅宅襖に瓦形

肌ぬいで水きる庭の羅漢槙

寝ぬうちに入ておくれと涼み台

明き店へはいる目くらの風の神

子持ちかね持参に交る親ごころ

子がなけりゃ女房とうにおんでる気

草履の仇討突ッかけ者には出来ず

欲と屏風は引あうと倒れがち

塵にある和光芝崎市のころ

夢に見て嬉し一夜に出来た山

扁鸛も及ばぬ補薬花に酒

人中で縮ンでいれば内はのび

恋ならで逢う嬉しさよ迎い傘

まむしに一能梶原に歌の才

余はおしてしると梶原船の滲

どろ水へ仙台糒つりあわず

敵をなで切伯耆から御還幸

ぬれつつの御製に干さぬ民の咽

すみません訳さと濁り酒をこび

即席汞知小料理の娘ぶん

出陣は人よりせわし武蔵坊

伊勢屋の芝居行食で成田屋ア

心なき撰集かなと圓位愚痴

角力で希位とり品なき虚説

衣類にもこび茶は嫌う賣茶翁

長頭丸内地届いたる御傘

尼の乳は花なき草におしき露

止事を得ず面に出る急用事

生酔をはづして逃る片たすき

琴〆る汗は芙蓉の花に御内

娘だと孟母地獄とうたぐられ

箱を連出され親父は四角ばり

安政調十二章

    火の消た多々良刃物もなまる頃

    和の風がさわると切れる鋸帆

    辛苦して後は寝安き暖め鳥

    長寿して恥多からぬ倭姫

    治ッて世には名もなし乱し箱

    喰よくなる気載て来る杓子

    今年はお高十三のおちゃっぴい

    天井の蜘下りてくれよめぬ文

    みとしろ豊鈴生りの実のり稲

    不義に膝折たら足の筋は無事

    かねをうならす一ッ目の橦木杖

混題年代不同三十四章

    細流わけめは末は涼み川

    船そとは親に告るな月に酒

    鯱をにらんで生れ鰭がつき

    心の柳あらそわず根が丈夫

    寝ぐるしい晩仙人に見せられず

    猫しばしさすらへの身の盗み喰い

    鞘がふ承知刀屋の聟破談

    横に捌ケバ肩衣の疵になり

    字の盛イた栖杓丁調の誘露

    栗下駄で帰り言訳蹴つまづき

    月に邪魔雪に誉たる花の杖

    化物の覗く箱根の西の木戸

熊野浦鯨分捕ル腕かぎり

疵のないのが痛入る屓軍

欲を荷わず身ハ軽し草の庵

顔を真っ赤に猪蓑を無雅解せず

詮は浦船進物は帆掛鯛

心爰にあらず目玉が余所歩行

庚申仕まい吸まいいじるまい

年老て孝子に恥る我が昔

二十七おもえば喧も尽ぬもの

壁隣リ角を隠して我も鹿

小町が歌で面かげの替る稲

酒で落ぶれ猩々の辻謡い

鶴の水掛丹頂に粉が付キ

高い敷居の難所無ひくい腰

緑毛となって昔をはなし龜

さあくらから出ると露も出るところ

下女がおもても白々と花の顔

若い時の遊芸役に立つた子房

年立チ帰りうつとしい嫁を見る

春や昔のとてふしから文通

かさをかす家の稲荷で雨がふり

ツイ左文字版木師の仕様帳

 

 

 

 

 

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