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四世川柳

 

 

肖像自賛

元亀のはじめ足利将軍義昭公京都に御座ありし頃、雨夜のつれづれ宿直のひとびとを召集め給い和歌の御当座有し後、下の句を置いて上の句をよませみづから甲乙を定め給うにいと興深しとしばしば御催ありけるを、都鄙の老若承り伝えもてはやしけるとぞ是なん前句の始めと申し伝え侍る。此遊び元禄の頃より東都に行われて、宝暦に至り浅草新堀端にすめる柄井八右衛門というもの点者と成て川柳と号し流行日々盛んにして、文化に其子惣右衛門川柳の号を嗣ぎ文政に其弟孝達また川柳と号ケたりしか多病によりて予に其号を譲りぬ、しかりしより引墨に私なく心を用る事十有余年、今評を乞うもの三十国にあまりて益盛なるは初祖川柳叟のいさをすくなしというべからず、是しかしながら有難き大御代に生まれあいて人も我もうき事知らぬむさし野の広き御恵みなりけり。そもそも俗淡をむねとして人情を穿ち新しきを需るに今は下の句ありて上の句をいえるは少なく、はじめより一句作りたるが多ければ俳風狂句とよべるぞおのかわさくれなりける。此ごろ親しき友人画工国貞予が肖像を画て贈れるまま是に賛して此道の事の發りを書きつけ、永き代のためしになしぬ。

    こころにも上下着せん今朝の春

 

俳風柳多留七十四編序

柳樽と題せしはじめより、いま七十有余編にいたれり。世の中のこと何くれといい盡さぬはなけれどそかなに買色いうものはわきてよくそのあなをうがち、川ばたやなぎの見ずに夜を明す浅黄裏もゆうべに青柳鮓の声を聞て、あした身かえり屋難起の別を惜むたおやかなる柳の腰にしとけなくむすぶ小柳のひらくけも間真にそらとけあらんかとこころ憎しのちまたのひともと柳根引なしたる花屋が軒此あるじのもとめに応じてかと口へ植つけることかくのごとし。

 

五霊追善会序

家内喜多留の呑仲間川柳・玉章・有幸・菅裏・雨夕等はひとしからぬ浮世の酔さめてげんきに黄泉国へ婿入りしたりしを、おもえばなみだの泣上戸が声はりあげて諸君子の言の葉を乞いあつめて樒とし流行をふるい香となしてもって五霊位に手向ることとはなりぬ。

 

俳風柳多留百三編序

やまと歌はあめつちひらけはじまりてより八雲たつの昔も今ももてはやす事になんありける、いてやこの狂句いう物はその庇をかりて雨舎りをするにひとしかばあれど、世の中のあなを穿ちてつれづれをなぐさむるは此みちのいさほなるべく、人間わずか五十年ただに世をおくらんよりは、はらをかかえてかと口に福の神を招くにしかじと柳樽百三板目の巻のはじめにしるすものは俳風狂句の四世川柳なりけらし。

 

松歌居士追福会ちらしの告條

松歌翁は初代川柳さかんなる明和安永の頃より、此のみちに遊びて和笛見理はた二代の川叟三代四代と句案にこころをゆだね、就中文化文政の頃は専ら評を乞うものあまた成しに、おしいかな文政十三の年晩春末の七日よわい七十五歳にして身まかり給いぬ。その子二代の松うた追福を営んと諸君子の玉句をこい予に引墨を需む、爰においてふるき馴染の連たち我がちに髄評をせんとすでに十七評におよぶ、此おきな世に在せし時高番はたおかしみの句を好み給うゆえこたびそのたぐいを撰みあげて備えなば、蓮の台に腹をかかえてよろこびやしつらん是善智識の萬巻陀羅尼より百倍の手むけならんとすすむる功徳ともに成仏玉句澤山多比たまえと四代の川柳此ことわりをかい付る事斯のごとし。

 

俳風江戸川大会序

久かたの天津みくに風おさまりあらかねの国ついへほの動き大御身代こよのうめでたけき、ここに川柳のおきなの流れをくみ前句いうものくらいをわかてば、名におう花の江都川連雨柳錦重なるものもろ人靡く柳橋の辺りたかとののうえにその筵をひらく。されば千とせふるやなぎ化して松となるいうはめもあなればただ常磐なるみどりの色もかわらで、かの渕明かりがかともる五もとの柳のことにえだ葉しげりて朽さらんことを柳の糸のそめかえずしてながくさかえ繰り返し繰り返しよりくる人々、此みちに深緑ならん事をひたすらに願うものからこの巻のはしにつたなき筆をとりがなく吾嬬をのこの口はしもまた青柳のあさみどりなる眠亭銭丸述。

ときに文化といえる十あまりひと川のとし風まつ月

 

柳の葉末序

其昔柄井川柳引墨したる末番の句をひろい集め末摘花と題せしは版元の飾慶のもうけものなりしが、おしいかな更に今行方を知らず爰に赤子龍舎の助兵衛達チ大ばれ会の催主となり、四方の笑句を一冊となして桜木に花を咲かせ見る人毎に ああどうもどうもよい句 といわせん為是を柳の葉末と題し予に序文をせよとしばしば責めるより所なく箱根から腰をつかいながら五人組を頼んでかき付ケ侍りぬ。

 

元祖川叟画像賛

    行水やおもかげうつす夏柳

題俳風芽出し柳巻首肖像

    出つというとこへ竹の子つらを出し

勤学

    夜学にふけて埋火もほたる程

長閑

    諸鳥皆真似ても出来ぬ鶴の聲

秋露

    朝顔やからむ枯れ木の花盛り

菅公

    せうぜうナ名をけがしたも時の難

風交

    雪月花ともに睦し歌の友

神社仏閣奉納軸十九章

    咲匂えいく代も法りの花拓榴

    草刈笛を吹せたい神事也

    真っ盛り若枝の伸や神の梅

    松屋ばし其御利生の源みどり

    千はや振神垣涼し松の風

    信あれば徳あり守護に依怙はなし

    いく艘も竹芝浦へ松魚船

    川柳下風涼し法の聲

    いのれただ水にも月のかげ清し

    萬鶴の千代田に群る身のほまれ

    たち花を氏子にほしき御神体

    仰ぎ見よ神の恵みの弥高し

    仰げ唯神慮は人の非も鎮めし

    清濁をへだてず守る神の慈悲

    降る雪に枯れたる木々も花と見え

    伏して見ん宮居を照す秋の月

    不柏子の神慮に叶う午祭り

    三ッの田は程更守護の翁神

    仰げ唯広き恵みぞ神こころ

 

茶亭掛額軸三章

    居酒屋ですこすこをするぬるい燗ン

    産湯から洗いはじめよ玉の水

    錦手で汲まん故郷へ旅戻り

    

手向吟三章

世に愛る花も常なき風に散り

秋ならば露と答えん梅の雨

わくら葉に一枝淋し川柳

 

混題百八章

    当分ンは来やるなと母一ッぬき

    当付ハ首狂言ハ足ばかり

    行灯へじれったい穴二ッ三ッ

    米俵壱本ンささせしょつて行ク

    御脳気のせがれを紙でつつんどく

    ここをようききやと母おや小ごえ也

    糸道がついてハ猫もかけ出さず

    たいこ持さてどんつくでいけぬもの

    桂男の名所から式部書キ

    姉さんといいなと芸子つめり上ゲ

    道鏡が母馬の夢見て孕ミ

    十ゥ目の見る所にて犬つるミ

    うわ草履狸つくづく思うよう

    ふといやつだと大根は敵を追い

    おきやァがれ惚れたではなし藪にらめ

    それ見ねへなと尻を出す初がつお

    這った翌日下女ぬる程に〱

    満ン願の夜につめこの夢を見る

    両替屋鳥居にふ審紙をはり

    素人芝居かなだらいどやされる

    僧ことへ心づくしの御はなし

    だァまつて百万べんを嫁ハくり

    切落みかんの皮が飛行する

    根をおして聞ば根ぶとハ横根也

    錫杖で肩から御名をゆすり出し

    箱根からあちらの嫁を暮に呼

    雑兵に宿やはやめを買にやり

    座敷牢うらやましくもすめる月

    棒ほどな事針程に母かばい

    猫に灸ばかしてすえる三味線屋

    しつたかわくそをくらへの里なまり

    南国は山から化て梅へ出る

    金平ラの夢で化物うなされる

    つらつらおもん見るにきん玉ハむだ

    かわらけのように下馬先笠をなげ

    ばかな事犬のつるむを見ておやし

    身を伊達にせぬのでけつく名が高し

    宇治の蛍がそれて来て巻に成

    立田山顔にハ散らぬ紅葉也

    小指を切手大袈裟にぶっかける

    禿曰ク壱分ほつきやァ借いせん

    千歳を建て万里の春を待

    手をむなしくは返すまじ三会目

    素見だと見たはひが目か日和下駄

    とてもならなぜ吉原へうせおらぬ

    しつこけ帯を止メおれと親父ねめ

    あの仁がよしんばさそったにもせい

    金箔の付た浅黄を高尾ふり

    そもそも持参ン男だが女だ朝

    素読の師くすんだ息で子をでかし

    小はだ小平次肴屋と下女思い

畳さし一ト針ぬきに手をおやし

質屋の手代弁慶に縄をかけ

柿の花すぼんだように開くなり

悔ミ行て先ヅと言い跡が出ず

西と北こくふに花の降る所

錐をもむように拝むはひどい願ン

大小をなまくら者が曲に行

さればこそ金が付候大あわた

早業がきかず百文只とられ

はかり琴有りとか仲達引かえし

なきにしもあらず禿に仕て育て

鶯も蛙も鳴かぬ小倉山

繁昌さ今はもえ出る艸もなし

満面に笑ミをふくみて下女承知

五明楼浅黄愚案に落かねる

時に半へん菜を入る安す料理

四会目ハきりてやつぱりこわい面

富士の歌山の辺リの人がよみ

内の夜具四五十出来る程かかり

大黒を神うけ筋の手でぬすみ

ぢゃんぽん臍で吉原評議也

実盛ハ死出のはれ着をねだり出し

指のさしてもない札を梅へたて

其つみを身にしらぬ火の御ざんねん

人間ハわずか五十に足らぬ忠

出嫌いというやつ急度是かなし

へんてつもないと弁慶夫ッきり

しだらくそうな泥坊ハ袴だれ

三年ハつくらぬ孝の道普請

謎々かけよがとかんすか月の事

大山伏を夢に見て弓削召され

よわい武士月を切かけられて逃

こいつ妙だと思ったら月を喰い

浅黄裏うつうつとして楽しまず

時に斯ウいう理屈だと小便所

物思いそばで禿は春を待

持参金切れのある面ラ斗り也

おのれ時平と黒雲の絶間より

去り状を掘て乳をしぼり込み

二聲と啼かぬ小倉の郭公

金に色かえぬて松の位イ也

染かねて地名に残る紫野

引ク人の多いは丁子車なり

松の風果からはてへ吹届き

生キた鰹をぶち殺す銭で喰い

すばしりハ内ぶところへへそを入れ

終におくひの出る程は相模せず

桜田に駒のいななく初登城

山形に組敷キ夜具朝夫もよし

風呂敷のはしぬい多分女房の手

仰ぎ見よ音楽雲の上から来

一ぽんはくらい尽せぬえぼし魚

仁徳の御代人迄も放生会

うす墨で昨十九日娘事

五百の内に助兵衛が顔もあり

 

 

 

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