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 十一世川柳

 

 

 

十一世川柳嗣号立机披露会柳風狂句合跋

古語に狂は心に生じて外に出すと尤なる哉我狂句の千態萬状一吟以て恩神を笑わせ一喝以て石仏を動かす故に上は貴紳より下は下女居候に至るまで何れか狂句を読まざるべき、斯に狂句いうものの興を云わんに彼の芭蕉翁が狂句として凩の身は竹齋に似たる哉と発句に読まれしを初めとし、我祖川柳翁が前句付を一変して柳風の道を開き万世不朽の机を立てられしも彼の芭蕉が凩の吟を基礎とせられしや明らけし、されば祖翁が遺吟に凩や跡で芽を吹け川柳と此句や我道千古の遺訓と称えて世々其跡を継ぎ継ぎて根ざしも深く枝も葉も栄えて今は全国中柳の風も吹かぬ地もなし、斯くて十世狂句堂の主人は左り団扇の楽隠居と成らんとす、余が不学不才因より其任にあらずと固く御免を蒙らんとせしに柳風会員諸君よりも強て薦めて止まざれば覚束なくも十一世の机を汚す事とは成りぬ、されば古の狂や肆今の狂や蕩と論語読まずの論語知らず古今の差別も烏鷺覚え本の盲者の墻覗き全国の同好諸君が賛助の力を頼みにて川柳の名を襲ぎたるのみ。

    教えられ出来た柳の庭造り

 

旭海楼昇叟古稀祝賀会柳風狂句合跋

今年明治三十年えとうも丁ど酉るという歳を数へて七十の家尊昇叟が賀を表し年頃好める川柳のいとまのより〱むすべる友垣と計りて此会を企てたるに狂句に遊びたまう人々の交誼はあたたかにして春風の遙々と玉吟を寄せられたるもの実数一万九千に余れる事となりしこそ御当人なる親父より倅の拙者が大喜びめで度かしことしめ切つて此道に縁なる元柳橋の辺り鶯春亭に開巻せし此流風の一巻は名句佳什の寄取りみどり彼の錦上に花とやら雪雁翁が贈られたる祝辞を初め諸人が盛寄せられし言の葉を柳絮にあらで此の巻の柳序とせし大略を拙き筆に書いつけたる跋がわるいを跋と爾か云う。

 

渡海の寝言序

皇国の祾威日に盛んにして東亜のてんちは我陛下の洪恩に浴し三倍の国土膨張と共に海陸の便利交通の機関何一つ備わらざるなく実に有難き太平の御代にぞある。日進月歩の国運急速の発展は真に吾人の殆んど意想外に出て唯々皇恩を拜するのみさりながら退いて明治初年の頃を思えば感慨夫れ果して如何。

予が亡父昇叟が壮時駒込追分の素封家高崎屋の主管として主用を帯て阪地へ往復するにさえ随分不便を感じたるの状は即ち載て渡海の寝言にあり、夫れ僅に江戸と阪地の往復にすら渡海と記す程の事なれば他は推知するに難からずと思わる。

渡海の寝言は文士の筆にあらず又学者の文でなし故父が商用の片手間に墨斗の筆にしるせしなれば素より文に飾りなく見る可き価値は有りとも覚えずされ共当時の態を写して殆んど遺憾なき處些か恩故の料にやなる可し。

 

澤迺家喬友百花園栄蝶二霊追善柳風狂句合序

如是我聞、祇園精舎の鐘の聲は諸行無常の響を伝え沙羅双樹の華の色は盛者必衰の理を示すとかや観じ来れば噫人生は夢幻の如し。

人生まれて世に在るや七十年は古来稀なり、栄蝶翁はより以上一と昔の寿を保ち得て加之も钁鑠壮者を凌ぎ老てます〱壮んなるの人なり、然れども一朝二豎の侵す所となりて終に不帰の客とはなりぬ、惜みても猶余ありさりながら幵は遺族信友が情義の忍び難きに由る所謂望外の興望なるのみ或は思う翁自身は却つて冥府探勝の娯楽を夢見て結局遠足の洒落を望みたるも知る可からず、喬友子に至つては敬て然らす漸く半生の郷関を越え春秋猶富むの人にして実に有為の人才なりき、然るに天斯の人に年を假さす槿花一朝の夢と化しらんぬ哀しい哉、

栄蝶翁は天寿を全うし得て長しへに楽土に眠り喬君は夭折して空しく青塚一基の主とはなりぬ、哀れは齋しく哀れなれども此間豈多少の感なきを得んや。

されば両君生前の友どち誰となく彼となく茲一堂寄り集いて二霊が新盆に当るの月即ち本日を以て爰に法要を営み併而追福狂句大会を開催せらる、予も又生前相識の縁故あり殊に本会の撰者として此法莚に列なりつ荐追悼の念禁ずる能わず即ち一片の蕪言を述べ以て巻首に序すと云う。

      軸

    世は夢とさめて悟れば花に風

 

御親断

    唯仁以て寶田の地で施政

皇兄弟

    瑕瑾なき美談玉璽を譲り合

興発

    旭と夕日源平の盛衰記

魚不足

    倹約に気が付く木曽の旅戻り

媒酌口

    かたいのハ請合ますと嫁の世話

妖僧

    玄ム悲憤名を遂げて功ならず

注意

    二タ股の所ロが道に迷いがち

訓戒

    洗濯は出来ず汚すな親の顔

祖翁忌手向五句

    見ぬ俤のなつかしき祖の祭

    祖翁の引墨末世まで消ぬ徳

    未来をトし栄久の地に遺吟

    砕けても玉と美名を龍寶寺

    汲めども尽す吹き出す柄井の雅

五世六世霊前手向

    何事も云わで捧ん手向幣

九世翁七周忌追善句

    恩師今呼べども覚す涅槃像

故福子女史追善句

    逆さ屏風に哀れます孝と貞

甘屋居士追善句

    月雪も見尽し果て花の旅

化笑佛一週回忌手向

    呼べど答えぬ友恋し五月雨

八世川柳翁立机会祝吟

    霖雨の後愉々快々や五月晴

十世川柳翁嗣号祝吟

    桜木して緑弥ませ川柳

金子君の銀婚式を祝して

    花にまた錦添へたり金衣鳥

翠亭桑柳氏が立机を祝す

    ひろごるも培養にありさし柳

歳且吟

    貢の雪を豊ヨ年の筆初め

    人も斯く意地は持たし雪の松

    脇見せず進め亥としの一針路

羽前の雅友に見えて

    待ち兼ねし程の味無し初松魚

檉風大人の前途を祝し侍りて

    棟木ともなるためしありさし柳

昇九七四両公の寿延を祝す

    また花の咲く老松の若緑

故父昇叟追善手向吟

    八千代いう名もたのまれず落椿

混題一百四章

    世は共和武威も根の張る竹の園

    待つ内が花咲けば雲ちれば雪

    竹の台民も千代呼ぶ遊園地

    心の緒じめ珊瑚より五分の魂

    包むものでなし風呂敷を広ゲる愚

    開花の先鞭洋服の妓を身請

    甲信へ事掛りの道も出来

    胃病とは扨大贍な居候

烏にも恥よ塒を定めぬ愚

一年有半非民が長き夢

山も寝姿着倒れの土地自慢

無慾大慾洗う耳嗅だ耳

二万堂腹一ぱいの歌袋

練磨せよ印和の玉も元は石

篁は船の不平が身の浮沈

苦の娑婆へ遣ろと閻魔は子を叱り

橿から聖水源は山にあり

子寶らが殖て気張し国の父母

和漢の進歩後の雁先になり

神風に尻尾を巻た范文虎

散り際もよし勤皇の桜山

農事の改良先鞭の地も駒場

吉良の臣同じ忠死も雪の鷺

荷造りも俵でいたむ相馬焼

本来空論海を越す葦一ト葉

菫が出逢う公園の星月夜

御愁傷殺し文句の隣り部屋

飽食も暖衣も旨し国の恩

吝ならぬ才伊勢人が編む古事記

議長の松も内閣へ根引され

時鳥寝覚の廓のおそざくら

琴となる桐より下駄は実業家

暮しらず春待つ内が人も花

紅葉の手を曳き鹿を見る花屋敷

満れと欠けす上ゲ汐に人が殖へ

手術より奥あり棒でなおす皿

夢物語に目の覚ぬ幕吏の愚

宵の内戸籍調に来る喜助

琴の音も床し見越しの松の庭

鴫一羽哀れ千載集に洩れ

李太白一チ石ならば詩千篇

眼明き千人保は一に道を聞き

酔えば春上戸醒れば秋となり

佐吉が一服献したは裏千家

下女春着名もなき山の初霜

世にひびく雪に巴の陣太鼓

野は昔今人材の大林区

武士(もののふ)の是も花なり許六の雅

北條八代龍王に見放され

千枚通しで井戸を掘る小人島

孫の手は痒い処へよく届き

富士川の船は女の一人旅

天廳に達す山鹿の陣太鼓

釈迦よりも世尊聖主の御善行

去る者踈まず忠魂を御勅祭

世は開け軒の菖蒲も笑い草

不破名古屋一枝の花に蝶と蜂

林中落葉常磐木も艶がさめ

弁護士の人望口は福の門

医師のふく尺八脉を取る手つき

真似る児戯親煩悩の老莱子

残る花人に折らせぬのが手向け

穴のない針に用なし小町糸

交りは人もかく有れ水と魚

枕厨嫁は姑の雷を除け

消食器斗り働く居候

親の食い物十六の武蔵下女

五本骨時代ぞ払う扇函

狂歌の相撲に故実書く六樹園

風景の変り恨みの瀧となり

徳川の家の光は三代目

耐忍力は一身の福包み

精神を鏡曇らぬ大和魂

告発も出来ず娼妓の偽証罪

肩で切る風は身に咲く花の仇

備後か誠忠蓑着ても隠れぬ名

神代にも娘一人に瓶八つ

学林へ手放し志士は子を試し

星月夜最鎌倉の終列車

頗る危険鎗術の手長島

菊石一つが十円の持参嫁

秀吉が宿禰の寿なら四夷も伏し

平ッたく気は持て亀は寿の司

雛祭り桃と桜の姉妹

御降りは十両に優る世をしめし

難波料理に歩を譲る宇治の里

笹蟹の糸待宵の電気線

知ったふり薩摩の富士は八里半

返すのが親へ不幸ぞ口答え

投票売買高い程価値なし

氷屋の鉋の下に香炉峯

聞に恥なし聖主にも顧問官

今なら議員に佐倉から出る宗吾

賎心なしと道僅初手思い

別れたる人に又逢う花の山

粉骨で返せよ肉を分けた恩

松原に続く佳景の鶴の芝

茶会の夜身の泡沫と知らぬ吉良

法論に勝て甲の地を教化

他人の飯で喰分けた親の恩

お目出たい心配親のする浮気

一日にありと祈年の四方拜

世間見ず初音をしらぬ宝の梅

我が足へ己れを繋ぐ小荷駄馬

 

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