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廻文川柳

 

 

廻文は、元ト和歌から出たもので、上から順に読んでも、下から逆に読んでも同じ語に成るように作るのである。

古来年中行事の一たる正月二日の夜、吉夢を見ん為とて枕の下に敷いて寝る宝船(七福神遊戯)の絵に、

  なかきよのとをのねふりのみなめさめ

      なみのりふねのをとのよきかな

という歌が即ち廻文であるのは皆人の知るところである。元祖川柳翁もこんな創作を試みられたことは、次記の如き和歌の真蹟が、現存してあるのに知られる。

       錦木塚

  錦木ととさしてたにの塚の間の

      つか野にたてし里とききしに

  錦木とつたへもおきし長の夜の

      かなしきおもへたつとききしに

   右二首回文

           江都

            無名庵せんりう

 

斯の如く廻文は和歌の一体であるが、後には漢詩にも俳句にも川柳狂句にも將タ只の語にも、之を作るようになった。さもあれ昔から難題の一つに数えられてある通り、第一仮名遣いを厳格に守らなければならぬ。若しこの仮名遣いを誤っておれば、如何に声調が能く出来ても、本当の廻文とは言えない。

古くから知られた廻文句に、

  草の名は知らず珍らし花の咲く

というのがある。之は仮名が違っている。知らすはズであって、珍らしはメヅラシだから、下より逆に読むとズの處がヅとなる。即ち厳格に言えば違法の廻文とすべきであって是等は殊に謝り易いものの適例であるから、創作上十分に注意しなければならぬ。

併しながら這は厳格の意味に於ける廻文の作法をいうのであって、清濁応用、鼻音混用の如き古くから適用し来ったものは、別に差し支えなきものとして宜しいと思う。

世に廻文として詠まれてあるものを見ると、

イと井とヒ。エとヱ。オとヲとホ。アとハ。チとシとヂとジ。ツとスとヅとす。などの誤り易い音を混同しているのがざらにある。是等も違法に相違はないが、さもあれ一々厳格に批評すれば、適法の廻文句は幾らもないこととなるだろうし、殊に此の種の遊戯文学は然かく純理を以て論ずべき限りでもなく、詰まり趣味の涵養・情育の発達に資するところだにあらば、其の玉瑕錦類の如き深く之を咎むるには及ばぬであろう。尤も新たなる廻文の創作家が前人の覆轍を繰り返さぬように十分注意しなければならぬのは、言うまでもないことである。

 

以下予が好奇心より手抄して置いた廻文の柳句を、玉石同架のまま引記して同好者の詩的趣味を促進すべき資料に供する。

本稿は其の悉くを網羅したとは言えないが、予の一瞥せる柳書所載の廻文だけは略抄録した積りである。江戸時代の作例には、元禄以降の前句附折句本等所載中より跋抄して置いたが尚物足らぬ感もあり、特に元禄川柳時代に於ける万句合(暦摺)及び江戸座の俳書類は原本其の物の多く散逸せる上に、いとど貧弱なる拙蔵本を基としたので、殆んど廻文句を収め得なんだのであるから、更に一層努力して之を追補する考えである。

 

    「俳諧繍花紋日」所載  言石撰 刊年不詳

はのきなやたれたしたれたやなきのは

 さくいろよはなにも似なはよろひくさ

 土佐のこまのがいや伊賀のまこのさと

 さむさのみさむさやさむさ身のさむさ

 さくのへの梅をやをめむのべのくさ

 さくらのみわかみのみかわみのらくさ

 鹿(しか)鹿子(かのこ)よせないなせよこのかかし

 池のきしくさはなはさく四季の景

 日をとめよ梅かなかん夜目遠目

 きゆるこの山もくもまやのこる雪

 もしやきゆけさのこのさけ雪や霜

 鯛なまこいさざにさざいこまないた

 友のきはらししらはきのもと

 もどろふか二かいはいかに禿ども

 

    「俳諧國風俗」所載  刊年不詳

 松の葉に蔦の名の立ッ庭のつま

 岸に咲ク名はけん(・・)花くさにしきけん(・・)の二字、恐らく過誤ならんも、原本には斯く明記しあり)

 

    「卯の花衣」所載  李窓撰 癸巳初夏 とあり

 庵に名は残して死後の花にほい

 急度して居間に詩二枚弟子と月

 句じりツ句師か()()く綴し句

 好に又飲すこす身の玉に疵

 草の名はしらす珍らし花の咲

 

    「中村李堂評五千句集」所載 奉納丸栖薬師堂 寛保三年刊本

 絵馬のみ歟そなはる花そ神の前

 君のみ歟臣もおもんし神のみき

 

    「俳諧こひす帳」所載 天保四辰年刊本

 野の岸に草花咲く錦の野

 

    「師恩月花集」所載 二徳亭収月点 寛政元年刊本

 日はいつみつきても出来ツ水いわひ

 

    「折句紀の玉川」三編所載 文政六未年刊本

 関に出た祝ひに祝ひ伊達に着せ

 中へ歌包ミ込ツ田植かな

 はれな舞大名のいた居間なれは

 記念なる子の残る泪歟

 詫て笛好ケとももとす酔て琵琶

 

次記の廻文句は、幾百の柳書所載中より抄出したのであるが、書名掲出の煩を避けて単に年代別に収録することとした。

又その中には、季と切字ある俳句らしいもの、否ナ全くの俳句も交じってあるが、是等は皆其の儘に収容して置いた。

 

    天保代

 照れ鏡元人々も磨かれて

 作踏ず野で取れ土手の角力艸

 こんだか兄と姉跡に赤だんこ

 苦に丈は育あけたとわけた肉

 鷹居た野末の家の田に姿

 待夜間来駕籠軽く一夜妻

 美濃風と夏酒さつな豆腐のみ

 こまつたそにくやわやくにそたつ孫

 身の為よしうとはとうし嫁たのみ

 田うへ笠早乙女同座栄うた

 今朝家内呑めや菖蒲の田舎酒

 妻の閨見越すも凄ミ家根の松

 無垢だ皆記念を見たか涙ぐむ

 栗ありと山の木の間やとりありく

 床コ敷くと思ひの紐を解く仕事

 身か大事寒さも寒さ敷いた紙

 木曾の奥主持もうし苦をのぞき

 つなき船淀人ひと夜眠き夏

 主も望む先祖の氏も氏

 絵馬のみか花見を見なば神のまへ

 かかつた子出来たかだきて炬燵哉

 聲ハ高なあかがり嬶ア永カたばこ

 煤はきよやれ起おれや夜着はすす

 孫だかば太皷羽子板博多ごま

 下駄はくなうぐひすひくなく畑

 桜のみながむる無雅な身の楽さ

 屹度妙大雅が書だ梅と月

 狸らか月に寝に来つはら碪

 狸とか聞ふ夜ふかき門ト碪

 希な事を軍サの作意男泣キ

 岸をむし月を見起つ新座敷

 人に似た案山子に鹿が谷に飛ひ

 照れば帆に見透す霞ミ鳰はれて

 遠くたた萕になつたたたく音ト

 まつの戸やうけだしたけふやどのつま

 

    弘化代

 松風に村雨さらん二世か妻

 穢事を仕たて目出たし男コ産ミ

 綻ひた身の是好ミ旅六部

 國の御田實のれ夫のみ民の肉

 御萬歳来たで目出たき勇む孫

 松茸に十月はきつと迯た妻

 母の乳の同し手品をのちの母

 願はくは朝起をさあわくは金

 元の名は弓取りと見ゆ花の友

 楽にとかつましくしまつ門に蔵

 苦をのけた佳ひに居ます竹の奥

 暮しさ日傘を境ひ差渡し

 しわい内尾ひれの禮を中いわし

白魚に若うど浮カば似合ふらし

記念(かたみ)下着にしたし見たかのこ

にくいなふ素またでだます舟びくに

黄な鳥の春告ケつるは法リと啼キ

祝ひ呑ミ今朝そ屠蘇酒身の祝イ

 

   嘉永代

御異見がしみてして見し寒稽古

元ト法のあふぎを祇王のりの友

盗の前清風がよき絵馬の歌

焼芋を鳩に餌ニとはおもいきや

遠くたた軒端を萩の叩く音

字にくらき田舎は家内気楽にし

六部裁ツはれ着の切レは頭陀袋

なせさほといやかるかやいとほさせな

する事をいらつもつらい男留守

神の留守かねの緒の音がするのみか

鰐の音や社ロ颪や堂の庭

柴の戸やわたる丸太は宿のはし

出来秋は庭の木の葉に掃あきて

すみれ咲野末た江ずのくされ水

わしか着た紋も小紋もだき柏

品川に葉月の疵は俄なし

縄の澁たぐつて佃藤の花

さあ開く朝貌がさあくらひ朝

下戸たけにはづして實は逃た後家

月に又村雲くらむ玉に疵

下の句か摺レしか知れず額の文字

せわしき間二反半田に蒔し早稲

 

    安政代

黄な花は菊に見憎き花は無キ

馬士の名は與作憎さよ花の駒

供おのこ旦那はなんた此萬年青

 

    文久代

肴今朝ふけて今日も酒長座

世の中は誰しもしれたはかな世の

 

    明治代

池の端に草花は咲く庭の景

池の輪に月を見起ツ庭の景

池の地の岸にも錦野路の景

池の岸清水見よき四季の景

池長閑草花は咲く門の景

池の桃八ツ峯見ずや百の景

池野自負書いたも大雅富士の景

潔よき和歌も百川清き才

抱く間の女は難を招く壷

庵よしと宿かる門や年用意

庵に来よ芋花は咲くよき匂ひ

伊賀に紀伊佐渡加賀か土佐壱岐に甲斐

伊丹でねとつくりグツと寝て見たい

伊丹酒樂座でさくら今朝みたい

伊勢屋妻病に今や待つ痩せ医

痛い事さし込む腰さ床いたい

家が樂うごかぬ囲う蔵が塀

家の主實父の死後の栄

家の老楽さよ桜庵の詠

家はとも持てとも迚元は兵

家の名は残して死後の花の詠

家の名は高野やの方タ花の栄

家の樂睦み富積む蔵の幣

家のみか孝をも應護神の栄

家の居士功徳やくどく死後の栄

磯に皆追風擢を波に添い

何地ても信は身萬事持て實意

何地ても曠レな身なれば持て實意

いい女裸体で居たら難を云い

いい女男のことを難をいい

勇なば直ぐやと約す花見催イ

今〇て寝だまして島田寝て仕舞 (バレ)

花の咲クのは開化葉の草の名は

母寝付聳へ這込む狐婆々

耻なきを磨かば鏡翁ナ皺

掃きのけた雪や早や消ゆ竹の際

葉の筋は長し短かな蓮の葉

春くれは雪や早きゆ晴れくるは

萩の景月を見おきつ池の際

萩の景雅連の群レが池の際

はれな身が基ひそ人も神なれは

肉の身かそれが穢レそ神の国

悪みなし悔むは無益ク支那皇国

二階では好キでは出来ずはて如何に

外カへ巾出来た子抱きて母笑顔

穂か出見ゑ田舎の家内笑みて顔

塀垣根闇の夜の宮禰宜が家

何処まても慎みしつつ持て誠

何処まても和に寄る世には持て誠

何処まても我徳説かば持て誠

何処まても謹慎信義持て誠

何処まてか夜討に忠よ勝て誠

遠の音がしみ〱しみし鐘の音

遠退きた風かこかぜか瀧の音

遠退きた深山ン寒し瀧の音

遠く只狸か碪タ叩く音

友の名は知らず珍らし花の本

供の名は平どのと言へ花のもと

友の身と信義を勤仕富の元

友感じ磨かは鏡信が本

富の苦よ稼くも癖歟愁の身と

取りもつを辞退を致しお積りと

床寝待ち長き時かな妻寝言

床敷くと思ひの紐を解く仕事

とんだ賊たれたもたれた屎たんと

塒にげたひよこも今宵竹に宿

樋の隅み湧き出す瀧は水の糸

飛立つも気強し代嗣持つた人

戸をたつやお祭り妻を〇つた音

迚も根がかぢけたけちか金持てと

粽司や軒れき〱の屋敷町

乳もここと立つとき取った床子持ち

乳呑よ泣な子泣な嫁の乳

乳たんと尼で居てマアとんた耻

忠よ義よ雪と身と消ゆよき夜討

忠よ義よ死後の名残し能き夜討

忠よ義よ仮名の其の中よき夜討

忠よ義よ誰しも知れた能き夜討

忠を胸良雄ぞ惜しよねむを討ち

忠義の士敵を見置てしのき打

忠義だか妻と子かまつ敵キ討

忠義だか知らず珍らし敵キ討

忠の名は千ン松ツ萬世花の内

忠なれば二騎出て敵に曠な宇治

忠を幹名は後の花君を笘ち

注意家は身の苦学みの若い内

注意家はしたしさしたし若い内

注意家は妻も子も待つ若い内

注意家は慈姑そ曰く若い内

痴の体を悔むも無益老の後ち

痴話に人よろこぶ頃よ年二八

痴愚の問ひ尻軽るかりし人の口

治の進路車座丸く論士の智

治の楽さ宗吾か功そ佐倉の地

智か基軸車で丸く挫き勝ち

千歳樂匂ふ協和に暮せ土地

散ると和歌詠し義家雅は取る智

李白が詩文字さへさしも四角張り

栗鼠か出た十字二重字立飛白リ

利子置くと積りて利持ツ徳を知り

利は負か借り金かりが駈回り

利子もなし確かに貸した品も知り

驪姫の床桜唐草琴の桐

留守守る日若夫婦かは昼も〇る

留守〆た權妻産後試し〇る

をかしみも酒呑の今朝紅葉顔

わるく無イどんどこどんと異ナ廓

我田舎車座丸く家内が和

和歌立田きしにはにしき立田川

孝の名は四方芳し花農家

香は惜しみ枯たを誰か見しお墓

改革世謹身信義能く開花

家内留守おん婆か番をする田舎

門トの糞たれたは誰た賊の徒か

樺色の下帯を出しのろい馬鹿

敵討たれハテ晴れた忠義たか

雅集四方八百善でおや催しか

春日野の蝶まで舞て野のかすか

雅の祝ひ目出度立目祝の雅

貝鍋した否か嬶ヤイたべないか

芳はしき蔵の地の楽四季繁華

画は大家好きても出来す書た和歌

彼句書く隅田て筆秘す其角の雅

川の名は鴨とて友か花の和歌

嫁子へは始め試しは這こめよ

酔ふて来て何んだち旦那出来て居よ

酔ふて来て何んだち旦那出来て居よ

夜討の夜深雪とき内世の忠よ

良き友は親しく仕たし派も時世

良き友は倶楽部で苦楽派も時代

能く富んでものたりたのも天徳よ

能き事をしたしさしたし男来よ

よき角の鹿よ来よかし野の月夜

高山は霞に見ずか濱舘

高い名で法りのみのりの花筏

田は月か洲崎にきさす杜若

高イ出洲よし切来した捨筏

狸音たしか聞かした遠碪

怠慢な坊主の數はなんまいた

寳妻一心實意松浦潟

唐薬は如何にも苦い吐くやうた

瀧の間や白雲暗し山の北

田は見つつ草花は咲く堤はた

田は月か照りもともりて杜若

玉の井を汲ム気脇向ク老の股

臺湾醫調て減らし婬賣だ

連の名は風柳々風花のむれ

尊前で畏みごしが天然そ

外は松よき日の式よ妻は屠蘇

摘みし野の若菜の中は野の清水

妻の琴やさしらしさや床の松

妻は留守好きても出来て〇るは待(バレ)

積みし苦は義士と等しき和久清水

月に聞き砧を狸聞きに来つ

月に又手出しをしたで玉に疵

月にまた白雲くらし玉に疵

月の戸や伊香保の外い宿のきつ

爪琴を弾きつつ月日男待つ

罪ミ人を活して四海落し水

妻琴を聞くにぞにくき男まつ

妻琴を弾し馴染ンた男まつ

作り瀧借り着日限りか来た理屈

慎めよ好きでも出来ず嫁〇つつ(バレ)

集ひ来つけふも夜もふけ月一ツ

集ひ来つ詠みて寝て見よ月一つ

集ひ来つ妻も子も待つ月一つ

集ひ来つ車座丸く月一つ

妻の功和に帰し気には雨後の松

包めとも馬鹿気た怪我は求めつつ

寝たるのみ十月で急度實る種

寝な〇よをなんだね旦那およしなね(バレ)

寝間の耻酒飲ミの今朝痴話の真似

寝かすとも貸たは慥か戻す金

根か蠶桑太つてつとふ湧く黄金

塒留守梟か六部する楽寝

寝こざ出し田舎の家内した雑魚寝

寝かすやふ欲の身の苦よふやす金

根がたしか家賃か父が貸した金

寝てふざけ教師と娼妓ふて寝

寝て島田年増にましと欺して寝

寝て待つ寶又摩〇が立迄寝(バレ)

眠き夏虫を寝をしむ繋き船

寝たひまをわたしを〇たはおまえだネ

長き夜の狐とそ来ね月のよきかな

長居する妻は母待つ留守居かな

長き葉に伸る春日の庭木かな

長き納屋南に南柳かな

永き日に馴染むは貉二疋かな

流し元蟲探さしむ灯しかな

名は残し柳翁ナや死後の花

名は残し辛苦に勲賜死後の花

長唄か宇治かをかしう河東かナ

名は残し夜討そ忠よ死後の花

中へ唄包み込みつつ田植かな

何ンだまア年増がましとまア旦那

名和の忠位も開く氏の花

名は残し軍人辛苦死後の花

名は残し辞世を申せし死後の花

名は残し物足りたのも死後の花

ナア何と貝片身とんな穴

楽にらく願はくは金ネ蔵と庫

楽の身と喜ぶ頃よ富の庫

無念さに身の苦学のみ二三年

群れ来なや供用今日よく柳連

群れ来なやとんとことんと柳連

群れ来なや親しく仕たし柳連

村雲よ月の戸退つ夜も暗む

聟寝酒仲よき夜かな今朝寝こむ

迎ひ酒妻すねず先ツ今朝火燗

村芝居仕ながらかなし意は知らむ

美しへ女の難を医者苦痛

梅と月和亭がかくときつと妙

旨く今朝呑めや菖蒲の酒汲まむ

内に居て待つ気能き妻貞に忠

囲碁の藝中よき世かな池の鯉

居ては待つ留守に気にする妻は貞

野瓢出す花見や見なは隅田上野

老の名は誰れやら破れた花の庵

唖へ来てかき口説気か敵へ塩

老余慶楽屋て櫻生よ庵

老楽は家内能い中櫻庵

国の利となるとて取るな鶏の肉

草の名はひろひろひろひ花の咲く

軍士の智天下掴んで治の辛苦

軍士の智日本進歩は治の辛苦

君子の慈早起き親は治の辛苦

桑摘みし畑の根の田は清水湧く

桑摘みし山の木の間や清水湧く

車屋はてんてるてんではやまる愚

陸地皆家數静かや浪近く

黒櫃をひだるがるたびおつひらく

桑の根か生へた方へは金か湧く

クヤの事喜助は消す気床の役

国の美事東の市街慈悲の肉

苦と思ひ十月目屹度紐を解ク

蔵も出来家内よい中来ても樂

蔵の栄月に日にきつ家の楽

君子元ト苦学に苦学友辛苦

暗き晩泣くな兒泣くな乳母気楽

黒木氏は能き成績よ和史記録

櫛などをよろこぶ頃よおとなしく

国の士気勝取る土地か姫氏の肉

愚はつらし身の錆さのみしらす湧く

痩犬に握キとは時に似ぬ伊勢屋

焼芋を握って次に思ひきや

孫抱かば太鼓羽木板博多独楽

孫のるは喜ぶ頃よ春の駒

待つむだ寝廊をわるく妬む妻

待夜飛立ツ居寝入た一ト夜妻

又けふもトンタクたんともふけた間

まやかすか春鹿知るは春日山

松茸か好かぬとぬかす欠けた妻

幕の縄長く引くかな花の隅

又たへず磨かば鏡据た魂

又のしと印シもしるし年の玉

真仮名間ふ手爾乎葉をにて歌仲間

間夫は出来何だか旦那来てはぶま

松の戸や機織り唄は宿の妻

祭りとて雑魚寝に寝茣座手取り妻

また揚羽止まる丸窓兀あたま

松の名は恥かし且ツは花の妻

袈裟を着て羽柴暫しは敵を避け

袈裟と云ふ女て難をふいとさけ

下座美妙清元もよき梅見酒

今日も直が飛白は栗鼠か金儲け

今日も直が伸ひしと糸師金儲け

今日も直が安くて屑屋金儲け

下戸口説きすつぱり外す奇特後家

今朝父母に飲や菖蒲の匂ふ酒

今朝家内呑や菖蒲の田舎酒

下戸に屠蘇顔がほかほか外にこけ

今朝いかむなどとひどそな迎ひ酒

今日打し花が高輪四十余騎

煙立ツは孝子ぞ秀歌初手向

今朝の菜はしたしにしたし花の酒

景のとか水きよきすみ門の池

景気よき糸久樋どい清き池

煙に船利に寄る代には眠る武家

今朝も先つ徳利グッと妻も酒

今朝立ツと島田を欺し取った酒

今朝深雪呑よと嫁の雪見酒

今朝たつよ舌も重たし酔た酒

今朝いかむ額ひもいたひ迎ひ酒

毛股見ゑ何所の〇の子と惠美たまけ(バレ)

〇が多て旦那はなんだ手をおかけ

今日も玉弟子嫁がして又もふけ

今朝花見旦那はなんだ皆は酒

今朝いかむ留守を苦にする迎い酒

今朝の庵呑む積善の老の酒

實に弱き敵がもがきて騎馬夜逃げ

今朝皆はうち群れ夢中花見酒

今朝の鱚もて来やきても好の酒

不圖逃けた鶯低ふ竹に飛ふ

不圖富樫笈から貝を聢と問ふ

ふと起キつ田毎は何處た月を訪ふ

太さかな握って次に長さ問ふ

富家は地が元田畑とも家事は株

此疵は狩居るおりか初木の子

此疵は萱か千芧か初菌

御萬歳軽ル口操るか勇む孫

腰撫て嘆く憎けな爺なし子

肥たらば庶民に見よし腹太鼓

御鳳輩拝む民家を無量保護

事をする年増にましと留守男

駒の綱長く引くかな夏の馬士

後家は如何にも若い廢さうか

国家を見強訴に宗吾身を覚悟

好み品出し無心した馴染の子

這は誰そ二度も手許に翦れた羽子

権太坂休みに見ずや笠団子

御威勢が布達に伝ふ改正後

極楽は苦なく慾なく吐く落語

高祖厨子尊みとうと秘す倉庫

恋しさや父母にも匂ふやさしい子

出穂も中今年はしとこ富士詣テ

嬢も身軽く願かくる神詣デ

弟子中で車座丸く手打ちして

穴広くトンネル粘土黒ひなア

咲く色よ花の其名は鎧草

坂の本清水に積みし友の笠

櫻の詩忠よ義よ内士も楽さ

咲く後はむさくなくさむ針の草

咲く法りの華の其名は法りの草

咲く身か富岳道徳か深見艸

咲く菊にかしけた器栗の憎き草

賛成は洲崎に気さす盃洗さ

賛成は誰しも知れた盃洗さ

さし萩に八重と一重や賑はしさ

櫻軒キ田舎の家内気の楽さ

サア熨斗と戴いた臺年の朝

サア熨斗とよろこぶ頃よ年の朝

岸に波我立田川皆にしき

木戸皆は留守居もいする花見時

姫氏に又實リあら方玉錦

君が名は長閑な門の花の幹

銀婚は能き氏の式よ半金儀

義の辛苦帝王置て君子退キ

清元の独吟きくと咽喉もよき

菊の世になりしを知りな豊の茎

消ゆる又庭の木の葉にたまる雪

君の酒飲む積善の今朝の神酒

岸暫時覗いた磯の新座敷

金縁をかけたのだけが伯父紛議

其角めは濡れしかしれぬ嵌メ句かき

黍こいた雇ひの人や大根曳

黍こいた嫁もやもめや大根曳

木か竹か見すかす霞影高き

来つつ間ひ田毎はどこた一ツ月

気や田舎廊を悪く家内やき

啄木鳥が続きて来つつ垣続き

啄木鳥の覗きぬ木曽の軒続き

木つつきが鳴くぞ覗くな垣続き

帰天齋手品をなして勇んで来

謹慎で居たりやりたい電信機

北に立つ白雲暗し蔦に瀧

北南桃もすももも皆見たき

疵でまつてれつく連て妻出好キ

偽ではなし大雅の書た品は出来

菊の香は神の好みか和歌の茎

謹慎で読め読め読めよ天神記

消ゆる雪又庭に玉消ゆる雪

君仁慈民の好みた神事造酒

貴新庭揃ひ手広そ移転式

岸寒し白波見はらし新座敷

岸暫時入る風軽い新座敷

来ては間夫納戸でどんなぶまは出来

譲るとも亦葉には玉戻る露

雪に摘み若菜の中に水に消ゆ

雪に打ちはらし義士等は忠に消ゆ

目をとめよ鴨か真鴨か夜目遠目

女夫来つ宿かる門や月と梅

飯に又始末につまし(たま)煮染

皆は問ひ長閑に門の一ト花見

身の果報今朝も其酒父母が飲み

見渡せあ照りも積りて早稻たわみ

三田の伯蚕糸の審査桑の民

御神楽日逢とは岩戸開く神

身の楽さ長閑家門の櫻の實

見よ子供正月かよし元ト暦

皆春で櫻田楽さ出る花見

宮の名は知れど見とれし花の闇

孤児を憎しと直に起し浪

御代静軍人辛苦数字読

水至急俄かて川に浮キ沈ミ

見つつ出す葭蔶も鮨よ隅田堤

水筋は山の木の間や橋凉

皆春で苦なく慾なく出る花見

皆春でどろどろどろと出る花見

皆春よドヤドヤドヤと寄る花見

御代を賀し苦なく欲なく詩歌を読

御代を賀し大家の書た詩歌を読

皆は酒呑よや嫁の今朝花見

見て〆た同じな品をためして見

身が基ひみががは鏡人も神

身は鏡魂も智も又磨かば美

三ツ出す持句駄口も隅田堤

身の為よ慎みしつつ嫁頼み

新産婆こまつた妻御半産し

真実に大家の書た日清史

縞低価利を薄う織り買人増し

鹿の来つ新草喰ひに月の川岸

仕方なし見越しの仕込品高し

仕たし樂どんどんどんと暮したし

詩歌余す月見浪来つ須磨明石

白萩の垣根は禰宜が軒端らし

舅の賀樂寝のねぐら辛丑

柴の戸や畑打つ唄は宿の端シ

支那も土地占めたるためしチトもなし

支那は李爺男ぞ事をやり放し

支那で李氏用ひる位置も尻てなし

支那取った美談反対たつ徒なし

支那の國下等の豕か肉のなし

支那姑息皇国を憎み屎となし

支那新誌造りし理屈深思なし

支那も皆和に帰し気には浪もなし

支那と仏蘭西和議は済む浪徒なし

支那皇国親しくしたし憎みなし

支那皇国和して果しは憎みなし

支那も皆鎮定天地浪もなし

士の楽に名は後ちに花櫻の詩

死後の名は錦歴史に花残し

死なば名は遺勲にむくひ花々し

死出の田見實父の仏事弥陀の弟子

死後の花楠氏義臣な名は残し

師は傳ふ流儀で究理二ツ橋

信心が届いていとど感心し

親睦は雅も問ふ友か吐く本志

吝ン坊に白魚は売らじ日本橋

しよが留守手出しも仕たで〇るがよし(バレ)

仕たし樂儲けてけふも暮したし

白旗が人足損に肩はらし

下紐を夜毎の床よ思ひ出し

下紐を解キし座敷と思ひ出し

信心家開化に  かんしんし

信心は身の徳とのみ感心し

しかれとも玉ノ緒ノ又戻れかし

新政は皇国のにくみ敗戦し

信田妻花の身の名は先つ楽し

信田妻男の事を待つ楽し

仕〇い先キ出雲でも遂イ記載なし(バレ)

信玄か無慈悲を秘臣諫言し

下を撫づ倫言權理綱重し

四方拜新禧の謹辭祝ふ端シ

品高し吝くて喰はじ仕方なし

辛苦民土台の意だと見た君子

新聞紙同じき品を新聞紙

仕立女を妻と一トまつおめてたし

白雲の月の此疵野もくらし

正月は弟子入しては都合よし

品物も少ナしなくす物もなし

眞宗寺宗教教師周旋し

実体よすねずくすねずよひ丁稚

慈悲のみか弓取りと見ゆ神の秘事

下男納戸で鈍な事をも仕

柴の庵苦なく欲なく老延し

新聞で知らず珍らし伝聞し

姑エも手出シを仕たで燃通し

絵馬而巳歟()(ささ)も捧く神の前

絵のかいた贋ものも銭大雅の絵

日の實意同盟妙と一時の美

人も清らか開化からよき基ひ

日の進路海外凱歌論士の美

日の本意四季にこにこし糸伸

檜の句見る度樽見苦の気伸

日頃代を祝ひつ祝ひお喜ひ

人行かば洲崎へ気ざす者同士

人や性委しく吝く伊勢屋問ひ

人も玉苦か身を磨く又基ひ

人も草堪忍仁が咲く基ひ

日頃代を翁苦なきを御喜ひ

一ツ日よ花見に皆はよび集ひ

人にも苦楽咲櫻雲に飛び

元の苦が名誉のよい芽学の友

持て誠花しばし名は何處までも

元の名はツヒ能く呼ひつ花の友

藻刈り船月をば置きつ眠り鴨

元の名は知らず珍し花の友

元の名はかはりけりわが花の友

百モの酒酌む身は見向く今朝の桃

基を取り仲摩間がな李杜を友

遷都の後徳川斯くと此遁世

施主が其死後の名残し供が辞世

施餓鬼なや實父の仏事柳風

蝉の来た時よりよきと瀧の見世

世話に元成つたて立ツ名共に和せ

杉きつた山の木の間や立つ雉子

捨案山子弓取と見ゆ鹿か出す

洲崎いつ出ても表でツイ気ざす

救ふには支那では手なし和に服す

 

 大正代

池の端に夏は奇抜な庭の景

いか売りかもうけて今日も花柳界

出ダしネイ人望万事金次第

池の辺や草も木も咲く八重の景

池の端に八ツ房藤や庭の景

倶樂さ車座丸く櫻本

神の留守遠き瀧音するのみか

賀の祝い歌て目出たう祝の賀

妻来なよ化木ときけば夜泣松

ないた蝉二階はいかに見せたいな

名は残し位で開く死後の花

長居する喜助酒好き留守居かな

なかつた子もうけて今日も炬燵哉

胸着たし勲章千苦した記念

無代柿なるとてとるな木か痛む

松蟲を開くにも憎き惜む妻

今朝特によき支那式よ肉と酒

今朝は呑み酔ふたうたふよ箕輪酒

今日も板届いていとど多い儲け

岸に咲くかきつに月が草錦

消る又白雲黒したまる雪

弓もつた案山子に鹿がたつもみゆ

水鏡びくり襟首みかかす見

見たか句を手際に吐て置くかたみ

下紐を貸したかたしか思ひ出し

しのぎ打決死のしつけ忠義の士

妾も笑み嚝着を着れば見得もよし

鴨ふたつ連つもつれつ傳ふ岸

人でなし逆サに読めば支那で土匪

責任緒田舎の家内恩にきせ

杉戸とぼそにまつ間にぞ時鳥

済します借りた二人か済します

 

以上廻文所載の原本には、悉く作句者の雅名を付記してあり、又予の拙作も載せて置いたが、今その句主名まででもあるまいと思い省略した。

そして廻文句は前にも述べた如く、古来難題の一つに数えられてありそれだけ錦繍の名吟に乏しく、寧ろ拙劣にして且破格の駄句が多いのをれいとするが、これ等創作者の苦心努力は亦一顧の値なしとはしないから、敢えて之を取捨せずに抄出した所以を一言して終わる。

 

追補

  「折句芦邊の鶴」所載 文化十三年刊本

木曾の奥主持もうし苦を除キ

庵咲く萩の軒端艸生い

老の気は虫の音のしむみ萩の庵

雪八分崩れ晴れ透く不二は消ユ

見つに嚊聞くにも憎き嚊に罪

元の主宿乞ふ門や宇治の友

主も主望む先祖の氏も氏

員字回文

 万二十五四一万二万一四一五十二万間夫と恋能い間に毎夜日毎不間

 

「俳諧若の浦」所載 刊本不詳 文化文政年中刊本

なかく忌を七代たちしお菊か名

鷹すへて野末の家の田に姿

草ぐきの鵙なく夏も野菊咲

麥つきを寒さやさむさ置頭巾

狸とかきかふ夜深き門きぬた

菫咲野末たえすのくされ水

こり果ず菊に見憎き捨割籠

妻は床葛飾しづか琴ハ松

 

 

 

廻文句は順逆どちらから読んでも同じ語に成るようにつくるのであるが、他に復一句二吟と称して、廻文の漢詩に倣へる次の如き例句あるを珍とすべきである。

(すご)き坂消ユ原ぞ月(かと)()かす

す越着笠雪は空つ来歟止波歟洲    芦邊の鶴

 

萩の景むしの音に酔新さしき

際の池むしの音に笛し寒岸      俳風櫻多留

 

 

 

               やなぎ樽研究へ 掲載

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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