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一七六十八年      

明和五戌子年 五十一歳

 

七月誹風柳多留三編板行せらる

林述齋生

斉藤彦麿生

鶴田卓池生

草川宇橋生

芍薬亭長根生

二世並木五瓶生

勝川春英生

通用亭徳成生

蒲生君平生 君平は勤王以外に川柳趣味を有し佳吟名什に乏しからず、三島吉太郎編纂の蒲生君平全集には洗練の秀句百五十吟を収めたり。其の中四十五首を次に抄録して参考とす

祐筆が家中の悪を皆覚え

鴬の女中を招く笹折戸

誓書く紙も箱根の禰宜に聞く

軒毎に柿干す村は覚えよく

川渡り狐教へて近くなり

櫻井の宿で残らず言ひ含め

人まねは虎を画いて犬になり

役者まづ霜踏み初むる大師道

出放題咄して殿をくつろげる

あの中は耳を掩ふて鈴ぬすむ

出立の諸品を崩す通り雨

良媒のないも悔まず只机

わが宿の物なりながら奉公人

牝鶴の朝めする家あぶなくて

貧な時添ふた女房に ふかき

戸へ這入る時は帯より下を見て

気転ない生れ聟に似たりけり

葉尽きては山から村の夜なべ見て

物陰でようす定めの歌を聞き

にこにこと来てはほくろを数へられ

聖護院様を女にしてみたし

忍び路で肝をつぶさせ大笑ひ

君出でて居ると見る夜はなほ涼し

口説くをも白歯の側のかなつんぼ

相性を探れば間に薬鍋

昨日まで湯で見た娘今忍ぶ

もつれたをもくろみに功者来て添はせ

隠す事持つが不幸の初手と成り

うつり気の言ひかはしては世に恐れ

解け過ぎてげこの笑ひのうそぎたな

問へば云ひ問はねば内気すかしかね

何時の間にうつりぎついてむごい文

年だにも十まさりにて惚れにくき

手を拍て逢始め繰る夫婦中

逢見ては心一筋つなぎかね

我恋はまたも〱に喰さるる

倦まれては干潟の船の見ざめ勝ち

暁の君息見えてはしたなき

口説くにはいやがる事も端となる

夜もすがら物案ずるは子の旅寝

明けやらで寝屋の火桶も掻き探し

筑波根の見ねば恋しく路吹で咳き

有明のつれは戻るにいちじなし

忍ぶれど色にお前の物惜み

心にもあらで浮き立つ座も勤め

 

正月九日二代目榊山小四郎仙聲没年七十二

正月十五日高橋慎省没年五十二

五月二十三日英一舟東窓翁没年七十二

二月六日野田剛齋没年七十九

三月七日四代目榊山仙山没年二十九

四月四日白井鳥砕没 松原庵、松露庵、初牧羊と号す、江戸の人晩年大磯鴫立庵に住す、一説に明和六年没すと

四月九日何文國没年六十七

五月二十四日二代目坂東彦三郎薪水没年二十八

六月二十五日香川冬嶺没

八月九日蘆田鈍永没年四十五、九如館と号す、後狂歌師となる、一説に明和四年没すと

八月二十五日人見蝶之没年五十一芳草亭と号す、京都の人、  辞世

極楽の道を西へと渡り鳥

九月十八日村田春郷顕義没年三十

十月六日藤井芝蘭没年五十八

十二月十一日原白隠寂年八十

 

三月大師河原村百姓太郎右衛門と云う者砂糖を製し弘む、製造法の伝授を受ける者多し

大師河原へ連立つた七十五

大師河原へ行つたあと女房逃が

夜の気は大師河原のつもり也

品川のうてとけ大師河原也

四十二は大師様ぎりにと帰り

川崎へふり袖を着てげい子行

初夢を大師のつれにはんじさせ

長髪でだいしへ参るむずかしさ

仲間われ川さきどまり二三人

待人来らずだいしへ参るなり

厄年に東海道をちつと見る

やくよけへ行振袖は売残り

二十五と四十二で込む渡舟

わたし船四十そこらと二十四五

あなたもかわたしも三ンと万年屋

厄年はけんとくでよる万年屋

大した道なら茶はかめや万年屋

縁遠ひふり袖の来る万年屋

島まうで先ず中食は万年屋

役人がぞろ〱這入る万年屋

むづかしひ年があつまる万年屋

九や三を二がつれて行万年屋

十五年目にて内儀は万年屋

万年屋十五年目で内儀くひ

十五年目でかきがらへ手を合せ

うろ覚え十五年あと来たお寺

艸冠へ首尾よくまたぎ嫁河原

大師から観音迄はうそばなし

大師から帰りに安い雛をかい

四月五日夜八ツ時新吉原江戸町二丁目四ツ目屋善太郎といふ遊女屋より出火、廓内不残焼失し假宅は百日間今戸、橋場、山谷、鳥越、浅草、並木町なりしと、明暦三年引き移りてより本年に至り凡百二十年にて焼亡、延宝四辰年の大火より九十三年目なり

百年も過たに新といふ所

大坂からは女郎屋越して来ず

吉原は大坂斗り他人にし

吉原は知行に持って見たい所

吉原は儒道が一つかけて居る

吉原で武道勝利を得ざること

吉原へうでよりかたで早く行き

吉原へ二三度いつて気の高さ

吉原へいつたとやぶれかぶら也

吉原さなどと母にはつよく出る

吉原へ行くはとていしゆやつてのけ

吉原へ男の智慧をすてに行き

吉原へ廻らぬものは施主ばかり

吉原へわらもう日に息子行き

吉原にござると卜者さばけ者

吉原見物ならつでがあるぞへ

吉原のはりが江戸往来にもれ

吉原は下から先へ夜が明ける

吉原のうら門とんだ所に有り

吉原のうら門出るとしめられる

吉原に居るにへきらくまでさがし

吉原の夜は昼迄にやつと明け

吉原のつぶれた夢を母は見る

吉原のじやまはすいくわを買てくひ

吉原の御つぼね並みの人でなし

吉原のと知らずにあてるはかま出し

吉原へ来てはいびつな位をふるひ

吉原と金は見せると気が替り

吉原の狐は人に尾を出させ

吉原の狐女房を持つとおち

吉原へはじめて伺公つかまつり

吉原で聞けば赤子も愚痴な聲

吉原で招ぐ尾花はむづかしい

吉原のひんかく月に影もなし

吉原も市の仕込に文をかき

吉原は蛍斗が通りぬけ

吉原も四十里先はけちなとこ

吉原の鳥羽の雛宿はたがをかけ

吉原の格子もときにあはぬなり

吉原はいたし音羽はかゆいなり

吉原が明るくなれば内は闇

吉原が明るくなつて眼がさめる

吉原がなくばと思ふ時があり

吉原で雀といへば恋になり

吉原を大念仏ですすめこみ

吉原は町人ふぜいいはぬ所

吉原が江戸の疵だと親父いい

吉原はふり袖に目のつかぬ所

吉原はとうかへ行くにてれる所

吉原に居たと知らせる御こしかけ

吉原の咄をさせる小屋がしら

吉原でふられた男あづさに出

吉原は朝日品川は夜のみだ

吉原は鳳凰四谷とんびなり

吉原は蝶新宿は虻が舞ひ

吉原へ尻のとげるは紬で来

吉原の鰐が見入れて紙が散り

吉原を一見しようとたわけ者

吉原でひにんのそうをはたす也

吉原へ通ハせる罪通ふ罪

吉原が引けますそうと堀をほり

吉原へ紅葉をこぼすつむじ風

吉原を三うねり程にほととぎす

吉原中をへんれきし只帰り

吉原がいつち下直と初会ぎり

吉原へなぐれてそばへへどをはき

吉原へ津ひにはなびく青柳の

吉原の袖はおとわぢやとめられず

吉原のまだ気のぬけぬいびつ也

吉原の道を蛇の知る暑い事

吉原は小袖で長くほととぎす

吉原で恥をかかせた咎で去り

吉原さなどと入聟謡講

吉原も市の仕込に文を書き

吉原は雪見にころぶ所也

吉原へしきみの元手借にくる

吉原に居るから里見山といい

吉原へ行をこわがりふりて逃ゲ

吉原は徳だと一度買たやつ

吉原の方へ死んでも枕をし

吉原ばかり月夜かと女房いひ

吉原でいつち高いはばばあなり

吉原がひけて思案は入らぬ橋

吉原のぎうさと女房にくくいひ

吉原は何ンでも壱分する所

吉原へ蕎麦喰に行くきついこと

吉原と知らずにあてる袴腰

吉原へたまには売れる女足袋

吉原も中山道はなん所なり

吉原や手鞠つく手も八文字

扨吉原を見ましたと母はいひ

真っ暗な吉原へ来る青梅鎬

女房のりくつ吉原みぢんなり

くろう性母も吉原通ひなり

そら色で行吉原は久しぶり

ねこもしやくしも吉原のじやまをする

とてもうせるなら吉原へうせをれ

雪隠の道で吉原飯をたき

客の迯行吉原のもなかなり

生き吉原を番頭終に見ず

富士はあつち吉原はこつちがよし

二度行かぬ気ならいつちとく

何となくにくいは吉原のばばア

あじきなく下女吉原の供をする

不働らきよし原もやみ自宅も闇

よく〱の馬鹿吉原も三日居る

病根はただ吉原の夕景色

上下で行く吉原は小言なり

徒党して吉原へ来る寺くづれ

市もとり吉原へよるまめなやつ

八月と師走よし原こわい所

ざんぎりの相を吉原にてはたし

けつこうな事吉原でそッ中風

さて安い物と吉原買はなし

ぜんまいを背負って吉原中尋ね

馬鹿な高慢おらがかさは吉原

御納戸金が吉原へ三度落ち

吉原の酒お歯黒に流れこみ

面白い筈二ケの津が寄て居る

僧はさし武士は無腰の面白さ

悪所とは罰のあたつた言葉なり

月花も甚内にある一と構へ

吉原のうにとこたちは甚右衛門

花咲かせ爺々イは庄司甚右衛門

よしの根は絶えて後には女郎花

葦切の後に鳳凰今は住み

吉原は江戸時代に於ける社交の中心点にして、この時代に発達せる江戸文学、特に我川柳の如き吉原花街を主し江戸時代生粋の風俗を謡へるもの殆ど其の過半を占むるの状態にて、悉く之を網羅せんとするは容易の業にあらず、且つ本書の主眼とする所にもあらずと雖も、亦川柳の史的研究上等閑に附すべきことにしもあらねば、吉原花街の内外に関する柳句中、他の係属條下に登載しあらざるもの即ち五丁町、衣紋坂、見返柳、四郎兵衛番所、九郎助稲荷、遊女、八朔の白襲、新造名代、禿、遣手、女衛、お針、妓夫、文使、廊内の遊興、私刑、居続、大一座、朝帰り、息子の勘当、素見物、浅黄裏及び四ツ手駕その他川柳に描かれたる吉原風俗の主要句を概括して爰に収録す

衣紋坂夜は一人明ケ二人明

衣紋坂四ツ手いきおひさかん也

衣紋坂遠乗馬をつなく處

衣紋坂四斗樽ほどお日が當り

衣紋坂股引とまで月迫し

衣紋坂こや人間の不老門

えもん坂かへりにつけた名ではなし

よくむごくしたと追ひつく衣紋坂

一日は蛇の道になる衣紋坂

我知らず胸へ手のゆく衣紋坂

千両のみたけて通る衣紋坂

降り出して鞠の流レるえもん坂

見てやみなん月迫の衣紋坂

きつい奴衣紋坂からはづすなり

五十間行く内門のきわに立ち

日本から極楽わづか五十間

極楽と此世の間が五十間

八町と五ちやうのあいた五十間

千両で〆出しになる五十間

四十四五間目で四ツ手はおろす也

出口の看板誰にもなびき候

こんな腰ありと出口に植えておき

やめてから出口の柳蛇の如し

もてた奴ばかり見返る柳なり

見返れば異見か柳顔を打ち

傾城にざつとやなぎをあいしらひ

首尾の松あれば不首尾の柳あり

花よりも柳の詫びはもつれたり

風に身をまかす柳の一構へ

女郎屋の掟をひよぐりながら讀み

昼素見制札などを読んでいる

田町からもういひわけの無いところ

田町ではそり衣紋ではのめるなり

田町にてえんやらやつとまめ本田

もどりには田町にしやれのたられぬ

どつちらも田町は足の早ひ所

ここいらに門を欲しいと田を巡り

國者に家根を教へる中田甫

中ぬきのふんごんで有る中たんぼ

云ひ草を考へあるく中田圃

紅葉までなぶつて通る中たん甫

ぬからぬ顔でふみ込は中田甫

嫁菜をそば蹈附けて行く中田甫

中田甫本気であるく所でなし

田甫からむかふにあたる鬼が城

月花の定坐五丁の徳場なり

面白く田地を五丁おつふさぎ

男の労痎五丁で直すなり

ほり出しをする気で五丁中のぞき

一ト聲で五丁をなぐるほととぎす

聞き足らぬ初音五丁へ一字あて

化けるのが二丁化かすが五丁也

もろこし弐本で五丁を廻るなり

供部屋は五丁の酒のうわさをし

むらさきともみ斗り有る五丁町

金のつる若ひでもつた五丁町

これは〱とばかり花の五丁町

極上に上々ならぶ五丁町

にうめんに灯のとぼつてる五丁町

星入りは却て高い五丁町

角のない鬼の生まるる五丁町

生んたのをかたわのやうに五丁町

時ならぬれいふくを着る五丁町

子をすてる藪とは見えず五丁町

地震には雨垂のする五丁町

字あまりの家名を付ける五丁町

五丁町苦ひ茶は無ひ所

五丁目は親には所在あつて行き

五町中歩ルいて百が買て来る

五丁町殿に燕雀つきまとひ

五町見て買ふのが無いか帰るなり

五丁町思案の外に立けふり

大坂を入れると唐の一里也

江戸町は京町の色奪ふなり

江戸町へけんぎやうもてる道理也

ありがたひ八百もいふ江戸の町

六郷をこえるとみえる江戸と京

京町へくるほほづきはえり残り

京町へ行っても張りは強いなり

京町の鏡をあるく田草取

京町へとまち鳥の袖頭巾

京町へ江戸をくらつた客が来る

京町で居続客の東山

京町は沢山すぎる初鰹

京町の猫は通はぬ伏見町

何時の間に消えたか京の大文字

一ト聲を京は江戸できくほととぎす

八千をのけて其後は京で鳴き

角町をのけてのけて入れたき浪浪町

角町へ股引の客つきがよし

角町に立つ股引の素見物

綱も及ばぬ角町のうら通り

中程にあつて角町とはどうじや

股引で角町河岸へ上るなり

紫と紙子を仕切る揚屋町

通ひけり江戸中の猫揚屋町

雨垂におひまはされる伏見町

疵のない人は通らぬ伏見町

傘を輪違にする伏見町

誰もかまはぬに伏見町からぬけ

竹村の近所にはいい伏見町

竹村の近所人ならび

百介は伏見町からすつと抜け

ひしこ売伏見町から河岸へぬけ

七軒が同じ祝儀の言葉なり

七軒ではられん草のこともいひ

七軒で七文が売る齋売

野暮は今七軒あたり犬の聲

金時が行きさうな所羅生門

百文のまはりは早い羅生門

寄って行きなんしとつかむ羅生門

羅生門綱おれが行べいと云ひ

羅生門腕をぬかれるかとおもひ

羅生門鬼までかたわものに成

金札を立てさうな所でたつた百

百目玉首へからんで鼻へぬけ

鉄砲の疵年をへて鼻へぬけ

鉄砲見世に鋳直しの玉ばかり

おきあがれ鉄砲玉まで郭訛

大騒鉄砲見世の玉がそれ

お百さんお盛だねと戸へもたれ

河岸の文商人などの手で届き

河岸つとめ向ふの人に事をかき

河岸へ行事など本田ひたかくし

材木屋やろうがかくで河岸をとめ

たんぼからすつほんに呼ぶ河岸の客

かき立てて二軒あかるい河岸の顔

字廻りは河岸へ田螺のつぶて打ち

新町で顔をむかれる安い客

新町を洛外などと牽頭いひ

行燈は百と百とのむすび玉

大門をはいると地ものかげはなし

大門の前日月おそひ也

大門を鷹もじろりと見て通り

大門に内儀はだしで待って居る

大門へこのしろの入るにぎやかさ

大門をそツとのぞいて娑婆をみる

大門を出ると思案にけつまづき

大門へつけ人をして腰をかけ

大門は片手わざにはいけぬなり

大門の扉かたかた五百両

大門を団扇と虫が入かはり

大門はまんぢう杯で出ぬところ

大門へ目つけをつけてこれを見ず

大門でむすこ取れたと五六人

大門と田圃へ追手五六人

大門の迷子はあした帰るなり

大門で我は化けたと思えども

大門を出る病人は百一つ

大門を一合にてふけわたり

大門を薙髪で出る恥しさ

大門を口といふので水道尻

大門の内はたいこのたなこころ

大門をたいこについては入なり

なんにも植ず大門で事はすみ

三保谷になつて大門かけ出し

どこに目があるか大門知れぬ所

にくいのを待ツ大門の朝ほらけ

江戸見物は大門でどなたさま

一日で千両までは使はれる

千両でひぢ坪四ツ聲をあげ

ひぢつぼか一つで二百五十両

女の童大きな門につけておき

せいろうの葢片手では〆られず

一箱の主でも駕で入ぬ所

すだれ越しカツペしのぞく後免駕

四郎兵衛は門と五町のまもり神

四郎兵衛が昔居た所かなものや

四郎兵衛はいくよねざめの姿なり

四郎兵衛あたりなべかまとりちらし

四郎兵衛もひやうひやく交り暇乞

四郎兵衛に非ばんをさせるきつい事

四郎兵衛を怖ろしがるが怖ろしい

四郎兵衛は伊賀衆と湯の見知ごし

四郎兵衛はがふ首尾へんじやう男子也

四郎兵衛が関へも千鳥かよふ也

四郎兵衛が関乗込むは医者ばかり

四郎兵衛が関へ手形を女房出し

四郎兵衛にとかまへられるふぐりなし

四郎兵衛に女之介はとつかまり

四郎兵衛をしかつて追人かける也

四郎兵衛は穴で四五間遣過し

四郎兵衛が関所やぶりは高がしれ

四郎兵衛が男とおもふ運のよさ

四郎兵衛から受取柱へくくし

四郎兵衛が尻はずらりと黒い塀

我が通ひ路の関守は四郎兵衛

花守りの生れ変りは四郎兵衛

女をいけ取り手がらは四郎びやうえ

八朔に四郎兵衛しごく能い名なり

かごにのるまで四郎兵衛がまへに立ち

迎ひの女房四郎兵衛と下けんくわ

黒塀の内に四郎兵衛すはつて居

摺ふ木と手桶見たひしと四郎兵衛いひ

女人成仏四郎兵衛へいとま乞

ため息をしたで四郎兵衛おつかける

どぶをこしたは四郎兵衛が落度無し

うまい事四郎兵衛が目をぬく手段

やさをのこ待てと四郎兵衛ひつとらへ

変生男子四郎兵衛にとつかまり

ふんごみと頭巾四郎兵衛から届け

肩扉二郎兵衛づつに目を配り

門番にさへ通名をつけるなり

かつ走りたがるぐるりへ塀をかけ

男のかわをかぶつたをつかまへる

股引と頭巾を取ると女なり

形は男だが泣く声は女なり

運のよさ土手へ来る迄男なり

男傾城大門でひつかまり

野郎の傾城追手が五六人

傾城ははだしになると其早さ

落ちて行く二人か二人帯はなし

腰帯は見越しの松に逃げ残り

逃げた跡禿は對にしばられる

逃げた跡禿は酔ってたわいなし

逃げた晩宵に長唄二度通り

逃げた晩将知れぬ初会五六人

逃げたとき男の中で夜をあかし

駕かきの口うら逃げた穴が知れ

目出たい柱へ女郎をしばりつけ

箪笥から遣手ふんごみ見付だし

此鍵で合はせて見なと遣手出し

ふんごみのままで傾城縛られる

ふんごみの女郎鬼一日に喰ひ

しばられた女郎のそばに袖頭巾

縛られた女郎男のすがたなり

おれもそう思ッたなどと逃たあと

しばられて居るが禿へ恥かしさ

詮議しろ文でもあろと逃げた後

ぬけからの後へ引込むほまちもの

名代の足らぬ所で縄をとき

にげて居てよく来も来たり呼びも呼

裏の塀半分越して直が下り

すばらしき男物着てくどいてる

土こねのやうに女郎をくくしあげ

江戸で田へ這入ると女郎くくされる

九郎助をしらぬはとりいこあぬやつ

九郎助を見かぎるやうな朝ばかり

九郎助はどうぞと思ふ朝ばかり

九郎助へ化けて出たいの朝ばかり

九郎助へ白い湯文字で朝ほどき

九郎助へ代句だらけの絵馬を上げ

九郎助の一社詣に息子でる

九郎助のわきで男に化けて居る

九郎助の氏子百から三歩なり

九郎助が氏子やつぱり狐なり

代句だらうと九郎助の額を見る

皃がはりして九郎助へ朝ほどき

八朔に墨助で居るつらい事

化せ〱と黒助の御しんたく

一日は稲荷が黒い斗りなり

吉原で黒介根津はかさもりだ

狐さへしろうとでない所なり

息子のきよろう黒い狐で直り

化物の鎮守は黒い狐なり

仕合さ黒ひ狐へいとま乞

千社札當り九郎助稲荷也

玉姫は外九郎助は内にいる

初午は隅つこばかりさはがしい

口は四郎奥には九郎で賑かさ

大手は四郎搦め手は九郎也

白と黒尻と口とを守ってる

傾城はほこらに余る願をかけ

願かけに来たと簾の外でいひ

木曽殿の守り本尊丸屋持ち

吉原の弥陀木曽殿のゆかり也

旭如来は女菩薩の地へ安置

鼈甲の後光旭の弥陀へさし

数珠の手へ朝日如来は縁がなし

吉原は夜も朝日を拜むとこ

旭をば買って新造昼間買ひ

旭の利益新造の客をよび

破れ後光で新町の弥陀へ行き

黄昏に息子旭の弥陀へ行き

細見の目貫一佛一社なり

一禮は地者ぎらいひの弥陀もあり

田舎者水尻まで突當り

三千の化粧流るる水道尻

鬼の門一萬石でおつふさき

追はれたそうと六郷の門でいひ

アノ四つは六郷様と四手かけ

六郷で打つはとかける二三人

嘘をつかぬ所か江戸に八町

啌の近所に八百の料理茶屋

幕よりも簾の花がおもしろい

玉簾の内に太夫は真ツ裸

二軒で呼べは簾が皆動き

皆同じやうな簾で門ちがひ

茶屋なしに行きやれ得だとひやかされ

極楽の迎箱提灯でくる

棒のない提灯で行くおもしろさ

いつそもう気をもんでさと茶屋でいひ

とばせたちいひ〱茶やを先へたて

行かぬかと天水桶へ指をさし

六千の枕半分あてがなし

菜の花にあれ見や主の紋がとぶ

早乙女の名などを太鼓よんでみる

早乙女の迎向いて見る大一座

けんまくで火焔玉屋へ女房くる

あつくなり火焔玉屋へ通ふなり

吉原の吉野玉屋の静出る

赤蔦の雛に素見からんでる

暖簾まで秋を染たる赤蔦屋

若菜屋でつむ蒸籠も君が為

丁山は見世での丁子頭なり

竹村は最中丸屋は朝日也

菓子屋には月女郎屋には旭也

武蔵屋の客へ最中の月を出し

竹村は最中の月に赤団子

晦日にも息子最中の月を見る

吉原は竹の中から月が出る

大まかな所だに菓子屋伊勢とつけ

子を捨てる藪に竹おうつてつけ

兄は竹妹は虎をくつている

山屋から朧竹村からは月

夜桜におぼろ豆腐で飲めるなり

銀世界山屋の豆腐売切れる

モウ引ケとお歯黒屋からカツチカチ

素手で来て大門を打二郎左衛門

遣手をばばらしはぐつた治郎左衛門

次郎左衛門ひなのやうなを切たをし

次郎左衛門とり手は猫のくそをふみ

大さわぎ橋を八ツに切落し

誠ある傾城紅葉かきつばた

苗字からしてこれこれの伴左衛門

伴左衛門みんなと仲がわるいやう

傾城の意地は五丁を構ふなり

傾城もやつこにされぬ江戸の張り

傾城のくつ〱笑ふはした銭

傾城のえくぼにはまる家屋敷

傾城の涙で蔵の屋根がもり

傾城は小ひどく意趣を返す也

傾城の能書は貌のたしに成り

傾城は手づめになつて気に惚れる

傾城は千両屋敷かへて喰ひ

傾城の尻をつめつて叱られる

傾城に可あいがられて運のつき

傾城を買ふと男が生きて来る

傾城をつまらなくしたいい男

傾城も誠になればひれが落ち

傾城の腕に逆修を入て置き

傾城の腕に俗名きりつける

傾城の尾羽打からすいい男

傾城に間男のあるけちなばん

傾城の気ばらしになる後ロ帯

傾城の品玉にする袖頭巾

傾城はあすをあんじるものでなし

傾城に明日をあんじて叱られる

傾城は傘をさす手はもたぬ也

傾城は一ト網打つて座はるなり

傾城はきつとすわるとげびる也

傾城の慇懃なのも下卑なもの

傾城に啌をつくなと無理をいひ

傾城の嘘をいはぬが罪になり

傾城の嘘は勤の誠也

傾城と負ず劣らず啌をつき

傾城の馳走泣たりつめつたり

傾城は足でつめるが上手也

傾城は格子の外もつめる也

傾城は金の無心もつめ上ケ

傾城の爪はまさかの飛道具

傾城は涙おきゃくはよだれなり

傾城の涙にはまる土左衛門

傾城は度々怖の来る腹をたて

傾城はかすかな所に義理が有

傾城の義理はちよつちよと風を引き

傾城もたまにはきついくすり也

傾城四五ふくで息子快気する

傾城を地ものに遣ふいろおとこ

傾城を地者にするで地面うる

傾城はおもひ切られぬ物をくれ

傾城は人をたのんで一つぶち

傾城はかたきが知れて捨てられる

傾城に振抜かれたる運のよさ

傾城に思ひきられてあはれ也

傾城の文字そのままの意見なり

傾城は手前勝手の意見する

傾城を見に斗り行くけちなやつ

傾城の悋気は息子耳に入れ

傾城をはいけんに行くいけぬ事

傾城のりんきははさみざいく也

傾城ははねられるだけはねる也

傾城のはさみをもつとなさけなし

傾城は空言女房は小言なり

傾城に女房めんだんする気也

傾城をぶちのめす気で女房出る

傾城を見た斗だに女房すね

傾城はとつぱずしても恩にかけ

傾城はやり力なきもらひやう

傾城も淋しくなると名を替る

傾城は一はぢなくとはやり出し

傾城のこたつは住所定まらず

傾城の枕一つははぢの内

傾城はたとへにもれて厚く着る

傾城にかす子は酒をくどくきめ

傾城のちからでうごく石のふた

傾城のきうはにしきへつかみ付

傾城のふみはのぞくにかかはらず

傾城は習ひもせずに書きくづし

傾城の手は文箱に縁がなし

傾城の文を女房は破却する

傾城にばん頭の名はかた過ぎる

傾城のしやく人を見ておこる也

傾城の癪とはまついせうゆのみ

傾城の世話のないのがほととぎす

傾城の癪はいびつに凝っている

傾城のたまたまあてる袴腰

傾城をくぼく見て居るそん料や

傾城のかしらへ落を付てうり

傾城にうめられて居る惣仕舞

傾城をやけで請出すむごい事

傾城を大日にするいたい事

傾城をおつかたづけてごふく店

傾城を太白にするむごいこと

傾城は一日白き苦をもとめ

傾城がだくと赤子も皿にもも

傾城を勝手へ入れて松を立て

傾城のからはらへ来るやかたもの

傾城は三人跡は遊女なり

傾城の好事は門を出づるなり

傾城の代脉の出るけちなばん

傾城をうつちやらせるに骨ををり

傾城もあたりはづれの秋が有り

傾城に親仁が死ぬと女房だよ

傾城の死霊はずんとわけがよし

傾城の峨眉をひそめる月の前

傾城の口ぶえをふく節句まへ

傾城はまづ寝脇手をいぢつて見

傾城の鈴なりへ行くきつい事

傾城の抜足をするおもしろさ

傾城も薄に鎌をかける也

傾城も月のさわりは除き得ず

傾城はあしたにまげて夕アうけ

傾城のもり替へとんと喰へぬ也

傾城の桟敷に一人目にかかり

傾城のほれたは常の眼で見

傾城は見世の備を引くが勝

傾城は閻魔に舌をぬかれる気

傾城は毎晩馬の骨と寝る

傾城のねかしものなら糸切歯

傾城のあまりものには福があり

傾城の素顔見てくるひしほ売

傾城に運ぶ今戸の片男波

傾城は取置にする角を持

傾城の蔵にしておくたばこ盆

傾城の土蔵をまたぐたばこ盆

傾城は一ト月早くぶつかさね

傾城は二十八にてやつと足袋

傾城は私欲連理と契る也

傾城のひつたくそをは百でうり

傾城のたんすは本の犬おどし

傾城のたんすなんどはありはあり

傾城のたんす山師の土蔵なり

傾城のたんす飯時あけるなり

傾城のたんす真夜のもの斗

傾城のれき〱禿二人連れ

傾城のはだしよく〱腹を立

傾城の人別帳を売りにくる

傾城は足袋屋に斗り借がなし

傾城が筑摩祭に出たならば

けいせいを買ったとにらむ親仁の眼

けいせいをうけ出したので身も出され

けいせいに夜なべをされるけちなこと

けいせいの年は昼夜で二むかし

おもしろい日にはけいせいうしろ帯

つりあいのいい傾城は値が高し

あいそうのつきた傾城金を持ち

花ものを言はず傾城落手する

頂いて飲むと傾城わきを向き

金箱を傾城枕元に置き

じつとして居て傾城だきつかれ

だきつくにけいせい身うごきもせず

ゆびッ切してけいせいの中のよさ

さりぬべきえいせいは皆下戸が取り

内證へ入ると傾城あわれ也

よつ程のむしんけいせい手を合せ

是でも傾城のお手かと女房

嘘つかぬ傾城買うて淋しがり

人は武士なぜ傾城にいやがられ

見せ売をせぬ傾城は手がら也

身に付たものを傾城切て呉れ

唐崎となつて傾城夜の雨

嵐の前に傾城気がもめる

なぜだましたと傾城に無理な事

一生を半分傾城でくらし

山割にする傾城は下り坂

吸付て傾城肩の方へ出し

女郎買傾城買をあざわらひ

おそろしい日を傾城におぢつかれ

馬を引き出してけいせいのせるなり

をしいたんすを傾城はあそばせる

あきはでているけいせいに長づぼね

秋来にけりとけいせいをおどろかし

とうろうの跡は傾城八九なり

かがさん出なんしよとけいせいはふり

外のけいせいをかけると十介?

とうろうがおのけいせいを妻そしり

引四ツが鳴るにけいせいほれのこり

苧で髪を結ふ傾城のめづらしさ

野暮らしいこと傾城に嘘だらう

今暮れる日を傾城に落付かれ

今暮れる日に傾城は係はらず

たてかけたやうに傾城腰をかけ

かならずへとは傾城のみやくどころ

ほころびをぬうけいせいは床もよし

いふもさら也三分つつの傾城

月の間菊も傾城一苦労

笑ハねば咄のならぬ小げいせい

李花を冠にかざつたを二人連れ

凡ならぬ女に小女弐人

鬢づら結うた厄介を二人持

鳳凰の羽がいに巣立二羽ならび

さき揃ふ花の根〆は禿ぎく

白象に打乗りさうな二ツ櫛

天窓をばひき割るやうな櫛をさし

姦しくなるは女郎の手柄なり

高うは御座りますけれど美しさ

六ぺん摺の女郎丈ケうつくしい

錦絵の姿は母の癪の種

母親は夜の鶴屋へ迷ひくる

値の高いやつには屋根を書て置き

張肘をしてもようしよい女郎衆

城をさへ役人や蔵におひてをや

盃と小判けつして頂かず

てへ〱の金ではないに頂かず

紫に成る程つめる江戸のはり

大江戸の真中に来て化けるなり

あしか四五匹ついて出る女郎

いいはずさ三わりましの女郎なり

女房はすつぽん女郎おつきさま

たちまちにみどりが松の太夫職

御迎がかかつて後光さして出る

寝かへりに客は眼鼻をあぶなかり

笑はせに白鬢の禿つつき出し

吸殻を禿をよんで尋ねさせ

烟草屋のたより待つ局の日の長さ

ちえまん〱たるうそツきお職なり

昼見世へお職はおまけ〱出る

鈴の音しばらくあつてお職出る

おいもんの飛切鈴にかかはらず

かうなればはじめのうそがはづかしい

生醤油で食ふ女郎は通り者

ちんまりと座はると女郎下昇るなり

床の間に女郎の藝はありつたけ

座敷持何か書籍も一部みえ

座敷持にせたんゆふをかけておき

座敷持親和とやらがかみんした

座敷持琴はああして置くばかり

座敷もち店を追はばに床をとり

座敷持小道具屋程かざりつけ

座敷持日なしを借りぬばかりなり

座敷持琴棋書画迄取揃

文筆もぴん〱として座敷持

十八で老にけらしな座敷持

じんだ瓶持たぬばかりの座敷持

四角は城持山形は座敷持

琴棋書画ならべた斗しりんせん

部屋持の床の間いつも花屋流

奥さし部屋持の名は覚へて居

奥屋がやぼで箪笥をひよいとのけ

奥やのきどりたんすをおもくのけ

明店と書いて張たきたんす也

画にかいて置いても済んだたんす也

から草の箪笥文庫は金なし地

物を出す禿箪笥へはいつやう

大そうな箪笥造作もなくあがる

塗箪笥客の羽織がある斗り

気がもめんすとよりかかるからたんす

たんすにもありんすといふふぜい也

たんすから駒下駄の出るはんじもの

箪笥をからと見蹈めねへ座敷なり

空箪笥ありんす様にぴんとしめ

無一物たんすに座禅豆ばかり

衣類の入レものは女郎持ている

長物の間に四五寸禿道

衣桁には一ぱい箪笥何もなし

打掛の孔雀衣桁へ羽根をのし

三保の松ともいひさうな衣桁也

安女郎たんすもないがじやうもなし

後指さされた女郎天上し

女郎の夜這ひよほどの馴染也

とこがいいはづ四ツ目屋の女郎なり

小間物屋来て床花をむしつてく

お歯黒をつけ〱禿にらみつけ

自身にはお歯黒つける事ばかり

傾城のかね七文が買ひはじめ

お歯黒の小買三歩の玉にきず

平服で禿お歯黒買に出る

お歯黒に禿は廊下練ってくる

お歯黒を暖めやと梨子かじつてる

お歯黒の駄賃に一本しやぶらせる

お歯黒を酢かさかしほのやうに買ひ

地女に毛虫二つで化けられず

寒が入りんしたと三文もなし

角の玉屋で約束の寒の紅

花帯になれば後がはるか増し

身ごしらへ禿が帯は茶屋が〆

結ばつた帯をつユう〱〱と解き

鼻紙を褄と一所に持添へて

ひぢりめん幾所にも裁ちわける

緋縮緬虎の皮よりおそろしい

下紐といふは木綿のことでなし

ひぢりめん紐のないのがほんのこと

箱入りの金箱つつむ緋ぢりめん

駒下駄の鼻緒をなめる緋縮緬

下駄草履いと平な孝の道

日和下駄はなのある時はいたまま

若旦那足袋がきらひで嫁がもめ

禿ばかりが真白な足でいる

たまさかに遣手に売れる女足袋

初会にはよく吠えたなと狆をなで

りんすしいすは北狄の言葉也

北狄のばんごはりんすなんす也

北国訛どうしんすからしんす

おすざんす是通人の寝言也

馬鹿らしうありんす国の面白さ

たんぼ道火は有りんすのおもしろさ

おいらんは六町と出ぬ言葉なり

さと言葉ならふも抜くも一苦労

おや此廓に裏門はおりんせん

夢に見んしたと真赤なうそをつき

また来なんしんかとえんへこしをかけ

性は美なりととさんの日でざんす

見なましな四角ざますと玉子焼

ほととぎす聞んしたとはとしまなり

ほととぎすききんしたよといふばかり

取まひて雪乞の句をよみなんし

はな紙であふいていツそ酔んした

いひ憎くありんすねと気味わるさ

うんといひなんせとつめりんすにへ

おがみんすなどといはれて舌を出し

山吹とかけて何だか当なんし

おいらんに叱られんすとけちな晩

はんな晩御めんなんしがやたらくる

御めんなんしと来て何かそツといひ

いけぬ事何をきいてもしりんせん

甚九をばおよしなんしと思出し

いけぬ事何をきいてもしりんせん

蛙つる女郎のそばにくすりなべ

精進日女郎箪笥へ手を合せ

神仏の外にとうめう一つあげ

あひみては文ほどに無ひ女郎也

立膝で文を書くのも姿なり

もう書くことがないさうでかしくやア

間男へやる文は禿を筆でよび

わる紙へ紅と墨との文もかき

文の先禿そろ〱巻いている

禿に持たせ据風呂でよんでいる

気のもめる文で禿もたたかれる

鶴の一声打掛けて禿立ち

様づけに禿をよぶはふきげんさ

冷酒の肴に禿しかられる

禿よぶ二度目の声は幇間なり

かぶろよぶ二聲めのはたいこもち

さう云って来や其前に耳に口

桐のない鳳凰てん〱舞をする

鳳凰もしほの目をする桐の花

鳳凰の桐の花降る里に住み

振袖を又着ようではなけれども

打見には何不足なき女郎也

やりくりに禿を對に裸にし

太夫職百で四文もくらからず

質の利は知りんせんとはいはれまい

こざかしき禿二月まけなんし

風呂敷と三分握って禿かけ

三歩にぎつてふるしきを禿もち

禿曰くそれだつて貸しんせん

三度づつ喰って遣手にいぢめられ

あぶれ女郎夜食を食ふが恩也

惣菜は荒布と禿くちばしり

ちつぽけな湯桶で醤油買ひに行き

生醤油で食ふ女郎は通り者

惣菜を聞いて向ふの人をよび

松飾後をむける前世界

傾城の大赦長閑な日のはじめ

元日に幇間大切れ喰ったまま

買初は輪飾のある四手なり

二日には松の位の程が知れ

正月二日鳳凰が舞はじめ

鳳凰も莚へおりて箸をとり

荒むしろ孔雀の下る初紋日

羽子板は実に北国の女帝也

羽子板は客をはづます道具也

遣羽子をたいこ田圃へつきなくし

鳴りこんで来るが幇間の御慶なり

懲もせず禮から息子直に行き

仲の町たちはだかつて年始なり

七草にやりても長い爪をとり

紅筆を貸して逃げたる削りかけ

大黒も奥方から来りや安く見え

鰶の鏡にうつる賑かさ

このしろは初午ぎりの䑓にのせ

このしろも一ト位つく初の午

日理袖のびりかち廓の初出仕

甘露梅へも山形の星下り

甘露梅女芸者の加役なり

菅原が何から来たと甘露梅

さううまく女房はくはぬ甘露梅

やきながら女房のたべる甘露梅

臨時の物入り土手からちらちら

七夕は土手から見える紋日也

雀程七夕竹による禿

草市に禿買ひたいものばかり

草市は小蝶の放生会

草市の中で禿は親にあひ

草市二茶屋の内儀に百借りる

草市へ出る三尊の美しさ

草市に禿ひやうたん買たがり

草市に桔梗の切れる仲の町

草市は仏の好かぬ場所にたち

白無垢でしをれた草を見てあるき

四五日は引手の多い高燈籠

風の前日に燈火は消えるなり

大施餓鬼あす極楽へ雪がふり

桐一葉散って鳳凰苦労なり

家根のある女郎は雪を苦労がり

家根のない女郎は雪もふり次第

嵐より雪になやむは女郎花

おいらんの胸に積つた秋の雪

丈ケ四尺ぐらいにつもる秋の雪

八寸一分につもつたは秋の雪

新造まではふり足らぬ秋の雪

空とおやじには知られぬ秋の雪

乙な里七月下旬雪催ひ

七月晦日傾城大騒

七月下旬ああでおすかうでおす

七月が小でお針のいそがしさ

七月が小だと遣手気をつける

をもしろやとうろう化して雪となり

あらしの庭へ雪のふるおもしろさ

嵐の日客寒さうに見えるなり

五丁町俄に暑い雪がふり

女郎衆はさぞと大汗かいて縫ひ

暑いのにお針手おもいものを縫ひ

掛無垢のやうに田町でやたら縫ひ

白無垢を田町で縫ふと残暑也

白無垢を五六の中でくけて居る

朔日の雪物さしでつもるなり

北国の雪に火熨斗をお針かけ

北国は八朔にもう雪がふり

帷子を着て北国の雪見なり

帷子で来るを小袖で待っている

富士の近所は八朔も雪がふり

八月の朔日雪と炭が出る

八朔の左例を聞けばさのみなり

八朔は金鶏鳥も鷺となり

八朔は人まねこまね更衣

八朔はわが有ツたけ白くなり

八朔の雪にしなへる衣紋竹

八朔の雪ころがしに骨が折れ

八朔の雪ころばしは客がする

八朔の雪は積らぬ総まがき

八朔の雪は吾妻の香爐峰

八朔の雪にも御簾をかかげさせ

八朔の雪見もころぶ所まで

八朔にたいこくやみもふるいやつ

八朔に涼しいといふ仕合さ

八朔は百姓よりはくろうなり

八朔に小袖を着せるむごい親

八朔をゆるして天をしよはせたり

八朔をのがれて扁のないをくひ

病人を祖として八朔衣がへ

きつい事病後のなりが道具なり

八朔の形リ病後には不吉也

八朔は今に女郎の半病気

きつとして出る八朔は寒く見え

白無垢でとかくさむけがしいすなり

白無垢をぞつくりぬいで蚊帳へ入り

白無垢の裏から切れる弱い客

八會目あたり白無垢しよつて来る

みん〱が鳴くに白無垢ぶつかさね

丸締を着次白無垢のおもしろさ

丸締を着ぜぬ斗りの紋日なり

丸締を被りなんしとお針いひ

雪女郎達あつかろとお針いひ

秋の雪ふけて衣桁に消残り

反物のそばでお針は煮え切りな

白加賀にしなとお針に見くびられ

弁をふるつて白練を巻上る

一日は北方無垢世界となり

運のよさ此八朔は模様もの

地女の八朔涙ぐんだ顔

朝ぼしも八朔からは太くなり

富士の夢先づ八朔をくらつたり

米屋でも傾城屋でももの日なり

おもしろさ夏と冬とのいしやうなり

何とうらやましからうと客帷子

帷子の下へ紅葉着てかへり

当日の祝儀八朔すさまじい

雪女郎買ひに旦那は出られやす

居続けは白妙さまのお客なり

白妙の雪は積らぬ総まがき

白人と江戸も一日いひたい日

鳳凰が一日鷺に化けて出る

一日は真白く書く八文字

越後から俄に雪の衣がへ

唇が赤いばかりの紋日なり

北風に又出やるかととろい母

六つの花四季に咲くのは江戸ばかり

一曲輪秋来ぬと目にさやかなり

おどろかれぬるとそろ〱客は逃げ

幽霊を見とげず帰る燈籠客

追善がすむとうツつい雪女郎

燈籠がすむと空おそろしく成

燈籠がなくなつてから八ッ着る

燈籠の俄に消える雪の宵

燈籠のほとぼりさめぬ雪見形

燈籠を見に行き風をしょってくる

月どこか風をくらつてもふにげる

八朔の雪はしち屋へなかれ込み

八月の二日質屋へ雪がふり

八月二日大雪と質屋いひ

八月二日見馴れた形リになり

八朔の雪解は八月目に流れ

白無垢は三月流れ申し候

白無垢は花の弥生に受出され

幽霊が団子をねだるこはいこと

燈籠と月は七難八九なり

あまり間がないに白無垢お月さま

七難をのがれ八九の月をしよひ

よく丸められて息子は月をしよひ

鳥を三羽殺させて月をしよひ

狐に化かされ薄をしよつてくる

痛いこと星に月夜をなだられる

一きやくへ日ツ月ともになだるなり

むごい取合せ嵐に月夜なり

一ト月に風月をくふ痛いこと

風の穴まだふさがぬに月をくひ

一は逃れたか十五は是天命

三日月の頃は無心の最中也

ゆうれいの月見をたのむこはい事

小さな指が雪になり月になり

もつとこちらへ寄せといて月の事

盆後からへたにさはると月の事

寝かさない晩案の定月の事

嘘を書きつくしたあとに月の事

月の前かこち顔なる売れ残り

月の枕言葉苦労でありいす

月見前どうをまねきに息子行き

月見前杓子あたりがちがふなり

伝心なお方へ月を割りつける

さざめ言天におらば嵐か月

頼んでる月へ生恪?三会目

盆が過ぎると月しろがあがるなり

そら定めなく変換への月の文

三日月の頃から数通書いて出し

田毎程傾城の出す月の文

月迄に文のくること十五たび

月の文長さはおよそ十五ひろ

月の座があいていんすと文がくる

月に来てくれろだろうと封を切り

やつさいと桂男を乗せて行

掛声で月雲殿へ乗ツつける

四ツ手駕月の都をさしてかけ

四ツ手から出る時月を一つほめ

きおい三重でかけてく月の駕

二千里も行くほど気張る月の駕

早打にまけず月見の四ツ駕

とびのり〱こぎ出す月のくれ

月夜だに質屋歩いて行けといふ

ありんす国の月を見るいたい事

いたいこと月の上座へなほされる

いたい月早く御目にかけるとこ

身上の傾く迄の月を見る

数ふればよつぽど月に遣ひ捨て

謄の大きさ斗の如く月見なり

寝るは扨て惜しいはけちな月見なり

話でもしなは淋しい月見なり

大屋から敕使をうける月見をし

一チ客がこがねのじはちりんを出し

月の座へ招けば月を振舞はれ

月の座へ息子はひらき直るなり

月ふところに入ると見てどらうまれ

月の光でしつけ苧を息子とり

仲秋はどらに實のいる時分なり

仲秋の頃大どらを愚息うち

いい月夜親に釜より目をぬかれ

釜よりは親仁良夜に眼をぬかれ

杯を薄へはさむふるいやつ

惣花はすすきのわきで渡すなり

禿にも薄を二本ねだられる

冬の月よりおそろしき月を見る

二朱は二朱だけに傾く月の客

月見客筆を噛み〱扨て出来ぬ

手のひらへ家内いつける月の客

名月や暗い所は見世ばかり

しよひものの内へ月をも入れておき

花にめで月にうかれておん出され

月よりも息子が先にもれて出る

山に星むす子月とは大

内の月では妄執の雲はれず

女房の苦は花が咲き月がさし

女房は風月の友をわるくいひ

妻捨の月は世間にある習ひ

月を閉て出して女房は小言なり

海よりも田の面の月がひんがよし

苦の世界女郎買ひにも月や花

売気に月花を結び大不首尾

店の客はれては掛けぬ月の札

いものある客が月見を仕舞ふ也

月を仕まひついでに出見世を仕まひ

月見る月は此月のむじかしさ

月明かにして星はかくれたり

親父の耳へもれ出づる月の事

親仁の目ゆうべの月に異ならず

十六夜は親仁小言の最中也

花よりも団子のどらが大き過

今夜行くやつもあらうと芋を喰ひ

おとなしくなると団子の汁をくひ

気は晴れねへが腹のはる内の月

五 の国分やみ〱内でのみ

底のない杯で飲む内の月

冴えて居る月にも曇る母の胸

母あんど息子も嫁も月を見ず

嫁手柄月雪花を内で見せ

蛤の殻と息子をすてるなり

昼のやうだと蛤のからを捨て

月のかげ日向に成て母くろう

月もはや朝傾きて朝帰り

山の神団子を投げる朝帰り

朝帰り団子と芋をつきつける

つんとして女房団子を焼いている

あてにした月が男の心なり

けちな客二月あまりよりつかず

足元の真暗なうち月を逃げ

水におそはつて月見を逃げるなり

えんこうが月だと逃げるけちな客

約束がすぽんとちがふお月様

月の嘘天に偽りなきものを

いい客とみつればかくる月の謎

逃げる客薄の穂にもおぢるなり

薄では手もおれ指も切れるなり

薄をば逃げても菊にとつかまり

あと月の薄がどうか招くやう

雲ほどに女房は月にさしさわり

月以来女房野心をさしはさみ

待ち宵に未然を察し女房ふて

月過ぎへおんのべて置く袖の事

月見過馬鹿が鉄砲打つたやう

月見過手のかるくなる御くし上

月にもて過キてかじちの沙汰になり

月見過嫁の談合急になり

白塗りの戸を月見過キたてておく

座敷牢ああ月われをほろぼせり

斯うなつた由来は月のあしたなり

をかしさは来月分も母叱り

若旦那八九とつづき大仕事

五三の通ひにむす子へらい事

きつい事十五夜及び十三夜

いたい事朔 および十三夜

十五両十三両と二度のどら

年に二度息子も月の障りあり

月雲殿へ二度のぼるいたい事

秋の夜を二十八日息子しよひ

月二つ息子大義をおもひたち

月ふたつ息子社稷をかたむける

月を二度仕舞つて内を闇にする

太白月を貫いて二度奢り

物忌丈に月見を二度くらひ

北国の団子を息子二つ喰ひ

二度の団子で身代を粉にする

のの様を二度受け合ゆて銚子也

二度目には月も親にもすごく見え

月界長者二度ながら勲花

のきのとうろう二度の月に金かいり

そらを二度見たが息子の落度也

後の月再應の義と親にいひ

後の日又侯かやう〱なり

後の月時なる哉とまげるなり

後の月叔父の手際にもふゆかず

後の月息子も心つくし也

後の月むす子きうめい致ス事

後の月すめぬ顔にて内に居る

後の月嫁気にかけて爪を出し

後の月杯のない銚子也

気にかかりやすは勝手な後の月

里芋も息子もかぶる後の月

うま〱と母をたき込ム後の月

そこで親仁が腹を立つ後の月

客星の光ううしなふ後の月

あさつては御祥月忌と後の月

十三夜手本があつていたい事

十三夜嫁気にかけて彈じたり

きつい事同じ枕に十三夜

心外とやいはん息子片月見

片月見だなアと母といぢりあひ

片月見ごく〱悪い首尾と見え

片月見息子少しも気にかけず

十五に居ぬと十三にも居ない

けちな奴九月十五日にうせる

もてぬ筈八月にげて又にげる

八月はあばれ九月は朝もなし

行く息子御難〱と蹴て逃げる

秋冷の一儀がすむとどらの事

鳳凰のつばさは月に三度ぬれ

雪降に出るは和漢の孝不孝

密柑をも尻にあたらぬやうに投げ

手をあぶりながらほたけの禮をいひ

加賀簔で息子は飛んで散乱し

さあおもが白うなつたと簔で出る

簔を着て新造二階中あるき

初雪に喜だ女郎の噂が出

初雪に先ず総飯に錠がおり

初雪の下見に起きるたいこもち

初雪やせめて禿の一トつかみ

初雪や出たがるやつと女房よみ

初雪やひとりころびと女房よみ

初雪を誉めぬ息子が物になり

初雪は時を定めぬもん日なり

初雪はふりかかつての紋日なり

さあ雪だ出たくなつたと女房いひ

雪の日に五両くすねて息子出る

ああら面白からずの雪一分ま無し

すつこんで居やすまいよと雪の朝

雪の朝女房は逸を持って打つ

月の玉をおしこんでおく雪の朝

母親に舞をまはせる雪の朝

雪の朝迎ひをやぼなやつといひ

豊年の貢どこかと迎いひ

けちな客雪の無心にいざさらば

雪こかし遣手の叱る所まで

男ぢやといあはれた疵が雪を知り

わるいもの降りますとは四五度ビめ

もえ杭へ燃えろ〱と雪が降り

扨て悪るいものがとそびき出しに来る

雪の中三本半でそびき出し

禁句だに禿雪こん〱といひ

雪ならばよしとずつぷり引ツ被り

雪の晩かじけて来ぬと新造いひ

降ると雪を口へ入れんと禿なり

大口説見し〱雪にかへるなり

おさまらぬ物が降ったと連れ起し

憫むべし素一分にて雪に逢ひ

でえぶ降りやすと素一分困ってる

大声で雪の深さを御注進

雀形たたいて雪の注連し

天の為すわざはひ雪がしくじらせ

此雪に内に居るかとはやすなり

此雪に御大儀時に倅事

居ぬ息子雪かきわけて詮議也

雪かきで七里けつぱいよせつけず

雪かきでぶつと息子は傘でうけ

おさまらぬ物だと親仁雪をかき

行ったなと雪をむしつてぶつつける

かんざしの足くたびれる紋日前

如意輪が處々にまします紋日前

巻紙もやせる苦界の紋日まへ

窮鳥は懐わらふ紋日前

紋日前城より首を傾ける

紋日前通はぬ神に崇なし

眼に立った紋日仕舞つてざつと切れ

掛取のやうにもの前文を出し

煤はきの下知に田中の局が出

十三日遣手一朝のひけをとり

親の目を股引で抜く年の市

三分一入唐をする暮の市

市の客とめるとこれを押込むぞ

供部屋を手桶でふさぐ市の客

おや市すんだと手桶を禿いひ

百両と手桶あづかる若い物

馬鹿な形リ手桶をかぶり引づられ

あぶりこを買へと手桶が物をいふ

摺小木と手桶見倒しと四ら兵衛いひ

摺小木にすがつて禿引いて来る

摺小木にもろ手をかけて禿引

弓削の道鏡参内と市帰り

此頃に来るよ摺小木まあよこしや

紅葉のうらに摺小木をさげて来る

手桶をも買って来なよと愚かなり

亭主をばいひこめ内儀市へ立ち

ほとぼりがさめぬで市の足をとめ

あてはめた市を息子はとめられる

かこつけのしまひが市と息子行き

買物は裏白根松女郎なり

市でない事は息子の形りで知れ

市の戻りはいりかねたる十九日

市に寄りいよ〱罪が重くなり

市に寄り虚言ンしたたか聞て来る

市以来息子売切り申候

市過はぜねの入ることとろつぴやう

市過の客はれものにさはるやう

新造のなぐれた市と素見いひ

新造が今年の市はきついきれ

正月の買物に出て気がそれる

春の買物だと隣からなだめ

大三十日箱提灯はこはくなし

年越に十二の禿なぶられる

暮の客とんにがすなと姉女郎

大三十日箱提灯はのろひやう

大三十日更に雄君らしくなし

若い筈内では年をとらぬなり

物思ふそばに禿の春を待ち

ものすごいもの冬の女郎と月

寒うそをつけと遣手はせつてうし

女郎屋の勝手にまはる蕎麦袋

つれづれなる侭に昼見世文をかき

とまあ抱かせてなんしと筆を置き

昼見世はよく笑ふ子を借にやり

昼見世のもちあそびになるお針の子

昼見世へ遣手の孫をおつぱまし

左前の子を新造が抱いてくる

貸りた子に乳をさがされぢぢむなり

捜されてくすぐつてへと子を返し

白いもの吐きなんしたと子をかくし

女郎衆に貸すな子守ことわられ

傾城に貸す子に酒をくどくとめ

揚詰のざしき赤子の聲がする

子供の生酔女郎に貸したなり

昼見世は子を抱いたのと見立てられ

此の乳を見せたのと浅黄は見立て

好いたのが来りや抱いた子に頬ずりし

見立てられたで借りた子が後を追ひ

見立ちがひが又今の子を借りる

入相の鏡に花咲く一ト世界

惼幅に山椒くはせるいい時分

世の中は暮れて曲輪は昼になり

まだ来なんせんかと椽へ腰をかけ

およんなんしたかとけちな形でくる

鈴をふる火をともすのが合図也

鈴をふりたて行燈へたきつける

鈴の音に蘺の花は咲きそろひ

がら〱と鳴ると夜分の雛を見せ

毛氈へおん直り候へ鈴の音

鈴の音に来るのが客の三番叟

すががきで咸陽空に灯がとぼり

情掻と玉子〱で幕が明

情搔はみそするやうな四つ時分

両側で味噌するやうに弾きたてる

すががきをてんぷに弾いて綿をうち

すががきを足で弾かせる雪踏連

ひつこするやうに情掻弾いている

候べき候の三味線を見世でひき

作左衛門流で情搔弾いている

すががきは異見の合はぬ調子也

毛氈の上で合の手ばかり弾き

毛氈へ孔雀羽ばたきして座り

三味線をばらがきに弾く音にうかれ

すががきを中腰でひく人違ひ

百物語ほど入れて顔を見せ

情搔にあはせ蚯蚓をのたくらせ

気文を人中で書く勤の身

夜顔の花は籬に三時咲き

玉のよるとこへ月のよる籬なり

相惚は顔に格子のかたが付き

まあおあんなんしと格子曰く

通ふ神さあ御神輿すえなんし

鳳凰の壁に格子はおもしろし

煙草盆きらいな奴も前におき

ようどう見どう二朱で買ふ煙草盆

其つらさ左右の煙草盆をとり

また見世へ煙草盆だす気の毒さ

先づ最初煙草盆から天上し

毛氈を立って帳基深く入り

勤定づくで奥の上のを買ひ

交り見世一歩うや〱しく座り

交り見世うかといいのも揚げられず

新見世につくりなほしが並んでい

目うつりがすると三百間あるき

素一歩を持ってそかアいやこかアいや

椋鳥が来ては格子をあつがらせ

見物左衛門駕かきに邪魔がられ

さうは云はうが手短に書きなさい

格子から其手紙とつて筋を見る

地廻りが笑ひんすよとゆすぶられ

引ケ前は蘺のそばに百合の花

二三人年寄向記キがうれのこり

席正しからず引ケ四つ近き見世

引ケ過までほれのこされるつらいこと

如意輪といふ身蘺に売れ残り

裸王らしく毛氈うれのこり

薄ぐらい内からさらし残ってる

売れ残り實に十目の見る所

目明千人じやもつつら売れのこり

天とう正直あばたがうれのこり

あばたでも同直段ゆへうれのこり

蓼喰ふ蟲もなく毎晩売れ残り

あたりを払ってもうせん売れ残り

銭との相談毛氈売れ残り

売残り御尤なが二三人

後の四つなる程けちな面だわへ

縁な起衆生後の四つ見世できき

ねきものが二度目の四つに二三人

茶ひ起のあはれ蔭見世の東山

愛想を遣手へいふ夜みじめなり

遣手あばたへは前ではないさうな

間違んしたとあばたは又座り

居たあとをたたいて見世にてれている

引ケ四つの陸に籬の花がちり

世間では取用いざる四つをうち

工面する内此界の四つを聞き

引ケ四つを階子で聞くはめつけもの

壁に耳有ツて引ケ四つ聞付る

引ケ四つとやらがあるよとははしやれる

拍子木の枕に近きおもしろさ

引ケ前の初会振られて来たのなり

こつちから三番目だと腮でいひ

禿が先へ煙草盆初会なり

十人が十人初会たべんせん

禿まで飲みなんせんと口を出し

初会では隣の部屋へ行ってくひ

初会にはみだりに䑓へぶちまける

初会には隣あるきをしてくらひ

初会にはあてがひ扶持をくつている

初会から食はせてたいこ二歩もらひ

初会にはまつおしきせの通りにし

初会の夜先づ商売と年をあて

毒だてのやうに初会は食はぬなり

佳肴ありといへども初会にや喰はず

なげられもせうかと初会片苦労

御大法通りまたせる初会なり

草も木も寝るにまだ来ぬ初会の夜

翆帳紅閨にけろりと初会の夜

ゆふべ初会のごてれつがらんをいれ

こんたんの来た夜初会はみじん也

大言は吐きは吐いたが初会ぎり

うそがきやそら気で来て初会ぎり

引け通の初会なまいき過ぎたやつ

上ケやしやうなどとおつこちそうにもち

上きげんせうなどとおつこちそうに献(さ)し

あれ葱をたべなんすよと大さうさ

障子から見立てた客の二度は来ず

懐を廊下へよんで聞合はせ

ひそ〱と廊下に顔がとどこほり

初会には道草をくふ上草履

ばたあらばたら初会の上草履

むつとした耳へかすかな上草履

長くした首をちぢめる上草履

おきあがれ油さい奴が上草履

うれしさは掛り次第の上草履

ねたふりでちくいちに聞上草履

しつぽこへ通りかかりし上草履

大どふの向ふにのこす上草履

ざんぎりにしなとどろ〱上草履

上草履練ってくるのは気のないの

上草履後から来ても脇へそれ

上草履ぬいだを聞いて空寝入

上草履引ケ四つからは横にはき

上草履あとひつざりに客へ貸し

上草履ばた〱〱と外へ行

上草履思はせふりの音がする

上草履隣まて来て滞り

上草履片々夜着へたたみこみ

上草履客がはいてはしづか也

素一分はげしなりませで安堵する

素一分は仇やおろそかに遊ばぬ気

素一分はとつかへべいが怖いなり

素一分は吟味しぬいた金を出し

素一分はもぜんたい れが金でなし

す一分もしらず駕かきついて来る

素一分はのむねん道に追こされ

す一分は落手せぬ内気ぐろうさ

す一分を持ってそかいやこかあいや

す一部は素見に少しひんがよし

素一分の威光でぎうと召されたり

素一歩で女房はえちご屋へ上り

素一歩は此雪にいざさらばなり

天命につきて素一分もらはれる

降って来やしたに素一分ぞつとする

積つたと聞いて素一分きえるやう

でえぶ降りやすと素一分困ってる

すけんの中をす一分の気の高さ

一分損ここか〱と押している

一歩出し夜の明るまで癪を押し

一分づつおれにわたせとこりたやつ

壱分のうけ取御休なされませ

又初手の一分を出したふといやつ

むほんとはたいさうらしい一歩なり

ほつぺたを くするのが一歩なり

まずり見世一分うや〱しくすわり

百安に口から一歩出して買ひ

二朱よりは一歩の嘘がおもしろい

やぼなやつ一歩がくろうしてかへり

三人で二歩だがかえる〱

三人で一歩たらぬを二歩あまし

来ぬ内は禿の名など聞いている

禿来て鼻から烟を出せといふ

ねだられて禿にやりし烟の輪

役にも立たぬもの禿なだるなり

ききほして見たば禿の智慧でなし

裏附で板の間をくる待遠き

縁なき衆生行燈とさし向ひ

正直をなほしなんしとやり手いひ

よくしなよ觸頭だと遣手いひ

女郎より遣手がほれる遊びやう

金を殺して使ふのを遣手ほめ

アイわつア鬼神さなどと遣手いひ

くたばる程にどやしなとやりていひ

売られる程の根性と遣手いひ

折檻を仕掛け笑に婆々ア出る

遣り手のへおならくらひのおとで無し

憎しなつかしかかさんに似た遣手

木魚程なもの遣手は提げている

やりて婆々おんなじやうに褄をとり

わつちやアたべんせんと遣手おきあがれ

連合ヒの日さと遣手は梨をくひ

食物をはさむと遣手不人相

追っかける遣手密柑の皮をもち

巾着をしめ〱下りるやりて婆々

巾着は亭主を砂利場辺におき

箕輪にて見れば遣手も凡夫也

数珠を持つ遣手は内がふ首尾也

さまく〱をきくやいなやりて出る

ひととなり婆々ア軽薄多欲なり

後生へは尻をむけてるやりて婆々

叱らせて聞くが遣手の目見えなり

見申したやうだと遣手飲んでさし

遣手まで笑の行かぬうらの客

ちりめんをとり縄にするやりてばば

にくむとは遣手も高をくくつて居

見のがしにすればやりても損はなし

隅の方からも手の出る三会目

一ツ家のあるじまで出る三会目

三会目布袋の姉がまかり出る

鳳凰の羽蟲を遣手取て捨

貞女の真似がろくな事かと遣手

麥敬を遣手のこぼす痛いこと

遣手の倦促いあただきやせうなり

花紙をくはへて遣手飲んでいる

三度ねれつてやり先で一歩とり

花を見てやりては顔をやわらげる

若殿の部屋を遣手は門で聞キ

こうるさく餌とりの出る三会目

やり手には娘がなると思われず

袖の下やらねば婆々ア長座する

第三はて留のとこへ一歩なり

三文がほとはやりてもおんなする

大をすへなからすや〱遣手ねる

第三は婆々アに一歩やりぬらん

四五会目かじりついても取る気也

総花に婆々ア今はの目をひらき

御簾紙で招きや遣手は直にくる

いつに無イ大酒と遣手申しくち

ええとむらひがとれたよと遣手いい

八重売をしたと遣手を浅黄にち

さてこそと遣手のさはくから寝所

あの中で意地のわるいが遣手の子

あぶれたは遣手のかたをもんで遣り

床で蛇遣ひなんしと遣手いひ

軽重によつて遣手は刃物出し

客と行く桟敷は遣手まく工面

くらがへは遣手をねめてすつと出る

俳名のないのを遣手うれしがり

身揚りのこたつへやり手のめり込

中に引堤て遣手は蔵へ入れ

中日に死んだ遣手はけがの内

此お子はなどと遣手の丁度請け

桶ぶせを出ると遣手をたておろし

町へ行きたいとやり手に実をいひ

昼見世へ遣手の孫をおつぱなし

もらひ人が名をば遣手と付て居る

見のがしにしたを遣手が鼻にかけ

にけわたる廊下を遣手のツさ〱

大一座かさばつかりと遣手いひ

遣手の子駕にも出たり出ないだり

きやうこつなお子だと遣手蜘を捨て

抱付て見れば遣手も女なり

うつとしく遣手のからむ三四会

遣手をばらしはぐつた治郎左衛門

見くびつて遣手つらをも持てこす

不心中遣手へぐわらりぶちまける

花はくれないは遣手のきん句なり

おれなれば貫目があるとやりていひ

くくしあげなさいと遣り手側でいひ

めしもりにくらひついたと遣手いひ

色をするつらかと遣手なわをかけ

梅にうぐいすも松の木に婆々ア也

いやきみをぬかす婆アとたいこいひ

おはぐろを月て仕廻とばばア来る

よつぽどの無心遣り手も列座也

みみづくのやうな遣手の身ごしらへ

干しころしもてれず里の口

しこためる御役だげなとやりていひ

やりてばばかな緋なやうに酔て来る

諸大夫にしてはこすいと遣手いひ

いもが子は遣手の手にもあまるなり

大一座らう下へ遣手尻を出し

御ふしやうと遣手さかつき又はじめ

人よくの花だしきはやり手なり

はぎしりはどのがきめだと遣手いひ

もめる筈ひやうとくのあるばばア也

遣り手 外のつとまるつらでなし

惣花におもき枕をやりてあげ

そだのかんかよとばばアは腹をなで

芋うりのがきさと遣手にあなし

七くさに遣手もおしひ爪をとり

大一座遣り手あみ戸をあけて出し

きのへねに遣り手がぬふのおそろしさ

此かぎを合せてみなと遣手出し

今夜のもからツさわぎとやりていひ

三たて目に遣手へうえ〱と出る

七月は小だと遣手気を付ける

川竹の流止りは遣手なり

人相をいろ〱にするばばあ也

ぜぜの無い本多が来たと遣手いひ

くわツ〱といはぬ斗に遣手せめ

遣手あばたへおめへでは無いそうな

継子こんじやうながきだと遣手いひ

花ものはいあわずやりてをにこつかせ

うれないさまのお客をやりてねめ

摘草も遣手は笊を持て出る

ほつぺたを産くするのが一歩なり

しばりぞめまだしやせぬと遣手いひ

かツぱツてつかいなさいと遣手いひ

やつとこなの新左衛門で遣り手たち

こんややうずはあたけ出しそふな婆々

三会目きつと一歩のしりが来る

さくら田のやぼへいいなと遣手いひ

ほそ首をつかんで遣手蔵へ入れ

ばばア笑ったばん帯をとくなり

二三人土のろうから遣り手出し

うれのこる手のすじだろうと遣手いひ

くわいけんをけどつて遣手上げぬ也

とんだ事遣手きんちやく切りにあひ

遣り手はいやみ若ひものからみ也

遣り手笑ふのをかけにはせぬ気なり

うたひをば大事にしなと遣手いひ

遣手出る前なまぐさい風が吹き

三会目そのごをぬかずばばア出る

第三にやらぬとばばアらんにとめ

三会目すみから今にまかりいで

三会目には正体をあらはせる

ばばア茶をにて友だちをおこす也

ばばア正直金とると笑ふなり

たんすからやりてふんごみ見付け出し

つめ〱をほんとうにする遣手ばば

かつはつてつかひなさいと遣り手いふ

首斗り遣り手つん出スおそろしさ

つとめと遣手で壱両はじやうよと

おれ斗りうれぬと遣手きげんなり

三会目ばばアも壱歩女郎なり

遣り手の口と土手とが八丁なり

遣り手のへおならくらひのおとてなし

遣手が表徳金笑とつける

いびきをかき〱遣手いい往生

浅目らがふざきあがると遣手いひ

巾着と遣り手一所に口をつき

ただもろふばばアを遣手とはいかに

もしくれもせをかとやりてまかり出て

遣り手の気に入り一チばんふこうもの

居眠を覚ます遣り手のせきはらひ

取ることは第一遣り手とハいかが

遣手いへる事ありいつもお若イ

塩の目でやり手一分をにぎにぎし

あの一座とうにくらいとやりていひ

三ツ目から寝チたと遣り手張りごふう

伏勢の大将軍はやりてなり

しらがぬき仕廻ふとやりて又ぬめる

はかり事密ならずやりてがけどる

二階からやりておろしが見世へ吹き

もふ花はいらぬと遣てまつご也

男ものぬがせて遣り手どなり出し

あてはめたものはやりての笑ひなり

十三日やりて一期の引けを取り

やりてとは假の名実は貰ひてへ

やりて婆朝三暮四の小言なり

男のやうなを遣り手がしばるなり

ゆるめたは誰の細工だと遣手いひ

奉加帳どうしなさるとやりてが来

風くらいなんだとやりてひんまくり

敬してはとほざけらるるやりてばば

居続ややりての部屋も覗かれる

さう吼て客をかけろと遣手いひ

げぢ〱をつかんで遣り手壱歩とり

どの客がづばらませたと遣り手いひ

婆々アの長咄しあて分くれろ也

のどふへをねらいそふなへ壱分遣り

三会目閻魔の内儀罷り出る

三会目まつめあかしへ壱分遣り

三会目婆々アに菊の花を遣り

三会目佛のやうなばばア出る

婆々ア迄紉をゆるめる三会目

四五会め取ツからしと遣手出す

婆々アを入て壱両に息子買

三会目いけんしそうな顔が出る

総花に遣手ハ風をおして出る

貰ひさへすれば慾げのない婆々

川竹の流れ止りは遣手なり

やつとおなの新左衛門で遣り手たち

よく覚えた物うらにはばばあ出ず

百五十日たちいやな婆々あ来る

遣り手のはつめりではないねじり也

ちとおあひでもと婆々アのうんざりさ

ごうせいにはめ〱をする遣手ばば

此世あの世のさかひを遣手が見せ

馬の鞍おき合ハさずに遣り手出る

裏うつりハぎう三のおもてばばあ

惣名と甚相違した婆々あ

せうかちの鮎などおろすやりてばば

下手な事晩に逃るを遣手しり

十罪の遣手家内の質をとり

壱人寝に夜ルを遣手にかぞへられ

やくそくをやりてまで出て一火すえ

きなはるといつてやりてにしかられる

大せいじやござりやせんとやりていひ

やりてばば毛ぬき合にいもじをし

すはる時やりての頭を三つうち

若い者身どもが女郎いまだこぬ

若い者片手にぎつてのんで居る

どれなりとおつしやつてはと若い者

待つ人は来ず若いもの〱

あんぽつに致しませうと若い者

大ぜいのへんじに若衆一人来る

若い者羽織ひつかけ江戸へ出る

若い者しつけとり〱江戸へ出る

若いものふるは〱と雨戸くる

若いもの少ししさつてついでのみ

下駄いじる度ヒにほしがる若イ者

まかりならないになん義な若い者

汐会を見て御願ひと若い者

百両と手桶あづかる若いもの

若いもの諸さむらいにはこまる也

座定つて若いもの呑みはじめ

御衣でずい分よしと若い者

片手にぎつて若い者のんでいる

大病にぜげんの見える気のどくさ

買出すとぜげん糸瓜でおつこすり

かみけづりゆあみしぜげん手入れする

なた豆をくわせてぜげん直をきめる

水損のあぜをふみわけ女衒来る

木薬屋ぜげんのそばで五両取り

ちつとにほはせるとぜげんつきに付き

あかぎれの有る内ぜげんうらぬ也

直の出来ぬ門でぜげんは一つぶち

泣そばにぜげんぶつてうづらで居る

おんぢいといふなとぜげんしかる也

さいふでももたしやつたかとぜげんきき

かねたいこぜげんまた〱きいて居る

まま母とにらんでぜげんやすくつけ

もらひ泣四つ手ぜげんに叱られる

ほんの御つき合ひにてぜげんの泪

昔のぜげんいい人をかどわかし

ぜげんさまたのみますると母おくり

うりくびをぜげんの見込むむごいこと

せんだんのふたばをぜげんほじり出し

つぶれ前ぜげんまで来るむごい事

ひえだんこ喰ふをぜげんは直をつける

手拭ではたいて女衒腰をkwけ

おかしさは女衒の娘いいきやう

又へどをはくかとぜげんござをあげ

ぜげんへの子女を玉とおぼえてい

かごなれぬやつをぜげんはつれて来る

立すぐり居すぐりさせてぜげんかひ

かけごへの無い四つ手にはぜげんつき

のろツこい四つ手跡からぜげんつき

泣顔があのくらいだとぜげんいひ

虱をば先づぬがしやうとぜげんいひ

ふけいきなほえやがるなとぜげんいひ

大門だ泣くとしばるとぜげんいひ

吠たとてかへすものかとぜげんいひ

お白が泣くとへげるとぜげんいひ

わんぼうで背中かくなとぜげんいひ

ほえただけ五両さがるとぜげんいひ

べちやあねへむく犬だよとぜげんいひ

さア爰だつらをぬぐへとぜげんいひ

買物だなぶらしやるなとぜげんいひ

ほえるなよかなわぬ事とぜげんいひ

子だからも身のさし合とぜげんいひ

大山の梢にむごひ女衒也

うそも少しはつきますとぜげんいひ

仕合な我はものだとぜげんいひ

小便を座ってしろとぜげんいひ

痩ぎすがふとつてぜげんらうづにし

仲人も度ヒ〱するとぜげんなり

麥つきうたをうたふなとぜけんいい

なさけなくぜげん娘を引つたてる

隣で火もらい女衒へ多葉粉盆

しすましたぜげん医者様連て来る

梅に鶯をぜげんははいてとり

どろさめて買てはぜげんこきむくる

いつ迄もひぬと駕の戸ぜげんたて

かりの名は伯父本名はぜげんなり

つらをぬくへと手ぬくひをぜげんかし

かり人の子とぬかすなとぜげんいい

大病人の足元トをぜげん見る

ふるしさをぬがせてぜげんうつてやり

せつかくとつけたに壱人り娘なり

たのもしく見せて娘をうれといふ

娘をうれと善兵衛や源兵衛いひ

玉の輿乗れば女衒の恩もあり

さう吼て客をかけろと女衒いひ

十年は夢でござると女衒いひ

四五日女衒の末顔びく〱し

にこ〱と女衒のするはすごく見え

宿下りの成らぬ家風と女衒いひ

恩愛の別れをぜげん屁ともせず

掃溜の鶴鳥籠へ女衒入れ

此つぎは月だとお針縫て居る

短い日だぞとな針障子を明ケ

身揚りが来てはお針の邪魔をする

惣花に針とまなはし罷り出る

ぬかぶくろ斗もおはりいいしごと

ぐつとおし出してお針はすひ付ける

がつかりとお針八朔ひまで居る

七月が小でお針のいそがしさ

こはい事お針に借りて心待

よつほどの腹立お針立て追ひ

大一座お針も返事すけてやり

ふるつたりたつたりお針一首讀み

弐分かしてお針かんざし三本取

天のあたふる物をお針迄取

銭がせつかん針が出てとりさへる

よばれても二タ針三はりぬつてたち

さあ見世を仕廻ひやしようと針をさし

針妙をおはりといつて叱られる

女郎衆はさぞと大汗かいて縫ひ

こつふとの腹立お針立て追ひ

いい仕ごと御針旦那の御意に入り

朔日丸通ひお針がすすめに来

ふみ使引つさく迄を見てかへり

文使よつ程すいな気ではなし

文使ひむす子をはすにまねぎ出し

文使あるいはいさめまたしやくり

文づかひ袖口を買ふひつらこさ

文遣ひ道など聞いておびき出し

文づかひ御用に一寸よび出させ

ふみ使そらにべんを度々たれる

文づかひそらツとぼけが上手なり

文づかひ遠くで一本ぬいて来る

文使むすこがるすではじまらず

文使ひ枝豆売とすり違ひ

文づかひえんもほろろの目に出あひ

文使嘘と誠をしよひあるき

文使ひうそもまことも一つかみ

ばくろ町二かいへずつと文づかひ

ふみや〱といふほどにもつて出る

にぎらせてこつそりきえる文使

色々にじやらして渡す届げ文

ちとたらぬ男にふみをたのむ也

一ぺんはすげなく通るふみ使

にうり屋でのませてかへす文使

又あけて見なんなと文ことづける

ことづかる文でほうなどなでて見る

逃水を追っかけて来る文づかひ

まづいこと束ねた文を抜いて出し

ちらし書田舎へ行くと蜘下り

吹降のやうに読ませる散らしがき

素人のよつても読めぬ廓の文

傾城の文に女のよりたかり

切文の奥へ飯盛殿と書き

切れ文にせめて使のむこづくし

けふしとは暦に見えぬ日附也

いつなりと届いた時がけふしなり

只でくる文の日付はけふしなし

いつとどいてもよいよふにけふし也

吉原へてんねさ配る十七屋

度迎たいこ四五通持ってくる

御ばんとはとらこの方の詞なり

そこらをばぬかる物がとことづかり

そらごとを有りがたさうに息子よみ

腮を剃るうち見る文をひつたくり

嬉しがる奴だと文でくらはせる

めもじならではわからぬと玄田生やつ

封ちがひふきげんな客二人り出来

節句前封を切らずに中がよめ

二十日過文でおつかけおんまはし

玉づさといふものへ降る二十日過

火のついたやうな文だとよんでいる

つり針のやうな文で客をつり

のたくつたみみづをえばに客を釣

文屋どんもうござんなと女房いひ

立ひざで文を書くのもすがた也

暮の文候へ〱候に書かぬなり

候べく候に書いた文遣公様

里遊とはおのしかと母文を出し

女郎から樽同前の文を入れ

世の中は暮れて曲輪は昼になり

蝙蝠に山椒くはせにいい時分

まだ来なんせんかと椽へ腰をかけ

およんなんしたかとけちな形でくる

鈴をふる火をともすのが合図也

鈴をふりたて行燈たきつえる

がら〱と鳴ると夜分の體を見せ

すががきで咸陽宮に灯がとぼり

清搔と玉子〱で幕が明き

すががきはみそするやうな四つ時分

両側で味噌するやうに弾きたてる

すがいきをてんぷに弾いて綿をうち

作左衛門流ですががき弾いている

毛氈のうえで合の手ばかり弾き

三味線をばらがきに弾く音にうかれ

すががきを中腰でひく人違ひ

百物語ほど入れて顔を見せ

すががきにあはせ蚯蚓をのたくらせ

色文を人中で書く勤の身

文などを書いているを掦ぐべからず

相惚は顔に格子のかたが附き

ひる見世へおしよくはなまけ〱出る

格子うら呑む一ぷくは連れの恩

煙草盆きらひな奴も前へおき

また見世へ煙草盆出す気の毒さ

毛氈を立って帳臺深く入り

勘定づくで畳の上のを買ひ

新身世につくりなほしが並んでい

居たあとをたたいて見世にてれている

椋鳥が来ては格子をあつがらせ

さうは云はうが手短に書きなさい

手の筋を格子の外へ出して見せ

格子から其手をとつて筋を見る

蓼喰ふ蟲もなく毎晩売れ残り

二三人手寄向キがうれのこり

引ケ過までほれのこされるつらいこと

天とう正直あばたがうれのこり

引ケ四ツの鐘に籬の花は散

裸壬らしく毛氈うれのこり

薄くらい内からさらし残ってる

売れ残り実に十目の見る所

目明千人じやつつら売れのこり

拍子木の枕に近きおもしろさ

ねきものが二度目の四つに二三人

間違んしたとあばたは又座り

目うつりがすると三百間あるき

引きぞわづらて引ケ四つ迄あるき

炭はねて引四つ程にどつと立ち

世間ではとりもちひざる四つを聞き

引ケ四つを階子で聞くはめつけもの

引け四つとやらがなるよとははしやれる

工面する内此界の四つを聞き

壁に耳有ツて引四ツ聞付る

毛氈へ孔雀羽ばたきして座り

銭との相談毛氈売れ残り

あたりを拂つてとく帯売れ残り

気の多いやつを門内どりにする

駒下駄をはき〱ぬしをつかまへや

いけどりを先へ引かせて八文字

そだ〱と駒下駄をぬぐすばらしさ

駒二疋櫻の本へぬぎすてる

七文字へらして客を追かける

客をとらまへる時は一文字

伏勢のあぶれはのろり〱来る

伏勢は大門口を楯にとり

伏勢にえりのこされし笑ひすぎ

伏兵を買くは鐘四ツ過ぎの事

待ちぶせは髪切丸をとぎすまし

こつちから三番目だとあごでいひ

引ケ前の初会振られて来たのなり

初会にはあてがいぶちをくつて居る

初会では隣の部屋へ行ってくひ

初会にはみだりに䑓へぶちまける

初会にはまつおしきせの通りにし

初会から食はせてたいこ二歩もらひ

どくだてのやうに初会は喰はぬなり

十人が十人初会たべんせん

御大法通りまたせる初会なり

なげられもしやうかと初会片くろう

ゆふべ初会のごてれつがらんをいれ

初会には隣あるきをしてくらひ

佳肴ありといへども初会にや喰ず

大言は吐きは吐いたが初会ぎり

吉原がいつち下直と初会きり

こんたんの来た夜初会はみぢん也

うすがきやそら色で来て初会ぎり

草も木も寝るにまだ来ぬ初会の夜

翠帳紅閨にけろりと初会の夜

引け過の初会なまいき過ぎたやう

懐も廊下へよんで聞合はせ

上げんせうなどとおつこちさうにさし

嬉しいね松尾の浦がききいした

きに惚れたとは山吹の事だらう

あれ葱をたべなんすよと大さうさ

階子から見立てた客の二度は来ず

初会には道草をくふ上草履

むつとした耳へかすかな上草履

ねたふりでちくいちに聞上草履

しつぽこへ通りかかりし上草履

大どふの向ふにのこす上草履

ざんぎりにしなとどろ〱上草履

上草履殺して歩行く憎らしさ

上草履ばた〱〱と外へ行

上草履思はせふりの音がする

上草履片々夜着へたたみこみ

上ざうりねつてくるのは気のないの

上ざうり跡からくるもわきへされ

上草履ぬいだを聞てそら寝入

上ぞうり引四つからは横へはき

上ハぞうり客がはいてはしづか也

上ぞうり跡じつさりに客へかし

上ぞうりぬぎちらかしてむぐり込み

素一分は仇やおろそかにあそばぬ気

素一分はとつかへべいが怖いなり

す一分は吟味しぬいた金を出し

素一分もぜんたい我れが金でなし

す一分もしらず駕かきついて来る

素一分のむねん道々追こされ

す一分は落手せぬ内気ぐろうさ

す一分を持ってそかいやこかあいや

す一分は素見に少しひんがよし

素一分の威光できうと召されたり

天命につきて素一分もらハれる

素一分で女房はえちご屋へ上り

つもつたときいて素一分きえるやう

又初手の一分を出したふといやつ

一分づつおれにわたせとこりたやつ

むほんとはたいそうらしい一分なり

まずり見世一分うや〱しくすわり

三人で二歩だがかえる〱

三人で一歩たらぬを二歩あまし

すけんの中をす一分の気の高さ

やほなやつ一歩がくろうしてかへり

ほつぺたを窪くするのが一歩なり

百安に口うら一歩出して喰ひ

壱分のうけ取御休なされませ

三人で弐分鬮にしやう〱

一晩に再縁をするいい女郎

あしか四五匹ついて出るいい女郎

鼻うたで来るのはけちな女郎買

縁なき衆生行燈をっし向ひ

寝たふりをのぞいてどつか又うせる

化けて来た狐狸をおこすなり

たぬきしてツイ狐をば取り逃し

御簾紙で狸の顔を二つぶち

御簾紙を寝なんしたかと下におき

女郎が来たでめのさめたふりをする

紙二帖寝巻の褄に持ち添へて

後の仕手しごきでばたり〱来る

まじいまじりいまはしい初会

空鼾心で笑ひ文を置き

寝まいちは申やせんと書いている

寝入られずに居なと硯を持って行き

夜つぴとよ他出しているむごい奴

はやる奴夜中出見世をあコつてる

腹さんざぶら〱されるけちな晩

煙草をばお断ちなんしたかへといふ

焼けぎせるみだりに女郎おつつける

よく嘲しなんすと煙管ふり上げる

二朱よりは一歩の嘘がおもしろい

のべ紙を顔に一枚ひらつかせ

三今一灰を女郎は客へ出し

ふところを廊下へ呼んで聞合せ

恋といふ正味のとこはつまむほど

つれの部屋迄ついてくるうまい奴

持てぬ奴まだ薬までやる気也

気応丸のんでねつからききいせん

もてぬ夜は本を見い〱お間ヒかへ

このあばた見付みつけなんだともてる也

わざと爪とりなんしよともてる也

五両おい十両おいともてるなり

初会に花を遣つたよと下戸笑ひ

おそいからたいがいもてた初会也

どれにしたまうと初会を覗せる

ほうづきを口から出して間ヒをする

畜生めこんどから一疋来なんし

あどけないやうで無心抜目なし

ほれた顔するとたちまちねだる也

連て来てくれなと一つどうづかれ

惚れたまね上手にするではやるなり

大くぜつ高がばい女と云ひつのり

持てたやつ寝なんしたかと来て倒れ

大くぜつみす〱雪にかへるなり

振切つて帰らんとすれば羽織なし

あやまったよと廊下でとちくるひ

売れ振のわるさ癪だの痞だの

附馬油断放れ客〱

睦言の中へ油をつぎに出る

五六寸かきたてて行く寝ずの番

看病づかれで四年で寝てかへり

あはれむべしす一分にて雪にあひ

いい男身の毛もよだつ文が来る

目をぱち〱でさそひ出す憎いこと

あの探幽にせ筆ともてぬやつ

もてぬやつかんら〱とうちわらひ

ゆうべもてたのを女房にうりにされ

祐筆をやとつたやうなけちな

まアでなくきツぱりうんといひなんし

じれツてへよの字廊下にあまる程

命へ無は虫の根を切る仕かけ

証文で借りて手紙へ貸してやり

うぬ惚は遊女のための後ろ楯

金銀を取られた跡の歩あしらひ

もてぬやつは吐月峯に迄八ツ当り

もてぬ奴女房のほうが遥かまし

もてぬやつ馬のねがへりすることく

この手合行く日になればにみら入る

太へ奴手振人をすすめこみ

もつと居ねえなと米さし取あげる

主人相しらず四ツから以後のこと

駿河の国の住人は引ケにくる

引ケ過の客小額のある男

すががきの中を手代は出てかへり

范蠡が寝てから越の手代ぬけ

五六人ゆふべを眠る呉服店

地廻の来て即席の毒をいひ

地女は階子で重い声があり

地廻は河岸へ田螺のつぶてうち

もてたあす手桶の汁は身につかず

地廻の向ふへ切れる惣仕舞

身代はなくしまいらせ候か

じやくめついらくから賑かなところ

いんどうの最中玉だの丁子だの

いんどうが済むと魔道へ引こまれ

鐃鉢で行く相談が聞えかね

普門所半分頃で横に切れ

かん定のわるさ五人で二歩のこり

代金をとる内女郎はづす也

番所が助太刀をして切つける

指きるも実は苦肉の謀りごと

金がなくなつて女郎にいけんされ

一国せいばいで息子かみ切られ

ざんぎりにされたも女房憤り

ざんぎりのさうを茶屋にて結ひ直し

賞罰正しく指を切り髪を切り

そられては連にも物をいはぬ也

法度正敷ざんぎりに息子され

ざんぎりの母こりやれよ〱

がうに入ってはがうはらなはざんぎり

男なるものの元どり切るところ

よくつらをふみなんしたとぷつり切り

罪科をいひたて元どりを女郎切り

ざんぎりでたたきばなしに息子され

賞は指を切り罰は散切にし

美しい狐男の髷を切り

なぜでもとむすこ手拭かぶつてる

いがぐりに頭巾かふせて小一年

とんだ目にあつたと頬被りでくる

頭巾でも召してと茶屋は笑止がり

いつこくな所と田町の床屋いひ

髪がゆわれて餘の家へ又通ひ

黒塗のまな板指の小口切り

桶ぶせの伸はやう〱半分し

桶ぶせの顔へ四角な日が当り

桶ぶせをとれば律儀に立あがり

桶ぶせへ餌を入れる手の美しさ

桶ぶせは元手の入た業さらし

桶ぶせは淋しく成ると首を出し

桶ぶせは金こそかはれ道成寺

桶伏せのあたまで這い入る市二日

桶伏せになるほど今はさがらせず

桶伏せと入れ皆にする座敷牢

桶伏せはこく〱皿をぬぶる也

伴頭が来て桶伏せにのびをさせ

馬をしよつたのが一生のふ人柄

向ふの人のない所つ下げられる

化けて出る帯は背中に落附かず

前帯を後へまはす客がくる

町風に化けて一日気をはらし

金のない方へ涙を封じこみ

引つぱづれはづれて堀の女房也

弔が山谷と聞いて親に行き

相談をしい〱輿のあとを行き

施主が聞いて居るに行かうの行くまいの

七日には入るのだと施主一歩かし

弔の天窓にしては光すき

弔ひをよろしい筋と息子いひ

葬礼のもとりにふらちしごくなり

ほつ言をしたやつ寺を先へたつ

弔に息子おこはにかけられる

弔に行衛知れずが二三人

弔ののくづれ三分は売れ残り

弔に附合づくが入るものか

弔のうらはどうぢやと湯屋でいひ

弔に泊って来たが落度なり

息子まだ弔からはいやといふ

あれが死んでも弔にやるか見ろ

北の六公はくろはぶ重でこし

ひとさかりおもしろく寝る北枕

四五両のおこはを息子ゆんべ食ひ

肩衣をかけ百膳をくひに行キ

ふり袖でぶつを肩衣あひしらひ

肩衣で女房をばかす門徒宗

上下に附く駕かきはたけたやつ

それもそうだと上下をぬぐやつさ

上下をぬぐと無情も恋になり

上下をで三百帰らぬはんじもの

御客さまだはとけちな上下で云ひ

上下を引ずり戻す中のよさ

上下で乞食に聞いておつかける

こち風の吹く夜は見せで伽羅が入り

死ぬもの損女郎屋は浮ぶなり

こりもせず禮から直に息子行き

町内で間もなく死んでうらへ行き

袂から今日は是ぢやと数珠を出し

もてぬ奴田町で犬に吠えられる

中宿へ出家這入ると医者が出る

中宿で届けこじれた封をきり

中宿でまづ初手のからふうを切

中宿へまじめなかおで申入れ

中宿で紙二三枚うなり

中宿は行燈張ると反古にされ

金がなくなると中宿いけんする

中宿がみやくを見に来る内の首尾

中宿は上封じて持って来る

中宿へくるところもに紋をつけ

中宿の子は化けるのをじろ〱見

中宿のまへをげんぞくわらつてく

中宿の内儀おどけて脈を見せ

中宿からは手を長くして通ひ

中宿は貸脇差を持っている

中宿へお袋のくる一大事

そうわりにして中宿も連れて行

牛のぬけがらを中宿まふなり

愚僧化して医者となるおもしろさ

法衣より羽織のふうがきついこと

法衣をぬぐと懐剱を和尚出し

茶箱もたぬばかりに様をかへ

羽織着て降魔の利剱一本さし

脇差を戻せば茶屋はかのを出し

羽織着たこと人に語るな穴かしこ

其骨柄はあつぱれな医者と見え

きつつなれにし大門で生やす也

附ケ髪を黒縮緬がつれて行き

出家で儲けたを医者でつかいすて

ふとどきな命法衣へつつむなり

人口を衣モでふさぐにくい事

ゆうべにはいしやあしたには僧と成り

医者はりはやはり和尚でられるなり

脇差をさすと和尚も面白し

行く時に小道によつていしやになり

似合ツたか杯と納所はさして見る

いしやにさまかへるはまだもりちぎ也

いしやに似たものが一人であるく也

医者に似た者が羽織で二三人

薬くさそうな形りで抹香くさい

ふとどきの事は和尚のうしろ帯

後帯前へまわすと気さん也

脈を見ておくんなんしに化がわれ

本とうのいしやになりなとしなだれる

医者をやる時にや病気といひ悪うし

長羽織袖に衣の癖が出る

医者のふりをしても衣の手ぐせが出

還俗の当座愚僧がちよつちよつと出

小性よく医者になる事やかぬなり

医者と見えやうかと和尚初心也

袈裟かけて取て羽織で遣ひ捨

大門(だいもん)は和尚大門(おおもん)にては医者

医者と化し地獄へはまり火の車

印籠をくれなと尻でおこし

竹の印籠をもてうちん持はさけ

俗の目を四角にふせぐうまい物

ふられた狼愛別難苦と所化さとり

前帯をうしろへ廻す客が来る

だんばしごどう切にしてしよって来る

ひそ〱と廊下にかおがとどこほり

耳こすり案にたがはず貰に来

貰引どっちへ来てもよっかかり

貰はれて店たてくふけちな晩

貰はれた夜は両方へ蚊が這入り

気のどくでありんすねいとあばれ出る

お気の毒などと座敷をおったてる

客二人座敷と部屋に劫をうち

身一つを田毎の月のうきづとめ

二割引の布団に寝るけちな晩

割床も絵の方へ寝る姉女郎

拍子木の枕に近きおもしろさ

いけぬこと何を聞いても知りんせん

ぐつと寝てやりんしたとはむごいやつ

頬杖でかへし申しやはけちな客

宵立の客は何やらききかじり

鶴も啼け鐘も鳴れ〱ふられた夜

帰らうの引くの山ので鶴がなき

小便所面白もない人にあひ

婆婆以来これは〱と反りかへり

女郎屋のお掟をひよぐりながら読み

大鼾別れの情は更になし

寝こかしというて帰れど振られたの

寝こかしにするのみならず屁をかがせ

寝こかしはどちらの恥とおぼしめす

来なんす気なら来なんしとむごい奴

待なんし羽織の襟がばからしい

袴腰気強くあてぬ意趣はらし

ことづてを戻る背中へたたみこみ

はかまこしあてたを女房くやしかり

未進積つて山形に娘なり

袂にすがりては顔を見せなんし

約束は頭巾の山を打ながら

別れての寒い階子をかけ上り

きぬぎぬのあとは身になる一寝入

光陰を四つに切った迎駕

手水場の垣に楊子が二三本

鳳凰と桐を残してみんな売れ

よい客を三の糸ほどあぶながり

山形も三味線を取る隙な事

北狄の為に遊里にとらはれる

隠居さん行くに息子に於ておや

さかづきで按ばいをする小鍋立

しつぽこをどツと来てくひぱつと散り

手へ受けて見て居続の胴をすえ

風花(あざばな)のうち居続の煮え切らず

雨でも雪でも居続けさ〱

居続けに用いてよきがちらちら

いつづけは女護の島のふろに入り

居続けに高をくくるは実子なり

居続けはおととひ知恵を出したまま

居つづけにはじめて見出す白あばた

居つづけは二寸切らるるかくご也

居続に馬鹿〱しくもよい天気

居続けに顔よりひどいあらが見え

居つづけをつかみ出す気でおやじ出る

居つづけは見世から文でなぶられる

居つづけのすだれへ帰る不届さ

居続けへなまにんじやくな母の文

居つづけのひんふんで置く母の文

居つづけのむあひおつこちそうな腹

居続けのかへり馬糞をみやげにし

いつづけのもどりは安いたばこにし

荒切は一夜サぎりのはれに買ひ

帰ツては行き〱しやと母しかり

ままよかはよは居つづけの合ひことば

大一座先陣既に堀へ着き

大一座後陣は未た秋葉にい

大一座もとがとむらひ軍サなり

大一座焼持の分も二人揚げ

大一座そりやとなけ出す耳たりひ

大一座内をあんじてしかられる

大一座なけなしの美女もらはれる

大一座黒豆のあるへどをはき

大一座ふきよせた程上ぞうり

大一座いただいてのむやつもあり

大一座後生大事に名をおぼへ

大一座となり座敷はさし向ひ

大一座多芸なやつはあぶらむし

大一座何ンぞかしらのくづれなり

大一座鳴りのしづまる急事

大一座けふの仏と口ばしり

大一座よりどりにてしかられる

大一座むり往生はじゅずをもち

大一座あみ笠えんりよすべき事

大一座一番首をいどみあひ

大一座奥へさすおしのつよいやつ

大一座下戸は女郎をあらすなり

大一座中にしろうと五六人

大一座女郎はかつち〱うけ

大一座下戸ねたがつてしかられる

大一座しろうと方と茶屋でいひ

大一座人のふんどし二三人

大一座おすな〱とのぼりなり

大一座はかまがついて安くする

大一座松葉の中へつつぱいり

大一座かさばつかりと遣手いひ

大一座らう下へ遣り手尻を出し

大一座黒とそら気はつけなり

大一座禿てんでにつれて行

大一座三歩をませて気がつまり

大一座のむやつ中へ〱と出

大一座どれがおれのやら人のやら

大一座軒をならべてふられけり

大一座のろツこひのはいもをしよひ

大一座ふられたやつがおこしばん

大一座冬瓜の花と見くびられ

大一座うらやくそくはそねまれる

大一座よきさいはいは何事ぞ

大一座数珠をとん出すふざけ客

大一座買あてたのも二三人

大一座くらわぬやつがあとをいき

大一座いただいて飲む奴もあり

大一座鬮にて勝って一人寝る

大一座下戸にえり取て仕廻ふ也

大一座からつ切りなが二三人

大一座いんぐわと聟がもてる也

大一座ねきものまでもさらへ出し

大一座正風軆がもてるなり

大一座どこだ〱と御床入

貰うならみんなやらうと大一座

恋無情なととおどける大一座

死花がさくとは今日の大一座

人といふものは知れぬと大一座

せう香のじゅんにと笑ふ大一座

是でかがれが情まると大一座

無情の風にさいてはれた大一座

さかづきで一連の定まる大一座

ねごひのがいんきよのたぞと大一座

かうはらがおこしてまはる大一座

天道さま次第のも出る大一座

ぬれ事師にはかまふなと大一座

ものなりををさめぬも有大一座

町代は油むしさと大一座

喰ものの能い所にする大一座

すがかきも文も立つてく大一座

じきあひも時によりけり大一座

よしの勢しづか玉屋へ大一座

ありがたのおとむらいや大一座

おんとむらいのありがたさ大一座

大門へかり門の無い大一座

ひつぎをおくりふとどきな大一座

町内のぎりさへすむと大一座

新古のしやべつなくあげる大一座

宿わりがすむとしづかな大一座

神楽過うまして女へ大一座

えんりょ過ぎるとくずをとる大一座

ちつきよして居る迄が出る大一座

二タ人づつひツそりとなる大一座

禿まで生酔にする大一座

ふなやどへ上下をつむ大一座

つき合で左官もまじる大一座

跡ねんごろにとふらひて大一座

施主はまだ泣て居るのに大一座

花崩れ杓子くわほうな大一座

ねだりに来たよふに座頭大一座

あたし野の露をわけつつ大一座

五月女の仰向いて見る大一座

ふげんともならふ四五日前に買ひ

遲いうら大概もてた初回なり

うらの客船宿の前行きすぎる

うらの夜は四五寸近く来て座り

うらの文一座残らず同じ文

うらに行き聞けばをととひ象に乗り

はまりけりうらに夜食を對にくひ

二会目はほれそふにてよしにする

二度三度あしたをはこんでやつともて

二度と行く所でないと三度行き

三会目あたりなますへ箸をつけ

三会目しやくしあたりが別になり

三会目から人柄がぐつと落ち

三会目国府の下へ二両置き

三会目もててうれしく無い夜なり

三会めこころのしれた帯をとき

三会目母は一歩で行けといふ

三会目もつとこつちへ寄りな也

三会目みしり〱とよじ登り

三会目ちつとは女郎かつたよう

三会目やうやく女郎かつたやう

三会目くれそめて金ひびくなり

三会目そこいつめたき帯をとき

三会目金のへる木を持ツて出る

三会目しよぞんがあるではやく来る

三会目同士が来たのでむづかしい

三会目はし一ぜんのぬしになり

三会目とけどけとしてかえす也

三会目ひがわるいとは本のこと

三会目さん用づめの金ばかり

三会目しやくの居所をいぢらせる

三会目私しやつめとうありんすよ

三会目きうの跡などいじらせる

三会目わツちやふとていんすによ

三会目よんどころなき事ばかり

三会目あたり帰るとさがして見

三会目斗りが江戸のはりにもれ

三会目爰をせんどとうそをつき

三会目帯をとかれぬ気の毒さ

三会目ちつとも座敷明ケぬ也

三会目女郎に土砂をかけたやう

三会目花だ趣意をわるく逃げ

三会目気の減る程に取りに出る

三会目心のしれた帯をとき

三会目是も邪魔だに取んしやう

三会目中〱婆婆の沙汰でなし

三会目賄賂をつかひもてる也

三会目いひつな礼に丸のの字

三会目斗りが江戸のはりにもれ

役徳の宜しいは裏三会目

かんらからとぞ笑ひける三会目

人俗の私も出る三会目

義理にふんどしをはづすは三会目

ふんとしいせうどつちらも三会目

ねて金をやるといふこじ三会目

すけべいなけいせいの出る三会目

物云事愚なるが如し三会目

どこもかしこもやわ〱と三会目

四五会めどふもうれしい事をいふ

まだもてそふな物と思ふ四会目

面白さ箸一膳のぬしとなり

床花がすむと女房をせんぎされ

ぬはたまを無ひ覚へて片しまひ

箸のある丈書いて出す暮の文

くれるかと思へば鼻をちんとがみ

紙花もしばしの内の金まはし

紙花をちらして今は屑拾ひ

ほれ所もあらうに女郎襟にほれ

里焼にせずと小判はほれるなり

惚薬二帖国府の中へおき

小使の留守引出シへ二両入れ

床花を一両二歩とじみるなり

一両の床花取やツと二歩

なん所をこして四会目へ上るなり

床花の禮に夜一夜つめられる

朝がへり遠くで見れば掃いている

あさ帰り梅わか丸を親仁ぶち

朝がへり敷居は一の難所なり

朝がへり敷居は箱根八里なり

辻番のじきにはこまる朝がへり

安いものだと旅人の朝がへり

とやあらんかくあらんと朝がへり

きんたまの用心をする朝がへり

亭主から物をいひ出す朝帰

はいかんを道々くだく朝がへり

臨様応変にしたがふ朝帰り

極楽を出て修羅道へ朝帰り

はらませて置いてとわめく朝がへり

女房が利口でこまる朝がへり

女房に威あつて猛き朝がへり

両眼くわツと見開いて親父待ち

ちと〆めてくれうと親父寝ずにいる

おもしろくないは親父の尻目なり

ぶきみなるものは親父の空寝入

花を見てそしてと親父むづかしさ

人は人なぜ帰らぬと親父いひ

二ツ三ツ帯ひろどけて親父ぶち

行ったなと雪をむしつてぶつつける

とぼ口を母が掃いてるありがたさ

母親を湯番門から招くなり

くぐり戸があいたと御用湯へ知らせ

〆出しのやうに朝湯を待っている

叱られて今朝出たと母苦労なり

ぴんとして女房戸口の錠をあけ

ゆふべのは口舌けさのは喧嘩なり

月落鳫啼て女房はらを這

夫ともと母は朝湯をのぞくなり

朝顔もつらをしがめる長小言

機嫌をとると女房油断せず

女房にへつらひすぎてけどられる

はらの立つ裾へかけるも女房なり

けんべいに火鉢をあらす火のしの火

女房のいつぱいをする朝がへり

帰つても膳を出すなと下女にいひ

傘で日頃の嘘ががらり知れ

信心なことだと女房舌を出し

女房のいんぎん根からこはくなし

こはい顔したとて高が女房なり

つけのぼせ母はにくさとなつかしさ

行くなではないとは粋な異見なり

三文が女郎も買はぬ気になりやれ

無理な異見魂を入れかへろ

唐紙へ母の異見をたてつける

異見聞く内だけ怖い伯父の顔

一療にして見ませうと伯父はいひ

伯父が来て兎角他人の飯といふ

どうなりと仕やれと母は蔵を出る

蔵へする給仕は親仁は知らぬ分

あはれむべし終にむすこざしき牢

(かど)で大腹立てござるぞよ

おふくろの留守に仕上げる座敷ろう

座敷牢母二三日留守といひ

座敷牢初手は遊里にとらはれる

座敷ろう手代も一人宿預け

座敷牢女房の方は手がらなり

座敷牢目里のばちと母はいひ

座敷牢九月しまとは母の慈悲

座敷牢大工を入れて〆て見る

座敷牢腰縄で出る十三日

座敷牢そふも有ふと遣手いひ

座敷牢数珠をねだつてこわがらせ

座敷ろう酒をのませて母ぶしゆび

座敷ろうふみをとどけて母不首尾

座敷ろう母も手錠がものは有り

座敷ろうばん頭なきにしもあらず

座敷らうよもやで羅切願ふなり

座敷らう通ふつばさをいれておき

座敷牢たたませて置くいやなきみ

座敷牢出入の大工じたいする

座敷らう薬をのめにゆだんせず

座敷牢時に茫彖伯父きなり

座敷牢母信心をしやれなり

座敷牢うたをうたつてしかられる

座敷牢母の投込む謡本

座敷牢母二百八十両のどら

出牢をするときせると髪の事

わびことがすんで座敷が広くなり

甚六をしかり通してたつねに出

勘当の跡甚七がものになり

勘当も初手は手代に送られる

勘当の訴訟のたしに髭がなり

勘当は雪か雨かのあげくなり

勘当の羽二重で居るぶはたらき

勘当をとろ〱母はしそこない

かんどうへ持ってうやろと銀ぎせる

勘当の内おそろしいよみに成り

かんどうの内江戸中でかみをゆひ

かんどうの内江戸中の湯に這入り

我が内の入牢馬鹿げたやうに見え

かんどうをしても母親ゆすられる

勘当を寅の日にする深い慈悲

勘当もしええず母と姉こまり

勘当のゆりた祝に又こける

勘当はゆるす親から涙ぐみ

勘当の一日二日帆かけ船

勘当の前夜四手の底ごぬけ

かんどうも二タてうしめでゆりかねる

勘当の詫言に来る仏の日

かんどうをよぶてとむらひ三日のび

出し月かもとてうしの懭で見る

手を鳴らし過ぎたで銚子へ所替へ

さがりとり銚子へ行けと突き出され

さがりおふくろを見てつけ上り

からだちに成って一ツぱし縫ひ習ひ

からだちに成って勘当許すなり

勘当を麦で直して内へ入れ

えぼし親勘当の時すくふやく

はせをのうへでかん当をゆるすなり

妹とむことかんどうわびるなり

裏門へ出やれと尻を押して出る

格子からそりや投るよと甘い母

近所には居るなと母は二両かし

近辺にからまつていて母をはぎ

ちと内へへめぐるべいと息子いひ

勘当の内にかるたが大あがり

鰨よる浦へ息子をぼいこくり

勘当の見ならひに出る舟

江戸に居やれとおふくろの未練なり

一つの功を立てやれと母の文

つみ有つてむす子てうしの月を見る

てうしへの路ぎんに払ふ銀ぎせる

てうしからさすらへの身としやれた文

てうし口おれが半でもうまるはづ

店請はてうし二人は江戸言葉

羽二重はいやとてうしの質屋いひ

いたはしやむすこてうしの帥になり

後の月生きた鰯で飲んでいる

当分はかしま参りと母はいひ

てうし言葉で臨終をすすめてる

又てうし言葉と母にしかられる

今でこそわらへとてうしばなし也

めしでもくひなとわびことかへる也

麦飯の後あやまつてあらたまり

麦めしできたへ直してよめをとり

いまわの時に孫のある嫁をとり

てうし言葉にて御すいりやうなされまし

母への返事麦めしで封じてる

なじんだがしんだておやへわびがすみ

ののさまを二度うけ合ててうし也

親類の持あまされは麦をくひ

しりみやを洗って息子内へ入れ

けいせいの人別帳をうりに来る

直の高い奴には屋根をふいておき

細見はとつぽとやつておつかける

細見はよつぽと先へ遣つてかひ

細見はあるいて見るがおもしろし

ほそおで見てはべちやくちやしやべる也

細見にまでのけもののやうに書き

さいけんのひを打つ程にむすこ成り

細見のなじみのかほへやにをつけ

細見を見せいとまどへ首を出し

細見を見せては息子学者也

細見をのすみに地ものの名が壱人

細見をを嫁うしろから取てにげ

細見をを大もじに書くせんそうじ

御しんぷの見る細見は銭が有り

おしまづきに寄り細けんなどを見る

何といふ気だかさいけんおやぢ見る

おつかけて来て細見を買て行き

御めんかご中に細見よんでいる

たつた一人に細見を勝て行き

ろんごはしらぬが細見はかうしやく

御内儀の名は細見にまだ消えず

鼻毛ぬき〱細見よ細見よ

かなでした人別帳を息子もち

膏薬のあるは細見明地なり

ああら怪しや細見を親仁に見る

細見をかへりみさるはむすこ也

人別をめでたい事でぬけるなり

人は武士なぜ町人になつてくる

人は武士正九ツに女郎買ひ

侍のささぬ所が命なり

侍の遊び大小なげいだし

降参のやうに大小わたすなり

正宗も階子の下でわたすなり

なんぼ丸腰でもすぐに分りんす

六ツぎりの門で駕籠一人まし

門がやかましいで一分二朱が買

侍は座るとすぐに時を聞き

白昼の四ツ手こじりを二本出し

捨つべきものは弓矢度とふられ

内兜見抜いて武士を独り寝せ

則チと煙草盆斗カ残ってる

武士たるものを背中にてあしらひ

しやれるのをお国ことばてしかりつけ

女には御縁つたなき浅黄裏

しやうばをあててみやれと浅黄裏

役所とは身がうわさかと浅黄裏

へめぐつてこずやとさそふ浅黄裏

ぶく〱をしてくれおれと浅黄うら

腹あしくこうけいを出す浅黄うら

まだ出来ぬ顔へしかける浅黄うら

どつさりとざるへぶち込浅黄裏

どのうちへ行ってももてぬ浅黄うら

ぢん笠でつみ草に出る浅黄うら

猪牙の直をきめぬいて乗る浅黄裏

わごれめはなんぞときめる浅黄裏

打わつていつてたもれと浅黄裏

申〱お女郎と浅黄うら

文壱ツおろそかにせぬ浅黄うら

手くたとは何の事たと浅黄うら

たばこ入れやつてはくどく浅黄うら

石うすにこひ付て居る浅黄うら

つんとした女のそばに浅黄うら

浅黄うら度々敗北をして帰り

浅黄うら手をこまぬいて待つて居る

浅黄うらやわらでぎうをきづく也

浅黄うら入梅などといやかられ

浅黄うらいらぬ地もののきらひ事

ひるがひにゆくまじかやと浅黄同士

きん玉をひろげぬ斗り浅黄侍

文をかく側に浅黄はぶつたをrw

出すまじき所で浅黄武士を出し

紫はきでん浅黄は身どもなり

違ひ棚あけて浅黄はしかられる

シテワキで浅黄の通る花の山

ぶくづいた小袖で浅黄土手を行

ねぶつたら御めんと浅黄ばかにされ

うつくしさ浅黄さしづめ引きつめ射

はらあしく浅黄ハ見立なをす也

よつぴとひ浅黄これな〱といひ

夜着のそんりやうを浅黄は三分出し

ぎう〱と浅黄のうらの客がよび

をし合の有るに浅黄はたハふれる

紙花は浅黄はぐあんにおちかねる

あさきうらををあつひめにあハぬ也

名を一字かかれて浅黄うれしがり

気にほれんとしたと浅黄はを茶にしたり

まかりこしさんと浅黄はへ名をつける

おそい事何してしやいと浅黄きき

こう門をいため四ツ手に浅黄こり

床花をたしかに浅黄渡してる

素人にいふやうな事浅黄いひ

佐兵衛といふけいせいを浅黄かひ

金づちで柳と浅黄たたかれる

積といふやつで浅黄はそんをする

子をかりて笑ふ時分に浅黄来る

もとめればあいつと浅黄すけんする

しったかを浅黄の客はいつそ聞く

楽んで謡せず帰る浅黄うら

浅黄がうたうのが本のまちうたひ

交合の節の薬と浅黄買ひ

目をさましやしたおいとん申やす

素見物買はばあいつとゆびをさし

素見物見て居る顔をあけられる

素見物たからの山へ入りながら

す見物百何がしのおごりなり

すけん物それのいたりとはりこまれ

す見物本田にゆふは何ごとぞ

す見物其くせ倉にねんをいれ

すけん衆がいいと田町の酒屋いひ

す見物子見世などへは目はかけず

すけんぶつ見とれて居るとあげられる

すけん物二階に居るはしらぬなり

す見物おんなじやうに紅葉売り

素見物きたなくたかるひまな見世

素見物夜か短いとはやく出る

素見物目くれせぬのを上ケくれる

素見物秋の末よりふらつかず

すけんさんそれぢや千住と笑はれる

すけんとは神ならぬ身のかごいかご

すけん目をはなさず見たをあげられる

素見とはよほどひだるい道具なり

すけんでも門から内は気がかはり

すけんに向顔をなさぬきつい事

すけんぶつ昼寝して居るばからしさ

素見の足のとまるのは直キにうれ

素見めらだと笑つてく河岸の客

素見眼をやすめて通る惣仕廻

出し合つててうちんを買ふ素見物

たのむふみよろこんで行くすけん物

四つ手めがよんだやつさと素見物

見るが眼の毒とはけちな素見物

おかすさはすけん紅葉をうつて出る

つらい事すけんの思ふまへもあり

おかしさはすけんの女房りん気なり

と出たところすけんとみえまいの

こはめしのはらですけんをしてあるき

そうおうにすけんも内はふ首尾也

そかあよせ二朱だとすけん気の高さ

二三十やいてくんなとすけんぶつ

若い内だと土手を行くすけんぶつ

ほれたをすけんおもひ切〱

よんでやらずハとすけんの母はいひ

書くもんだなとすけんぶついらぬ世話

つらい事すけんに斗りほれられる

のむとこがあるとはすけんおきやアがれ

もの日のすけんとび〱にのぞく也

御夜づめが長いとすげんどくをいひ

行くもんだなといやすけんうさアねエ

けちな事素見とび込む水のおと

駕かきにつかれてすけんしたを出し

今の駕もう帰るはとすけんいひ

おれを大名にしたらとすけんいひ

おもしろくないとは素見尤な

憎そうにうせるはといふすけん物

ひとつ買ひするとみせかけ素見也

つき出しの噂素見の連が出来

貴様みれおれアあれだと素見いひ

本名は素見あざ名は油むし

そうおふに内をからくりすけん出る

おかいこで路次へ這入ルはすけん也

毛氈へちとお笑と素見物

囊中おのづから銭なくて素見

四ツ手ない頃馬やらう〱

馬道が駕道になる繁盛さ

四ツ手駕衣紋が息のつき所

四ツ手駕乗る気なやつはそつと呼び

四ツ手駕月のみやこをさしてかけ

四ツ手駕行の道でねだられる

四ツ手駕衣のさがるにくい事

四ツ手駕杉戸間近くよこにつけ

四ツ手駕中でくぜつをかんがへる

四ツ手駕くたびれて乗る物でなし

四ツ手駕旦那お紙と下駄をふき

四ツ手駕すてがねの内直がきまり

四ツ手駕札所をさけび〱かけ

四ツ手駕おンなじやうに心まち

四ツ手駕帰りに土をふんで来る

四ツ手駕御へいにじをしてまがり

四ツ手駕ふだらくせんをのり廻し

四ツ手駕むだ直をきめて乗て行

四ツ手駕ろう宅へ来るいぢらしさ

四ツ手駕女をのせてしにつ切り

四ツ手駕むかしあいいをいつたやつ

四ツ手駕まがる目あての榎木也

四ツ手駕横づけにするざつな内

四ツ手駕月下の門で一分取

四ツ手駕内から乗せるむごい事

四ツ手駕わけをいふ程ついて来る

四ツ手駕按摩をほうり投げてかけ

四ツ手駕跡棒肩がはづれさう

四ツ手駕隠居ゆる〱やれと乗り

四ツ手駕是れ何人ぞ和尚なり

四ツ手駕東海道をさしてかけ

四ツ手駕牛の小百もかけぬける

四ツ手駕からこくぶをへかみ出してやり

四ツ手駕なんまみだアと母は出る

四ツ手にせながなてられるはづかしさ

四ツ手から釣りを取ったでむすこげび

四ツ手一挺でよし原くらくする

四ツ手稽天王あたり迄かけ

四ツ手を見送って泣てるおけんつう

四ツ手から出ると三つ四つようろよろ

四ツ手うぬまてと生酔武町跡

四ツ手乗せたで娘下卑になり

四ツ手の四ツ手くれはの里の人

四ツ過の四ツ手ぬけ落を待て居る

四本をさしたのが四ツ手の直をきめる

四夕人にかなきりどえを四ツ手させ

五六町銭屋をたたく戻り駕

小蒲団を片荷に付る戻り駕

とつぱくさ出るやつをまつ四ツ手駕

そこらから戻ったやうな四ツ手駕

しち置きに四五あし捨てる四ツ手駕

わけをいふ程ついて来る四ツ手駕

おつたつたはしこのそばに四ツ手駕

馬を飛びじやりをけたてて四ツ手駕

蜜柑籠よりはむざんな四ツ手駕

おいらだと難別ぞとかへる四ツ手駕

(ちと)さびしくぞかえりける四ツ手駕

くたびれた足へはつかぬ四ツ手駕

ぶちまけて淋しくかへる四ツ手駕

あれでも中に居る事か四ツ手駕

酒屋の見世に両かけの四ツ手駕

多勢の中にわつて入ル四ツ手駕

早打にまけず月見の四ツ手駕

二千里も行く勢の四ツ手駕

里人を相待つて居る四ツ手駕

おやど迄召せと諷へ四ツ手駕

浮き足だなとついて来る四ツ手駕

直が出来てわツ〱といふ四ツ手駕

内へ来て身の痛くなる四ツ手駕

紙すきの耳にさびしい四ツ手駕

糸だてもかわれず上下で四ツ手

あまりものに福は四つ過の四ツ手

もう〱じやまなこツたと四ツ手かけ

おウいおい糸立さんと四ツ手かけ

山といや川とこたへて四ツ手かけ

うらつけを片々持って四ツ手かけ

橋板でつえをいかして四ツ手かけ

かごには人のないていに四ツ手かけ

はや打に負けず月見の四ツ手かけ

真ツ白なみみづくをよけ四ツ手かけ

あの四ツは六郷さまと四ツ手かけ

野辺の送りを脇に見て四ツ手かけ

言葉多くて品川へ四ツ手かけ

しんのやみわんといはせて四ツ手かけ

民の竈を見下ろして四ツ手かけ

にえきると四ツ手はさけび〱かけ

いとだてをかぶり四ツ手の跡をかけ

鹿を追ふりやうしを四ツ手乗せてかけ

今あいた四ツ手だそうであつたかひ

うなづいた所化の跡から四ツ手かけ

いそがせる四ツ手から身で二人かけ

二はいめの四ツ手しのびのものをのせ

二杯目の四ツ手智恵あるやつを乗せ

たましいのひたいにあるを四ツ手のせ

二の返しには唐桟を四ツ手のせ

いくらの事か駕舁といた高

にわか雨四ツ手禿ふたりのせ

雪中にさけぶをきけば四ツ手也

せつしやうはせぬと四ツ手とはなす也

乗りそうなやつへは四ツ手小声なり

かへり駕目ききをしてはよばる也

一家中四ツ手はいらぬ近所也

世を捨る事めんどしく四ツ手也

ころがして居るを四ツ手はうるさがり

あたまからのるので四ツ手ゆする也

孝行も四ツ手ふ幸も四ツ手なり

願ひ事あつて四ツ手は静かなり

うすべりの窓から見れば衣なり

下駄をはく時棒組はつえになり

棒組をよび〱かごをしょつてかけ

棒組やあかがね屋根の旦那だぞ

棒組やありがたいなといそぎ出し

ぼうぶみやいい御かつぷくとまへおき

ぼうぐみやおよらぬうちにねがやれな

棒組やどこの内儀もあのくらい

棒組やもてそうもない手合たの

ぼう組はこくぶにむせて壱ツせき

棒組曰く如才ない旦那だよ

棒組よ御願ひ申せなぐるぞよ

棒組近年ない雪知らん顔

こりや川だなぞと棒組大そうな

暖かな跡へ棒組銭をつき

旦那もしいつそ沼だとゆする也

ぶちまけて四ツ手四しんが一ツ四也

ぶちまけて仕廻に四ツ手無言也

ぶちまけだ跡は駕舁ゆげが立

首二つ棒をくぐつてかたをかへ

御のたられなさる者かと四ツ手いひ

ぞく方とじつ見えますと四ツ手いひ

引け前にやつつけますと四ツ手いひ

山の芋さと大木戸の四ツ手いひ

あの内の一番子さと四ツ手いひ

ふられるたちだのと四ツ手跡でいひ

早いはず四ツ手にひとり先ばらひ

善さん〱四ツ手で娘呼び

今あいた四ツ手だそうであつたかひ

どやされる音で棒組行遍へハ

三文につけたが四ツ手きげん也

とうとい寺の門内で四ツ手きれ

侎頭は四ツ手へしいと言って乗り

うまいもの喰って四ツ手に二日乗

かごかきがかへるでうしを一つぶち

駕かきの聲ばかりして真ツ白し

駕かきが帰るに牛は一つ所

駕かきの口うら逃げた穴が知れ

駕舁は傘屋の見世へまけて来る

駕舁は土を踏まずに一歩とり

駕ちんをかじかんだ手へ一歩とり

てんでんにもてやすと駕一歩とり

駕ちんをわけ〱あいつさればいい

駕賃をやって女房つんとする

駕賃を歯へあてて取る雪の朝

駕籠代は三文酒手壱分やり

駕代はあらぬと女房無法なり

はいぬきの階子の側で駕イ〱

佛法の事だと四ツ手あけて来る

銭をよみながら四ツ手をしよつて来る

ぬかるみを四ツ手大きく言い立てる

うらやむを四ツ手の中で聞て居る

旅四ツ手おもかぢといふ音で出る

小便をするうち四ツ手こしらへる

戻り駕本所筋をよんで見る

まだまだ鞠が低いと四ツ手吸付ける

鞠垣を目当に四ツ手四挺来る

千両で四ツ手一挺おめきこみ

品のわるさ四ツ手からころも出る

質屋から出ると駕かき見違る

ちうけいでつくやうに駕和尚出る

十三のまん中頃で四ツ手きれ

はりぬきのえの木を四ツ手見て曲り

二十六挺の四ツ手を急がせる

餅花が四ツ手のそばへ二つ三つ

坂東十三ばんを四ツ手ぬけ

質手代四ツ手のそばへ呼び出され

引け四つに明けた駕かきゆでたやう

つた屋だと四ツ手から母手を引かれ

ちつぽけなふとんで四ツ手一荷出来

もてた事四ツ手とはなすはしたなさ

旦那敷ましやうと四ツ手帯をとく

何もいわいたしませぬと四ツ手敷

ささやくと直キにつけ込む夜かごかき

のぞきに斗り行くのだにかごいかご

泣く事はないと四ツ手のござをさげ

通り町一丁行けばかごいかご

惣じまひする事四ツ手かたでしり

くらやみへ四ツ手衣を引いて行き

ひつたくるやうに四ツ手は肩をかへ

もち花とかきが四ツ手に(なつ)たやう

だんきんのまじはり二てうかけさせる

切餅のやうなで四ツ手汗をかき

なでつけるやううに四ツ手は汗をかき

遊びでは無いと四ツ手の直をねぎり

かけるかご見て牛かたも一つぶち

外ぼりをうめると四ツ手まだはやり

こじきかと思へば四ツ手かツちかち

もし旦那々々と四ツ手かツちかち

舟はまだ駕に酔ったはげびたもの

かい間見に斗り行くのに四ツ手つき

くたびれをのせる四ツ手はもとり駕

らう宅へ四ツ手みじめなむかいかご

びやう打と四ツ手すりあふ御えん日

生酔の手や足四ツ手まだはやり

観音へ四ツ手で参るやうにみえ

坊主衆と坊主を四ツ手よく見知り

直のいい四ツ手はから手が二三人

いくら直をしたか四ツ手牛の様

とぶぞと見えしが忽ち土手へ行き

きおい三重でかけてく月のかご

尋ねるだろうとこくぶを四ツ手すひ

はかまなどぬぐとうさく四ツ手つき

その昔四ツ手女郎を買ったやつ

月落鳫啼て四ツ手まだ盛り

あの四ツ手壱分〆たと釣瓶蔦声

雪の四ツ手のわだる事法に通

素見の喰残しに四ツ手はすべり

金屏風四ツ手のたれをちよつと上ケ

大すやて四ツ手いち挺立チずくみ

俄雨四ツ手に乗っておだてられ

俄雨四ツ手に乗って出来こころ

俄雨四ツ手を交て五挺なり

やらかせと太鼓四ツ手へ肩を入れ

たいこさまどこへおいでと四ツ手聞き

見ても居られぬか四ツ手背なをなて

破竹の勢ひで四ツ手土手をかけ

大門をあてに四ツ手矢の如し

拾っては喰ふやうな汗を四ツ手かき

木戸ぎわにはぢき仕廻ふを四ツ手待

くらやみで衣と四ツ手談し合ひ

目のこへた四ツ手の呼ばる木綿物

雪に四ツ手をおよがせて急ぐなり

半分来たろと四ツ手へ首を出し

ね過ぎたか四ツ手手明きを二人連れ

煮えきらぬやつらと四ツ手あざ笑ひ

お先真白と四ツ手で息子かけ

気のぬけたものは昼間の四ツ手なり

直が出来て飛刎やいと四ツ手呼び

あぶれ駕鐘四つ迄は見世を張り

引ケ前にやらずば旦那銭とらず

息杖ではねのけて行く馬の沓

しんのやみ駕い〱の聲斗り

先陣を追ひぬく駕は四まい肩

逃げもせぬものを買ふのに四まい肩

其町へ来ると掛り聲消えるなり

駕の衆や先きでは出ぬとおぞうきめ

駕の衆やこつから聲をかけずによ

墨染の袖へ駕かきとりすがり

墨染につく駕かきは覚えあり

うぢつくを見ると駕かきへしに呼

真白なやみを四まいでかけさせる

折釘へ下駄をかけるとかつぎ上げ

折釘へかけるやいなや早い事

くぐり戸があくとつけ込む夜駕舁

三まいはやにむに肩をひつたくり

あたりを払ふいでたちへ駕いかご

青いのはとろつひやうに駕いかご

一寸した智恵駕かごかきに道を聞き

俄雨雪隠で駕呼ばつてる

のふ〱あれなる御僧駕やらう

わが内が見えて銭つく駕の内

けちな見え坊八つ山で駕に乗り

一聲が何程につく駕に乗り

番煙草駕かきめらにやつて乗り

四人りは金の草鞋をはいてかけ

三まいは猪牙のやうだと息子いひ

韋駄天にかつがれて行く若旦那

りんぢうに四ツ手の越えのやかましさ

えり元トはたいこ足元ト四ツ手なり

後レ先立も酒()次第也

いき杖ではねのけてゆく馬のくつ

かけ聲の合ひに小聲で何かいひ

丹精をぬきんで四手にて通ひ

雪空になると四ツ手は素気上ケ

深更に至りうさんな売四ツ手

褌へ手拭はさむ四ツ手駕籠

駕を出る時駕代をいへといふ

もふ二十四文やらうは只の駕

傘を堤た出家へ四手つき

まつすぐに四手かけると能谷寺

ありやこりやで聟も四ツ手でいそぐ也

戻りには壱枚肩で四ツ手しよひ

 

浮世絵師勝川春章に壺屋の異名あるは明和五年中村座に於いて操歌舞妓と題し浪花五人男の劇を演ぜし時或人春章に其の姿を写さしめ板に彫らんと需めたり、当時人形町なる林屋と云へる書肆に寄食中にて世に知られざりし頃なれば假に林屋の仕切判として用ふる壺形に林の字なる印を捺して与へける、これより春明を異名して壺屋といへりと云ふ

本年奥州より飴売土平と云者来り、日がさをさし土平々々と染出したる袖無し羽織を着、歌を唄ひ町々を歩行く江戸中大流行となる。其の歌の一、

どこへゆたとてなぜはらたちやるどへもわかいときや気男さんしよのせツどうへ〱

おなじ時代の行商者にそつそ坊主とて鼠の半てん股引にて笠に片仮名にてソツソと書つけ一せん遣ハせば「そつそ夫では叶をぞへ」といふて踊る、是飴売の類異風の形をする始なりとぞ

飴箱上へ長柄を一本のせ

飴売はひる時分にきつく吹キ

飴売は天気になってかさをさし

売れる程飴屋は顔をふくらせる

二人して掴みあつてる飴問屋

二見が浦と云ふみえで飴をねり

引出して小鍋だてする飴細工

田舎道くやれと嫁へ飴を出し

 

此頃御ぞんじあまざけといふ見世浅草並木町に出来る。今所々に在る醴見世の元祖なりと云ふ

一本も並木の見えぬ賑やかさ

窓で売る草鞋天命次第なり

甘酒に如来のやうな苗字あり

あま酒へみやげをすぐにあろし込み

ひげつらであま酒をのむみともなさ

あまざけしんじよと大ぼやとぶへ落

しようがでは降り甘酒で晴レる也

あま酒をのみ〱むす子見るやつさ

甘酒をのませて傘をかしてやり

あま酒に少し気の有る村まつり

大手は甘酒からめてはかるやき

 

本年髪切りとて四五カ月の間女の髪を切ること流行(人々の髪自然と脱落す是を髪切と云ふ)所々の修験者を捕へ詮議せらる(今の所謂脱髪病ならんか)

小林一茶六歳にして 

我と来て遊べや親のない雀 の吟あり

玩世道人作の狂詩、閑居放言梓行せらる

本年初秋露竹舎雪成選の誹諧觹初編刊行、板元は花屋久次郎也、これより以降逐年続刊して六十余巻に及ぶ。江戸誹諧の研究には好資料たる俳書なり

 

百釣瓶・犬八重垣・花紅葉(海旭)・雪み続後篇(桃鏡)・雪の続後篇・鬼貫句選(太祇)・俳諧かつら藤・古今句鑑

 

 

千七百六十九年

明和六年己丑

五十二歳

 

歌川豊國生

橘香保留生

櫻井梅室生

山東京山生

菅良齋生

飯田無物生

 

正月九日二代目宮崎十四郎没年六十二

二月朔日泉南和尚没年七十

二月十五日立羽壽角没 千松堂と号す不角二男

二月嘉貞没年八十余 本所多田薬師中に碑あり、蹴鞠を持って称せらる

三月二十五日嵐音八和孝没年七十二

五月十七日北村春水没

六月十六日黒瀬虚舟没年八十 不識亭と号す、虚の字ハ尊貴の謚号に類す故後去舟に改む、辞世

底ぬけや帰らぬ旅の頭陀ぶくろ

六月二十五日雨夜庵亀成没

七月二十一日村田春道没 春海の父

七月二十四日算術師岡部稠朶没

九月九日細井之水(二世)没年四十四

九月十六日服部蘇門没年四十六

十月十二日青木文蔵没年七十二

九月二十五日中嶋文信没年七十二

十月十九日中村吉十郎没年二十七

十月二十六日彫金工濱野政随没年七十四

十月晦日加茂眞渕没年七十三

十一月四日望月三英没

十一月十七日北川花杖没年七十 花杖一に荷杖に作る

栖鶴没 巣居と号す

千梅没 方竟又白翁と号す

 

三月四日より湯島天神社内にて泉州石津大社えびす開帳、此時神楽堂へ出でし おみつ おはつと云へる二人の巫女容貌美しく参詣の人心を動かす、凡そ開帳毎に神楽巫女の美を選ぶ事俑を作れりと云ふこの二人の巫女錦絵にも出でたり

御先祖と子孫の間いを切通し

このかみの徳あればこそ天降り

参詣の涌くやうなので湯島也

湯島おろしにばち音も交つてる

根津の客ゆしまの芝居ねだられる

笟で目につくは八日のゆしま也

天神を拝し時鳥をたづね

おそはつた通りにおがむ手ならひ子

ゆしまから一万石の塔が見え

御えん日までは氏子らそだつなり

神楽堂跡引つさりがはじめなり

神楽堂左右へふつてすつとたち

神楽堂立聞らしくあるくなり

神楽堂小ゆびをはねてへいを持ち

神楽堂目にかかる迄おして出る

神楽堂扇をあてて何かいひ

神楽堂鈴をばねじるやうにふり

神楽堂ねで切りにするやうに舞ひ

神楽堂姫ごぜの身ですつぱぬき

神楽堂一人さびぬものをさし

神楽堂淋しくたたく定直卿

神楽堂三百とぎをふり廻し

神楽堂百旦那をバ安くせず

神楽堂老たけものが湯をあびる

神楽堂えぼしを着たが聟と見え

神楽堂夫らしいへぶつつける

神楽堂うしろを向て笑ふなり

神楽堂しんとう流をふり廻し

神楽堂よくねれやうとどく御かれ

神楽堂百のはつをばふしんぶしん

神楽堂百百のしんじん目たつなり

神楽堂たいこやふえであじを付ケ

神楽堂目釘をしめしまつて居る

神楽堂度々にんじやうに及ぶなり

神楽堂心はかりの足ひやうし

神楽堂ただの女でかへるなり

神楽堂蠅を追ふのがいとまごひ

神楽堂しんるい書がならんてる

神楽堂逃たあしたは母が出る

神楽堂ぶんぶをかくす緋の袴

神楽堂袴がないとまだはやり

神楽堂立づめにする美しさ

横笛に鈴虫の舞ふ神楽堂

みんな鈴なり立て見る神楽堂

ほれたなら銭でよこせと神楽堂

ばかされたやうに見ている神楽堂

緋の袴すそを切られた神楽堂

緋の袴から足の出る神楽堂

緋の半袴を着て舞ふ神楽堂

雪打のやうに投込神ぐら堂

金入りの袖なしを着る神楽堂

美しひ顔でぬかづく神楽堂

うぬ計利口な顔の神楽堂

草臥を亭主たのしむ神楽堂

祢じり出〱振る神楽堂

其夜ねれるは水無月の神楽堂

熱湯は母あびてやる神楽堂

ねれかげんしんのことしと神楽堂

抜いた時やつぺしたく神楽堂

しほたれた住人の居る神楽堂

目をほそウしていただく鈴とへい

おかしいとあツちら向いて神子笑ひ

神子がひんぬくと笛ふきのしかかり

おかしいと御幣ではらい神子は舞ひ

はやる神子雪打程の気を扱ひ

人たちのあたまの上で鈴の音ト

諸人これをみればひれいな神子まひ

鈴を持ったで安くするこの袴

初作事も太刀持もある神楽堂

値次第であぶない事を神子はする

女方斗であたる神楽なり

すばらしく照日の神子はしやべり出し

四五人の親とは見えぬ舞の袖

しんやくとてる日の神子はすり違ひ

いな所へ当ツて笑ふ神楽堂

絵扇を見て女房に持たがり

くわん主生酔どのと神子引ツこぬき

巾着を切るを見ながら神子は舞

美しさたいこと笛が引キきらず

やつと舞やしたと神子は初ぶたい

神楽みこあんまり投てむつと皃

尻目などつかひ神楽を奏すなり

まき銭の時は羯鼓の音がくるひ

共稼ぎ女房が舞へば笛を吹き

母おやを七日まわせて入りが落ち

ぬれるのをたのしみにして笛を吹き

神さびるはづ此頃はばばあ舞

どつとせぬ神子で神さびわたる也

宮ばしらふとしく立ツて神子を見る

神子を見てふとしく立てる宮柱

美しい神子打わらのやうに成り

なま長ひ袖ひるかへしをとるなり

百出すと伶人つかへ手をかける

伶人は日まちにいけぬ役者なり

 

七月三日新吉原京町の遊女美吉野(二十四)なるもの狎客の伊之助と情死す、亡體は本所猿江町慈眼寺に葬る、此翼塚を建つ是所謂浦里時次郎なりと同時の縁記に記しあり、又其辞世に

一人来てふたり連立つ二世の道一つ蓮に受ける露の身   男

川竹の流るる身をもせきとめて二世と契りて結ぶ嬉しさ  女

八月十八日田沼意次老中格となり禄高五千石を加増せらる

八月二十六日大風雨深川三十三件堂倒る

十月此節役者評判記を武鑑に擬へて梓行す明和伎鑑と名づく、此書絶版となり作者淡海三磨(塗師方棟梁栗本兵庫)の手代朝田八郎なる者主人に代わり遠島の刑に処せられしと云ふ

谷中笠森稲荷地内水茶屋女お仙十八歳美人の評判高く皆人見に行く、

蜀山人の半日閑話中より笠森お仙其の他の記事を次に抄録す

 

谷中笹森稲荷地内水茶屋お仙十八歳美なりとて皆人見に行き家名鎰屋五兵衛といふ、錦絵の一枚絵或いは絵草子・双六・よみ売等に出る、手拭に染る、飯田町中坂世継稲荷開帳七日之時人形にも作りて奉納す、明和五年堺町にて中島三甫蔵がせりふに云、采女が原に若紫笠森稲荷に水茶屋お仙と云々是よりしてます〱ひょうばんあり、其秋七月森田座にて中村松江おせんの狂言あり大あたり

浅草観音堂の後いてうの木の下の楊枝見せお藤も又評判あり仇名いてう娘と称す、錦絵或いは絵草紙手拭等に出読うり歌にも出る是所々娘評判甚だしく浅草地内大和茶屋女蔦屋およし堺屋おそで錦絵の一枚絵に出る、童謡「なんぼ笠森お仙でもいてう娘にかなやしよまい(実は笹森の方が美なり)どぶりでかぼちやが唐茄子だ」といふ詞はやる、又伊庭竹坡(舳羅山人)阿仙藤優劣辧の作あり

土団子虚病と見えるすき者也

土団子喜十を使ひながら買ひ

目と口とある人土の団子買ひ

笠森の団子は七日母が売り

笠森へ女房ぶつてうづらて行き

笠森の道辻番か能おしえ

逃げたやら近頃ばばア茶をはこび

すいりようのわるさにきびに土団子

大ぶくを飲めと笠森愛想なり

 

柳と娘こきまぜる楊枝店

やねを上げえんをおろすと楊枝店

わづうかな恋をして来る楊枝店

よその子のていにもてなす楊枝店

隣からとなりへ笑ふ楊枝店

化ケそうな白歯の多イ楊枝店

てまへまあ内はどこだと楊枝店

いまたかせざるがうりかつ楊枝店

いつそ乳がもれると丸めるやうじ見世

白ひ歯を見せれば売れる楊枝見世

す里こ木でなぶつて通る楊枝店

とふたなとしこなしぶりて楊枝店

市二日突出しの出る楊枝店

なめたのはないかとなぶる楊枝店

五六軒一度に笑ふ楊枝店

かたまつた禿の中に楊枝店

四ツ前は老いにけりしな楊枝店

其客で内から一寸楊枝店

楊枝店是す通はなりやせん

楊枝店正月ものを市に着る

楊枝店せんたい無理な鳥を追ひ

楊枝店ちとおやすみとわきへ寄り

楊枝店乳をのむ内は買に来ず

楊枝店ごへいでなぶる神馬引

楊枝店二十軒茶屋かほよ鳥

楊枝店さて出来そうて〱

楊枝店枕絵の序を額にかけ

楊枝店蔀を母ああけてやり

楊枝店浅黄不仁になかつ尻

楊枝屋はざん米もうりさしもうり

楊枝店浅黄不仁になかつ尻

楊枝屋のばば何か直ぎりなさへすな

楊枝屋はとんだ遠くで豆を売

楊枝屋の娘は箱へ手をしまい

楊枝屋の地主も元は藜やね

楊枝屋の間ひから白い馬が出る

年も顧みず楊枝をばばアうり

鳥は宿すに楊枝屋は市二タ夜

白い歯を見せて楊枝屋もてあまし

楊枝より娘柳でうれるなり

焚付にするほど楊枝浅黄買

侍が来ては買ってく高楊枝

かけひまの内楊枝屋は飯代り

ふし見世に小半日いるたわけ者

ふし見世は昼食の時尻をむけ

ふし見世は手がつめたいと箱に入

ふし見世の亭主はさいを聞きに来る

ふし見世のしまひ拝んで帰るなり

ひじ坪が鳴るとふし見世みんな引き

楊枝でもふしでもなくて腰をかけ

おふさ両早ひとおひで見世を出し

ぎんなんが落ると楊枝置てたち

あいといふ迄に楊枝を千も買

きんなんかさそならふのと浅黄うら

あのいてう何年ほどと浅黄いひ

手にくんなさいと浅黄こしをかけ

銀杏の木小たてに取て阿奢利待ち

美くしさ男へたんとふしが売れ

手を握る所へぎんなん壱ツ落

いたい事ばばアをもつていわしむる

女には武道拙なき浅黄裏

石臼にこび附て居る浅黄裏

つんとした女の傍に浅黄裏

鳥都屋てふし見世二けん程ふさぎ

ふし一袋たもれとこしを掛け

うりもののふしは六郷そこらなり

向ふのふしみせはる真似して笑ひ

売るふしの味をしらぬがよくよれる

びれ付をにらめるやうな仁王様

女芸者の事を昔は踊子と云いしが此の頃より芸者とよび者などと洒落たり、当時弁天おとよ、おとみ、新とみなどいい薬研堀橘町に名高し、橘町土坂屋平六といえる薬種屋の辺に芸者多し、此の秋の頃弁天おとよ身まかりし時橘町に住める俳諧の宗匠祇徳が追善の句に

蛇は穴弁天おとや土の下  といえり

大坂屋ねごとを書て屋根へ出し

ねだられて戸棚へ這入る大坂屋

平六が所づぼうとうよくうれる

平六で聞けと船からよびに遣り

かかあたち出るは〱と大坂屋

向ふからで聞カしやれと木薬屋

太平の向裏から芸子出る

太平の嫁が通ると芸子いひ

後一変して本町日本橋辺同朋町柳橋辺に多し、同朋町におるいおべんお秀、おまき、お石、若松町おなを、屋研掘お安など高名なりしかぞ、蜀山人の奴凧に曰く、むかしの芸者は娘ゆへまはし方にお袋の付来る事多し、今は眉なく歯を染めたる芸者多くなりし故お袋の来るをみず、お袋の役を兼帯するなるべしこれもまた流行の変とみるべし(元文元年参照)

あなどつてげい子合の手なしに弾き

子おろしの向ふうらだとげい子いひ

こうろへたげい子しつぽがさける也

ふ京気といひ〱げいしや宿の月

ぬからぬ芸者足元を見てころび

しらげい者母はうるさくつきまとひ

乗せるより外には芸のなひ女

うら町で芸子おも荷をおろす也

跡付けを持たせて芸者船へ来る

生酔のつつかい棒にけい子なる

厄どしを芸子むしように長くする

某もまかり帰ると芸子いひ

生酔に芸子帰ったぶんにはる

三味線をかりれば芸者なまへんじ

中間に渡してよこした安スげいしや

ふざけた芸子三味線は御免だよ

雲がくれ芸者よほどいたむ也

からっ年で芸子をくどくたわけ者

有次第人のきせるで芸子のみ

四五年に芸者も一ツ年を取り

かた付ケてから気のかたを芸子病

杉の葉へ酔たとみへて芸子たれ

あれどうもかかさまええと芸子逃

よくころぶはづさ芸子はお坂也

床芸者めと奥様は気になされ

あの芸者人魚を喰たかも知れず

又施餓鬼うせたと芸子弾きたてる

客よりも先に来ている安芸者

イヤア御出だと芸者を座に請じ

先づこれで御免と芸者三を下げ

しどのない芸子黄色な撥でひき

安芸者二百もやるとぞべるなり

喰ひつきやすぞえと芸者うるさがり

すきなこと芸者染めたりはがしたり

芸者へは宗和で出すに及ぶめへ

郡太兵衛さん上げやすと芸子さし

銭の無いやつにはどつこいとげい者

あがられやせんと秋葉でげい子いひ

三味線は外事ころり〱也

はきものを持てころびの母むかひ

大法で三みせん箱は持て来る

秋葉から川へ三みせん取にやり

古格みださず三味線は持て来る

ころびがだいやて三味線引きり

三味線の跡からからりころり也

かくへつな物三味線は不調法

身を投げた上を家形で三下り

アノ船をよせて見せろと三を下げ

象牙一本に船のよるきついこと

三味の箱先へよこして落ちつかせ

親指へ袖口かけて引いている

緋縮緬指へひつかけ三を下げ

ころんだかしてぺん〱の音がせず

ころんでの音〆がいいではやるなり

ただくさな様でも只はころばない

かかさんといふと是だとばちでぶち

吹殻を消しなと撥の尻でつき

三の糸こき〱夫は知りやせん

御趣向よろしき方へころぶなり

献立の外にころぶを二三人

売色でなくて三味線枕なり

三味線はアイ附けたりと撥で打ち

転ぶのは密事弾くのは四乳也

転ぶ子を母は杖とも柱とも

銭のなさそうなにや芸子起ている

足元を弱く芸者の母そだて

よい客を三の糸ほどあぶながり

黒猫の椀もやつぱり片思ひ

玄関から芸子のあがるしだらなさ

中間に渡してよこす安スげいしや

美しいふり袖土へもうちツと

つウいついあゆみを渡り芸子乗り

つはものの交もする娘なり

馬上ともにはせず芸子笑ひかけ

傾城に三本たらぬ娘あり

杉の葉へたれる娘は金になり

ばちは動かず首はがくウリがくり

ゆうぜんとさやをしごいて駕を出る

振袖で月をかくして弾に出る

二三日留袖になる泊り客

橘を十ばか袖にかくす也

かやぶきの舟からきざな聲を出し

駒下駄で酒池肉林の間へくる

なぶなひ渡世ころぶ子を杖につき

御局はげい子にいつそあやなされ

母のないげい子五つ月迄かくし

腰内の匂袋で船へ出る

よく聞けばよつくに芸者かかア也

おふくろにかくすがげい子本の事

おはぐろはげい子一生いやといふ

小舟に乗った女房を息子もち

転ぶ筈大きな坂の近所也

子は親の為に隠してころぶ也

トテチリで雲井の曲にけちをつけ

真意得ず座は三味線と撥斗

おろすこと尤至極やげんぼり

ころびとは中ぶらりんのばいた也

三味線を枕にしては恥かしい

はやらぬにつけてそろ〱転び出し

ころぶからそれてはやるとけい子いひ

どの幕へ行くとげい子をつけて行

あねさんといひやとげい者子をそだて

盃をさせば三みせん杖につき

三みせんをひいてさみしいしらげい者

雲がくれ芸者もよほどいたむ也

湯帰りの芸子本ン元服で来る

崩れた塀の間から芸子見へ

法界〱で芸子さびらかし

観世流のきぎすを芸者あしらい

田楽斗カは芸者の名読んだのみ

岡崎をへんなてうしでひいて居る

当時はとかく一ころび二こへ也

しまのせんざいがよりうはころぶ也

ふきがらをけしてくんなと(あひ)をひき

 なぜよわせなつたとばちでたたいてる

おさへやす桜田さんとばちでつき

わたくしにころんで母に叱られる

他でころぶぶんはとけつがひろい也

転んだ子泣キ出スでなをはやる也

べこ〱と啼らしころひの口ふさ起

ころひの種類お表へ目見なり

金の無イ奴ツにはぺこべんとならし

よくころぶ声だと留守居芸也

せんたしに来るかとおもやころふ也

紫のしらべで来べき芸者也

十ヲ斗大キな袖でかくす也

茸狩りも内府は手前芸者也

やわらかな手だとげい子に御気があり

十六を二ツあわせたむすめなり

とりがもううたふやつさと三を下げ

もがかした上でころびやと母おしへ

上ケやしやうなどとおつこちそうにもち

三味線がぱつたりやむとうさん也

せんかうでちきりをこめるあつけなさ

親指へ袖をかけたがころぶ也

ころんでもよごれないハと負け惜ミ

芸当御らんに入れましてさてころび

寒聲も金にするのは哀れ也

ころんでもよごれねえのが名句也

蚊つ喰ひを詞の時にばちでかき

極楽の芸者は空にころんでる

窓下の芸者なほしの娘なり

はな紙のはしへ芸者の所がき

ばちは袋に納まらぬいい芸者

三味線を持ずに来るは極なじみ

三味線の外に用事のある女

三味線を枕にしたで二分に成り

三味線をおつかたづけてとちぐるい

三味線は附たり何か外の事

世を捨た如くに芸者世帯持チ

細い音は糸ふとい音はねたり事

ころひ疵乳が紫色になり

安芸者撥まて悪くすれたやつ

三味線を屏風の外トへほうらかし

外聞のわるさ舟から三の糸

座敷が無いで里扶持が滞り

三味線をすこしが内と船切手

船印立って芸者をよびにやり

 

存義樓川買明盟会す

銅脈先生著太平楽府梓行せらる

吾妻錦初編(乙鳥)

蓼太句集初編(吐月)

誹諧蒙求(逸人写本)

深川三會(祇南玉葉等)

俳諧伝授天地人(鵜は)

 

 

千七百七十年

明和七年庚寅

五十三歳

 

誹風柳多留五編板行

中村竹洞生

松崎慊堂生

神取素健生

長谷川義翁生

 

二月八日榎並貞風没年六十余

二月二十九日江村愚亭没年二十四

四月二十七日居初乾峯(二世)没年四十七 貞六堂 初扇峯と号す

五月三日坂田佐十郎杉弟没年四十一

六月十五日鈴木春信没年五十三(或云四十六)浮世絵に妙を得たり 今の錦絵は此の人を開祖とす、明和二年の頃よりして其名高し、笠森お仙の一枚絵を描く、其の通称及び墓所の在りかとも不詳、一説に春信は気魄高尚にして生涯役者の絵を画かず予は苟も大和絵師なり何ぞ河原者の像を描かんと云えりとぞ。大正八年六月十五日春信の百五十回忌に際し下谷区谷中大圓寺境内に春信とお仙との両石碑建つ、春信の選文は笹川臨風にしてお仙碑は永井荷風の選文也

六月十七日中村吉衛門没年七十七中村家中興の祖

八月十九日狩野常川幸信没年五十四

八月二十五日辻鼠公没年四十四 辞世

梨の身の丸〱として果にけり

八月三十日二代目澤村宗十郎没年五十八

十一月十六日(或云二十六日)小笠原一甫没

十二月二十四日立原蘭渓没年四十八

 

二月頃とんだ茶がまが茶鑵に化たと云詞流行、笠森稲荷水茶屋のお仙他に走りて跡に老父居るゆへの戯れ事とかや

松永がりつぷくとんだ茶釜なり

とんだ茶がまと茶がうれる也

五十にはとんだ茶がまとのぞい居

茶かままでとんだ所へ入レなくし

呉服店とんだ所に茶釜也

道鏡はとんだ茶かまで立身し

以上六句は收月点の「俳諧自在袋」より抄出せり

上野山下の茶屋女林屋お筆、元は新吉原四つ目屋の抱大隅といへる妓なるよし、人皆見に行きしとぞ名付けて茶まが女という錦絵出る

 

此の夏大いに旱魃にて諸国旱害多くお救の百姓とて食を乞う者多し

きつい暑気飯が一盃ひける也

きつい暑気かまひもせぬに腹が立

紫でよし野をつつむきつい暑気

つよい暑気内儀たらいで縫て居る

めしびつへ顔をつつこむ強い暑気

車引半てんかぶるつよい暑気

ばんに寝る事を苦にするつよい暑気

寝ざあなるまいと苦にする暑い事

晩にねる事を昼いふあつい事

暑い事となりでもまだはなし聲

てんや〱の最中があついなり

あつい事あたまのかけた鳥が出る

いなづまを拝借に行く暑い事

ええ聲でぶら〱と出る暑い事

娵のひなを見直しに来る暑い事

たからくらべを嫁がする暑い事

ぬるま湯を辻々でうる暑いこと

仁心を門トで誉てく甚暑也

舌打で振舞水の礼は済み

四人で振舞水をみんな飲み

ふんどしをぜひなくしめる暑い事

暑い事よめあごばかりあふぐなり

暑い事出張った松の方を漕ぎ

暑いこと隣の寶かぞへたり

あつい事娵襟元をくつろがせ

まつすぐな柳見ているあつい事

あつい事五六に下女はぶつ遠ひ

あつい事とんぼ座敷を通りぬけ

いきてとぶ柱のできるあつい事

あつい事あはひをつるし水を打

あつい事枕一ツをもち歩行

あつい事一樹のかげで喰て居る

大道へ田楽の出るあつい事

おがくずを升であきなふあつい事

何もない雛を見ているあつい事

生首が水に浮いてるあつい事

風鈴の短冊よめるあつい事

わが家に腰かけているあつい事

暑いこと帆をかけてゆく牛車

富士山に初雪の降るあつい事

あつい事かさねだんすで蝉が鳴き

あつい事酒の相手にやつこ出る

風鈴もだんまりで居る暑い事

菅笠と馬のながるるあつい事

暑い事茶碗へ唐の塵がうき

暑い事菅笠垢雉の聲ばかり

暑い事羊羹箱の外へ出る

足元を鼠のあるく暑い事

暑い事鼠に庭をかけさせる

花嫁の人目にかかる暑い事

ねころんで論語見て居る暑い事

暑い事蛇籠の中へ芋を入れ

柳さへ垂れたまま居る暑い事

暑い事金覆輪の雲が出る

暑い事重ねた人すで蝉が鳴き

水鉄砲をつるべ打つ暑い事

座敷中嫁のはびこる暑い事

雲の峯これぞ暑さの峠なり

夕立の楽屋と見える雲の峯

冬もので内中ふさぐあつい事

御登城の二日かさなる暑い事

大物見へようがなと暑い事

暑がりなくせにいらさる鎧着る

暑い事小袖を八日ぶつとをし

暑い事蚊屋へはいるが一ト苦労

あつい事うらぢうかかあだらけ也

あつい事釣瓶ひとつに人だかり

あつい事か病をやんでこまつてる

あつい事だいりのしゆごによろいむしや

上下と武者とではなすあつい事

寝る所を見立て歩ルくあつい事

あついばん表二かいのかやが見え

蛇が出たり蚊が出たりする暑イ事

さへかへる暑さ施餓鬼が五日のび

戸を立て外で留守する暑い事

けだものと法師がいつち暑い事

吉原の道を蛇の知る暑い事

てきはきとした雨の降る暑い事

沐浴をして蘇生する暑い事

文庫から長持の出る暑い事

おそろしいみやけをもらふあつい事

ひか〱をはいしやくに出ルあつい事

嫁の帯そばで苦にするあつい事

強い暑気付髪かくり〱する

あつい事鳳凰加茂の水あびる

仰ぎ願くは水をと暑気見舞

ここいらへすわりましようと暑気見舞

久しいふみをよむ所へ暑気見廻ひ

まつりには御かしなさいと暑気見廻ひ

ふんどしをかかへて逃る暑気見廻

上下つまんですわる暑気見舞

里の母わるこんじやうで暑気見廻

煮花を出して不馳走な暑気見廻

えり紙をさらつて通す暑気見舞

是はいい御ふり袖だとしよき見まひ

左様ならかへるときせぬしよき見舞

めて度かいぢんと笑ふしよき見まひ

はだる身へむりにいい置クしよき見舞

云置ケはよいと目をする暑気見廻

かふとのを〆ルところへしよき見まひ

すでにみいらになるとこをしよ気見まひ

武者一騎まごつくを見る暑気見舞

井戸ばたでたてつけてのむ暑気見舞

戦場へ向ふが如く暑気見舞

傘を借用とはまずい暑気見舞

皿へ手を当て時宜する暑気見舞

かちうをたいした所へ暑気見廻ひ

能い草を干したとしやれる暑気見舞

暑気見舞枕とうちは持って逃げ

暑気見舞たつてはだかにされる也

暑気見舞馳走に肌をぬげといふ

暑気見廻御凱陣かとしやれる也

暑気見廻ひ背中をつまみあふがれる

暑気見廻目を赤くして亭主逢

暑中見舞行水をするごくこんい

暑中見舞嫁の手厚い事を知り

暑気みまい大さな小つなくぐりぬけ

しよき見まひよろひぬく内かせをふさ

しよき見まひ内甲迄見せるなり

しよき見まひ家のでうぎを見て帰り

夏まけもせぬ武者振りと見舞いひ

嫁の芸土用見舞に見付られ

生キかへりましたと誉る暑中見舞

木のうごく度よみがへる暑気見廻ひ

一日はゆゆしくみへる土用干

一日はむすめまかせの土用干

一日は春めいて来る土用干

又あすも出すはとだます土用干

酒呑みのきうあくの出る土用干

めかけのは干しぶえのする土用干

そこら中たて切親父土用ぼし

盗人の目に花のさく土用干

見ぬかほに惚れる質屋の土用干

むぞふさな者は質屋の土用干

おのれまアいつこかしたと土用干

武者一人叱られて居る土用干

時ならぬものを子の着る土用干

我家でも腰をこごめる土用干

用心に昼寝している土用干

居所にまごついて居る土用干

おもしろがつて子のくぐる土用干

振袖の次キにいくさの土用干

縄付は大地にさらす土用干

うつ路舟一チ日明ケる土用干

紅絹(もみ)(うら)の無いは笑止な土用干

土用干文武二道でいそがしひ

土用干奥の上のまはり道

土用干となりのよめはうつくしさ

土用干せいの高イかしかられる

土用干下女下されば着る気なり

土用御下女にもしろとなぶるなり

土用干下女あれがいい是がいい

土用干下女とは傾城に無い図なり

土用干女郎の宗旨にない事

土用干近所へごうをさらさせる

土用干むすめ一日いいきげん

土用干せツつく内が娘なり

土用干留守と答へて真つぱだか

土用干いつちしまひは(せい)のもの

土用干下女がはふくれあがるなり

土用ぼし小袖で乳をのんでいる

土用ぼしみすぼらしいが嫁のよさ

土用干淋しいかはりいいきりやう

土用干所コか女房が見へぬ也

土用干さあいやらぬか〱

土用干只の奉公と見へぬ也

娘の土用干片すみからゆびをさし

二年目の土用干には雛ばかり

土用干かた身のせまひ美しさ

土用干嫁れいほうをおがませる

虫干にくすんで見える男もの

虫干をつひに他人の手にかけず

虫干にへろ〱武者が二三人

虫干に小袖着たがるぐわんぜなさ

虫干の中に花嫁しのびごま

虫干の前夜間男つれて逃げ

虫干のさたのないのをむすこ呼

虫干のはなツぱりには嫁のもの

虫干へ下女ふんごんてしかられる

むし干をなげにわたしてさせるやう

虫干て書物は道をあけて置き

御虫干見ぬ御先祖の物語り

御虫干めかけはいつそかつけなし

大綱小綱十文字嫁はほし

細引のたらぬは嫁の手から也

御具足へ技を鳴らさぬ風を入れ

綱引へ横へかけるは数がなし

大笑ひ座頭へ鎧着せて逃げ

武者一騎虫干の座で叱られる

暑い筈花嫁小袖幕を打ち

ひや麦を紗綾や綸子の下で喰ひ

三六の通ひだと雛干して居る

白酒の無い大内は玉のあせ

六月の質屋ながれん武者を干し

流レむしやにこまると伴頭ほし

よろひをぬきながらとふれ〱なり

玄関へ通して置て鎧イぬき

鎧着た形で西瓜を切くらひ

鎧一縮する所へ来てとまり

亡瑞の鎧四五領質屋干し

 

小林一茶八歳にして中村利為の門に入り学を修め専ら俳諧の研修に従う

 

谷口蕪村皆川淇園と書画を会す 暮雨庵暁基湖南に遊ぶ

 

五月向水能轉戯編集の娯息齋詩文集梓行せらる

やみ雲といふ雲の出るのう天気

釋大我著の浅草遊文可々子著の茄子腐藁梓行

 

世話文殊(東池庵)

後の文塚

鶉衣前篇(也有)

猿筑波集

志をり萩(暁基)

一座の華(如畔、浦夕、歌口等)

俳諧家譜柗遺(十口)

 

 

千七百七十一年

明和八年辛卯

五十四歳

 

誹風柳多留六編板行

田嶋蓼和(四世)生

辻嵐外生

蹄齋北馬生

黒鳶式部生(山東京伝の妹)

 

正月四日宮瀬三右衛門(劉龍門)没年五十三

正月二十八日上田素鏡随古堂没年七十四

二月三日鳩居堂直孝没年五十九

三月三日千宗室勿々軒没年五十二

三月六日増田眠牛葡匐庵没年五十三

三月二十九日富士田吉次楓江没年五十八 長唄の中興にて節も此の人より一変す

楓江はかうだと願を二ツ振り

四月八日後藤太仲梨春」没年七十五 梧桐庵と号す、江戸の人始めて物産学を唱う

四月二十三日黒澤琴古没 尺八の名人琴古流の初代、黒田藩士故ありて浪人し竹一本を手にして全国を満遊し尺八の妙音を国内に伝う、四谷南伊賀町八十七番地祥山寺内に墓あり

五月二十八日林信愛没 信言の男、父に先立ちて没す

七月二日水木歌仙没年七十 水木辰之助門弟、娘踊師の祖、一書に安永八卯年七月二日没とあれども誤なるべし

七月二十一日山本普求没年七十九 松門亭雪莎翁初不求と号す、京都の人、辞世

心地よしあきの日和を死出の旅

八月九日太祇没年六十三 不夜庵 徳語 初水語と号す、紀逸門 京都の人

八月十九日藤貞靖没年六十八

八月二十五日坂本呉山没年五十六

九月二十九日柴山鳳来没

十一月九日波光没

十二月二十八日山根陽没年七十八

 

吹上にて騎射大的上覧度々あり

五匁銀通用止む

正月麻布失火芝に及ぶ

大晦日の夜より扇子々々とよびて来る扇売此頃より止む

扇売かけ取の気を弱くする

なんさんのうふ聲といふ扇うり

松の内来るのはぢみな扇子売

あふぎうりしまいのわるい聲でなし

あふぎ売夕べの聲はださぬなり

扇子うりまけて戻って戸をたたき

払扇筥売、喜多川季荘の守貞漫稿に曰く、新正江戸市民年始禮に行く者必ず扇筥及紙納扇を年玉と号し知音の毎戸に配之これを買集て又年玉用に売る也中旬以降の物は来春を待て売之蓋買巡之者是を畜ることを得ず専ら扇店に買畜也因日筥は多くは空筥にて竹串を納れ音あるのみ故に字てがら〱の扇筥と云又扇納たるもあり多くは二柄納也袋には一柄二柄入ともにあり

扇箱気らして見てはのしを付け

桐の木でしたがら〱を禮者呉れ

矢を日本箱入りにして申入れ

扇は中にあるふりで御慶なり

舊冬の宿意ばら〱扇なり

ぱち〱と出来ぬを禮者持て来る

箱へ入れぬとあんまりな扇なり

年玉でなけりや一チばんいふ扇子

年禮でなけりやいひぶん有るあふぎ

あふぎとおもやはらの立つ物をくれ

正月の扇子は風の為でなし

年玉の扇火鉢で封をきり

年玉の中から夏の風を取り

けちながき扇を持てついてくる

突袖で御用一面持て来る

扇子箱だぞと頭巾を袖に入れ

売ラれると知りつつくばる扇箱

扇子箱打ふし出てはつみ直し

伊勢屋の年始始扇とはそら事よ

つねやるとあいそづかしな扇なり

扇箱はづかしくない払い物

はらひ扇子箱見たをしはじめ也

扇箱買はふは遠きはかりごと

あふぎ箱買風呂敷と百で出来

あふぎ箱買風呂敷を首にまき

買うちに最ウ買に来る扇箱

扇箱買刻み昆布只貰ひ

御扇子をちと拝見とよめぬ也

是は足下の御作かと扇見る

わすれた扇明ケてみて礼をいひ

手の悪ひ戦をいたしたと扇返し

是は御せわたとあふきをたたむなり

さま〱に扇をつかふ奉行職

夫レ扇それきせるよと下戸の世話

あふぎまて異名の残る三河もの

押入で扇出湯などはりこぼし

すぼまらぬ扇を袗へ和尚さし

五分ながへ扇を出して中へたち

ほうつては扇子をひろふ野 道

神前で扇へあたまのせるなり

長ばなし扇をひろげてはたたみ

不案内旅で扇を一本かひ

人立チの方へあふきを娵かざし

袖口とあふきを持てついとたち

鳥追を扇子の先さて除けて出る

げじ〱をすてるあふぎのいそがしさ

かんなくづ扇子ではらい御使者座し

扇子にてひたいをたたく能いきげん

蛍飛ぶ下に哀れな扇なり

秋の田を扇壱本でおつふさぎ

御扇子と笏出で雨天の御挨拶

御扇子の腰は仁義礼智伝

御武勇は重ね〱の扇也

面白い雪見は扇づかひなり

舞扇盃に成る事もあり

かるわざの切りにあふぎのうつつのり

三月初旬よりお蔭参り又は抜け参りと称して伊勢大神宮へ郡参するもの多し、畿内近国を始とし次第に諸国に移りて五月上旬一日に二百四十五万人に及ぶといへり「縞さん紺さん花色さん中乗さんお江戸さんおかげでなぬかたとサ」といふ童謠行はる

江戸を出て次女の出来るぬけ参り

持つほどのものに字を書くぬけ参り

下向にはあばたで戻るぬけ参り

関守がわらつたといふぬけ参り

三人でだちんを払ふぬけ参り

居風呂へひろいこまれるぬけ参り

月代の時ぬけ参り笠へうけ

心中を取巻て居る抜け参り

とをどをの品を御いていくぬけ参り

抜け参り此春思ひたちのまま

抜け参り蔦に取りつき登るなり

抜け参りさくま町から跡につき

ぬけ参りあかぎれいえて思い立

ぬけ参り鑓さすまたの中で出し

ぬけ参り留守で生れて首尾がよし

ぬけ参り笠をばかぶるものにせず

ぬけ参り土場で片はな持つ気なり

ぬけ参り笠片道虎のいせいなり

抜け参り人のなさけを汲んで行

御利生を関所で見せる伊勢参

道のりも末社ほどある伊勢参

何事のおあしも持たず伊勢参

伊勢参利口で抜けた奴もあり

伊勢へつく日は元日の心持

国柄に似合はぬ宮はかけながし

二むかしたつと古市又はやり

二むかしたつと鯉も新らしい

鰹木のふるせにもなる二十年

伊勢路の落馬組打といふ姿

荒神がれて三人ださりおち

大神宮へ荒神でのりつける

夕立に伊勢路は一人半ぬれる

旅は道連れ大名と樽ひろひ

ひしやくおつとり大名について行き

大名におんぶてわたるぬけ参り

ひしやくなら通れと関では汲分

一本のひやくで参るありがたさ

ぬけたあす旦那に樽を拾はせる

お祓でわびことをする樽拾ひ

御用の盛置いろはでお伊勢参

日にやけた御用伊勢物語する

戸塚から五文で来たと御用いひ

長追無用と六郷からかへり

神の御名笠に抜け荷の送り状

笠に着てまいる餘国の伊勢乞食

こま犬へ笠をかぶせて拝んでる

三度笠村一番の書手なり

草勢の一村揃ふ三度笠

菅笠を元値に売って書いてやり

科戸の風にさそはれて御用ぬけ

天下晴れての欠落は神路山

坊主化して本田と成る神路山

伊勢参り小道へ寄てあきはてる

和尚化して本田となる五十鈴川

もし伊勢と思ふが親のちから草

日比正直なを伊勢の供につれ

人間の洗濯をする五十鈴川

出来立ての男をなぶるいすず川

世の垢をすきながしたる櫛田川

手とりばいとりの借衣をお師でする

膳立を笠で数へる御師のやど

御手料理栄華の夢のさめはじめ

両の手を出して二見の物語

弁当は先へ二見へやてかんせ

大々の鱠二見のやふに盛り

参宮で石の首引見てかへり

注連縄で首引きをする二見

注連縄で二見の石の首ッ引

二見にてとまり〱の白状し

上下に矢立をさして山田もの

古市で大和めぐりに疵がつき

秤目でおやまをあげるしばい所

古市も新造を出す御遷宮

伊勢参り大神宮へ寄ってくる

明星が茶屋を限りのつか袋

明星が茶屋からやめる無駄つ日

明星の茶屋から御師に見かぎられ

新茶屋でわらぢにうつるはづかしさ

はかき吹きちる古市の三會目

相の山年しやな女の居るところ

相の山神たう流で銭をうけ

相の山人の情を抜でうけ

相の山波のつぶては江戸気性

江戸者でなけりやお玉が痛がらず

気が荒くなくてはお杉いたがらず

玉へなげさでにすくはす江戸道者

抜打にお杉お玉へ銭つぶて

ありつたけお杉をなぶるはした銭

とんだ目にあひの山だとから財布

太々の連中薄茶が難所なり

太々の夜具に一人はをしいもの

もらはれたやうに寝て居る御師の夜具

太々の夜着けちな晩などとしやれ

いせの留守女房あこぎな事をする

女房も岩戸をひらく伊勢の留守

い勢講へ其後こりておやぢが出

おつあないまくばいをする伊勢の留守

意趣でもあるか何もかもいせしるし

心ぼそそうなたちかと伊せの留守

すさましい白せつこうを御師くばり

手付にて最う神木とうやまられ

しはい国さくらもちびり〱咲き

国がらでいつそ細い暦なり

こまつかひ国から暦持て来る

上叚下叚と目を配る伊勢暦

御笑止と暦とひじきばかり置き

上下で配る熨斗をつけ

いせの御師扨銭の無い盛りに来

いせの御師ひざツぷし迄手を下げる

伊勢の御師勅使のやうなとり廻し

いせの御師大キな魚をちつとくれ

伊勢の御師つぎ上下で元の足袋

上下で泣事をいふ伊勢の御師

上下が立つと掛取しやべり出し

てん宅をきめうにさがす伊勢の御師

のしを付けてもただくれぬいせの御師

書判の受取をする伊勢の御師

熨斗を付ケても只くれぬ所が伊勢

つづら張文庫を御師は供につれ

御師のとも岩戸をひらくはさみ箱

しよくしやうを隠しおふせて御師を立

一万度大きく守り給ふなり

日本の家のおもしは一万度

引越の初手の車に一万度

新宅の魂入れる一万度

大紋は笑顔上下泣っつら

歳暮には濱萩年始かきつばた

伊勢屋の番頭おはらひをなどとくる

伊勢屋は堅く三河屋は大ふざけ

伊勢よりも三河は顔がのどか也

序が小鼓で大詰が暦なり

序と切は三河太夫と伊勢太夫

いせのはけあきはとやくしなでる也

雨の宮と聞て下駄やは手を合せ

御師の供へし折るやうにふたを明

どの子が目好き古市の踊也

古市の前日いしがものをいふ

花の雨思へば諏訪と伊勢の神

濱萩でござると伊勢屋じやうを張り

太々でいひおりに成るはぢをかき

昔々あつたとさといせしるし

参宮の留守のもうけは男の子

伊勢の留守うまし男が入ひたり

参宮の留守密夫へ人だかり

伊勢からも小便無用書て出し

いせものがたりに大神宮なし

賑やかさ麻嶋や伊勢をさらいくべ

やぐらのうへで音頭ハ伊勢踊也

万度もち生れも付ぬあるきやう

万度もち鶴の餌ひろふ姿なり

返されもせず三郎へ神酒をあげ

大神宮の勅使来るせハしなき

赤坂のしうち伊瀬迄なくさまれ

御はらひに付てあいさうは江戸で出来

飛入は御師でちひさくかしこまり

御はらひも内から背負ふは哀也

其の他神代及び上古史に関する柳句を爰に収録す

神代より日月今に地におちず

万国へ児屋根の藤は葉を広げ

万国にすぐれ大きな日乃出なり

天恩はつのぐむ葦に人のたね

国常は立のままなるみことなり

逆ほこの先から国の目鼻たち

そそかしい神まちがへる(なぎ)とあみ

神の国ねじれた物は注連計

思ふ事仮名にて埒の秋津国

天照す左右春の日秋の月

天と地を団子にこねる臼と杵

二人にて蒼海原へ竿を入れ

春ゆえか神も御名を俗によび

かみのない国あたまもけし坊主

万民の箸はみことの二ばしら

神々のすえは何兵衛何右衛門

女神先づ呵られ給ふ世のをしへ

岩戸までその日戸隠やみて行き

戸隠も神楽のうちは髭をぬき

明けたまふ迄は神楽も面黒し

戸がくしは手のはいるほど明くを待

戸がくしは油の値段ぐつと下げ

お神楽に()()のきき程日があたり

岩戸口ひらくと油値がさがり

戸が明くと世男の油値が下り

信濃へは地ひびきがして日が当り

常やみの戸を信濃まではふり出し

戸隠の強気で婆婆の夜が明る

火飯を喰つてる所へ岩が落ち

鶴がないて日本の夜があける

神世でも女でかけりや夜があけず

信濃地へ怪我はなきかと手力雄

ひつぺがし元祖の神は手力雄

天晴と諸神どよめく手力雄

天晴は しがしたと鈿女云ひ

五十程付くがうすめのみことなり

ひるがへる袖へうすめの日があたり

御きとうへ口舌をまぜるおかめじやう

猿田彦天の岩戸をのぞきかね

猿田彦はなをにぎつて汗をかき

猿田彦いつぱし神の気であるき

猿田彦ひかり〱と突て来る

猿田彦坂際に来てかぎ廻し

猿田彦さながら銭も拾はれず

猿田彦角をはやして吸付る

猿田彦余程向ふへくさめをし

猿田彦堂建立の気味もあり

さるた彦めんもとらずにひたるかり

垣間見に鼻の出ているさるた彦

うしろあら追はれるやうなさるたひこ

げいのうにたつせするのがさるた彦

町内の佛とらへて猿田彦

番船は風の手柄ぞ猿田彦

役不足するなと猿田彦にする

のつほりとしたやつさるた彦にされ

いなだ姫人身御供の元祖也

すでの事酒のさかなにいなた姫

神世にもだます工面は酒が入り

八樽くらつていなだをばくふところ

神世にもだます道具は酒女

神世にも娘一人に瓶八ッ

瓶八ッ買は神代の大仕掛

大蛇めいてい十六の目がすわり

素盞鳴へ尻つ穂の先を引出にし

宝剣はおろち下戸なら今に出ず

宝剣は尾先名珠は臍から出

鬼も蛇も酒でとられる尻頭

蛇よりも先ずみこと一杯きこしめし

八重垣を三重につくつて妻を入れ

二十四重垣根へ妻をこめる也

蜘八雲いづれ妹脊の大和歌

伊勢諾は鶺鴒御用犬で知り

しりきつて居るに女きれいばかなやつ

一鳥の僧が神代の祭りぞめ

浮橋は夫婦の道のわたりぞめ

あぢなつりばりて鶯をむこにとり

龍宮はつりしをとかくむこに取り

いそがしい元祖葦不合のみこと

間に合はぬ事がみことの御名なり

すりこをばふきあはせずがなめはじめ

御産所をふき合はせずに御誕生

さかほこでおのころ島のたねおろし

恋種の花神代から咲ゆづき

神代からこやねに伝ふ藤かづら

長髄はつひに寶のもちぐされ

かし原に堅くふとしく宮ばしら

上方の芸子さんかと熊襲いひ

波の平までは持たれぬやまとだけ

日記見て火焚のと羽まにあはせ

四十から老蘇の森へとんで行き

御本社のあたりへ鎌をうめたもふ

大和屋たけと申たき御仕打

婦しくれた夷賊へ直くな二本武

吾妻に縁も碓氷と御なげき

草を薙しことく夷賊を切なびけ

草薙の威徳で野火も返り忠

根がはえて草薙伊勢へ戻られず

火をかへす剱は 田へ鎮座也

変のあるたびに宝剣名が替り

身をすてて名もたちばなの御操

伊企儺

いさみでべらんめえと尻まくり

松浦潟渡唐でかかア石になり

手で招ぐうちに足から石になり

早く帰りなといひ〱石になり

彦さんのうよいふ内に足は石

我夫のうとまねくうちしやちこばり

彦さまア吾が夫のうと石になり

松浦姫涙はみんな砂利になり

佐用姫のなみだかちり〱落ち

佐用姫はあきらめのない女也

貞女でもいしになるとはわる堅ひ

さよ姫の外に思案は中はしら

其の当座毛のはえている松浦潟

狭年彦の帰朝女房に苔がはえ

狭年彦はまづ石塔をもうけにし

尾輿はかつぎ手佛説を忌みきらひ

神道者もりや十分利だといふ

佛敵といはるるだけが守屋そん

やみくもに守屋をにくむ大工ども

研ぎ上げた切鎌足と名は光り

だいりでこまり入鹿を鎌て切り

九州にはびこる鳥を鎌で切り

入麻を〆めた此かたはかまがきれ

鎌足は江戸へ冠を御あつらえ

鎌足へまつ裸にて暇乞ひ

序に蚫を一杯と大職冠

大職冠ずるり〱とだまをやり

大職冠加羅の油を買ってやり

大職冠よくむぐるのに文をつけ

大職冠りんしやうじよほどほねを折り

母の恩ふかみの知れる志渡の浦

志どの海士すきの道からつけ込まれ

人魚だとおもひ龍神だしぬかれ

原帯をさせて鎌足わけをいひ

龍宮へよくは積つて縄を下げ

鎌をふりたてヤレたぐれ〱

玉取は波を霞ににげる也

玉とりを追かけて出る太刀の魚

蜑女を呑め鯨はなきか鯨やあい

乳と腹玉と達磨のかくし所

よい隠し所に海士は気が付ず

龍宮で泥棒蜑と追つかける

入れ所も有るに乳の下やぼな事

さりとては気丈な玉のかくし所

大社えびすは多分使者ですみ

大やしろ立聞をしてみたい所

大やしろ只の午にはひとりあて

大やしろ美男にあばたおツつける

大やしろあの牡丹餅に獅子ツ鼻

大やしろくろすけしやれて叱られる

大やしろ近所でおくにうれたもの

大やしろ手数のかかる丙午

あのいぼを爰の蛸へと大社

不器量は暮までのばす大社

よしはらを巻軸にする大社

細見は相対にする大やしろ

紅葉せしまに〱神の旅支度

三郎の曰く拙者はお留守番

おらあ行かれぬ留守居だと西の雲

神だちの留守にえびすのねたり喰

釣にくつたくして出雲へも行かず

殺生がすきで神無月に居る

神無月一人笑って残ってる

神無月一人残って笑ってる

神無月まさか樒も売れぬなり

神無月賽銭箱の肉が落ち

牡丹餅のとと交じりする神無月

正直の頭べ十月かるくなり

十月の神慮にかなふはづかしさ

駄犬はひざもくづさぬかみの留守

かミさまが留守だとてんやわんや也

畳屋をはしたにつかふ神無月

十月の畳屋はした仕事なり

出雲から叱られさうな縁結び

傾城の縁は出雲の当座帳

四月七日新吉原揚屋町西河岸梅屋伊兵衛という遊女屋より出火廓内過半消失、假宅は両国橋向こうの茶屋其の外は以前に同じ、わけて両国の繁昌涼舟特に賑たりと假宅次第細見等を鬻ぐ

新地とは両国ならびたたぬ也

下総へ音じめのひびくいい涼み

屋形船出さわる夜ルは四十割

身をなげた上をやかたで三ンさがり

屋形船のうたせんごりにつぶされる

船頭の足音を聞くいい涼み

おつと来たなどと三味線舟へ取り

跡付けを持たせて芸者舟へ来る

大きな納涼花の山をうかめ

取楫をしなと踊り手聲を掛け

踊り子をくよ〱と見る橋の上

口と手と計り屋根舟騒ぐなり

あの船を寄せて見せろと三を下げ

めりやすの聲をしるべにふねいふね

吸物を出すで屋根舟其けぶさ

くりびきのやうに屋根舟膳を出し

船の芸向ふ三軒出来るなり

ばくちでもない屋根舟が気に掛り

屋根舟に簾おろして歌とよみ

屋根舟もく禮水馬知らぬ振り

屋根舟でまま事をした妾なり

屋根舟へ呼べば踊り子身にしみず

屋根舟の提灯顔の中へ下げ

屋根舟で座頭あたまをことはられ

あれあたま〱とけちな船遊山

いい降りだなどと屋根舟で憎い事

人の涼みをかわかしにひらだ舟

枯芦の中にあやしいやねぶあり

小ウ船であつとり廻す花の山

けちな船遊山吉野を探してる

弾きやむと吉野のぐるり川と成

船頭や屋根が吉野を十重二十重

川一は吉野へ対し慮外の名

十七八のたんと居る吉野丸

昼斗りだと値をこぎる吉野丸

これは〱と川中の船がつき

吉野丸吸い物が出て船が散り

吉野丸これは〱と洒落れて乗り

吉野丸火縄臭いが五六人

吉野だといへば芸子はよしといふ

吉野からひつきりもなく人が出る

屋根舟でしやうをふいてるべらぼうさ

下女小便に供舟へ手を合せ

やかたから人と思はぬ橋の上

身を投げた上を屋形で三下り

三味線をにぎつてのぞく土左衛門

吉野からあがつて土手をおつふさぎ

吉野から猿に西瓜を投げてやり

猿廻し吉野を三度廻るなり

谷そこの猿をミて居る吉野丸

いい涼はなか見たくはよし野丸

よし野一艘で絵馬堂おつふさぎ

初じやさかいと桟橋で反吐をつき

やね舟のへさきに立てのびをする

吉野から谷へおりたる通ひ船

ぐわん〱吉野でならすいかぬ事

本堂がせまいで吉野丸を借り

屋形のさわぎ猪牙舟でべらぼうめ

船印立ツてく芸者をよびにやり

吉野の顔を仰向て猪牙ハ見る

曲水のやうに屋形で取はづし

よしの丸生酔おかの気であるき

小便も屋かたのごせは一トくろふ

折々はしやうじんもあるよしの丸

かやぶきの舟からきざな聲を出し

へどの出るせんぎやねぶてしやうを吹く

おいこむと後生をねがふよしの丸

屋形船先祖のかげで初に乗り

惣勢は土手をおしてく吉野落

惜しい事吉野で仕舞などをする

屋形船袴着たのは京言葉

屋形船山の這ひ出る如くなり

屋形船どぜうがはぜを釣て居る

屋形から何もかからぬ釣を垂れ

風なりに羽織をたたむ屋形船

腰元ですますハ吝い屋形船

神棚にかるた乗ってる屋形船

ひまで居る屋形にろくな事はなし

碁を打って居るは屋形のしやばふさげ

釣竿を出すハ屋形の淋しさう

降り出すと屋形で憎い口をきき

遊山船瞽女と太鼓で安く見え

犬と馬ばかりでけちな船遊山

勘当の見習ひに出る船遊山

船を浮べて一日は御しのぎ

元船に控へろといふ御同勢

供船へお玉の類はえり出され

供船へ妾の用のその多さ

通ひ船女に使ひころされる

まぜこぜになつてお舟へ(いら)ッしやり

我舟へ船頭留守をさせられる

船おしぞ思ふ吉野の御延引

あがられやせんと秋葉で芸者いひ

ぬけがらの屋根船のある鳥居下

女房をよしのへ捨てて堀へゆき

船番所越す内芸子汗をふき

御番所を越すと弾き出す今のあと

三味線をにぎつて通る船番所

大和廻り程にはかへる吉野丸

三味線をばつたりやめて通ります

屋根船の桃灯顔の中へさけ

船の酒體をかためててうと受け

屋根船で行くのはどうかふぜいなり

又施餓鬼うせたと芸子弾立てる

屋形から人と思はぬ橋の上

たま〱の屋形にいとこはとこまで

屋形及捨假名のつく料理船

船遊山大隠居からおさへられ

うち川へはいつて嫁はちつと弾き

片かげが付いて出かける涼舟

花火うりよし野川一チ追イめぐり

らんかんに人をならせるいい涼

いい涼四五人屋根でかけつくら

いいすずみあたまの上をありかせる

大綱小づな十もんじあつい事

せがき船切れた三ンなど落ちて居る

 

七月二十八日祐天寺に於いて累百年忌執行

ゆうてんをむさい畳へ通す也

かさねて来ぬやうに祐天いんとう

をん霊は累ねて来ないお十念

累が一念十念で成仏し

祐天はかさねがさねの禮をうけ

輿右衛門は見世ものに思案もし

羽生村人玉ひよくり〱飛び

きぬ川にかさねこのかた鯰出来

げだつ物語で当てる村だんぎ

祐天が来るととんほの羽が抜け

祐天の外はけんびしばかりのみ

祐天のにせなど貰ふ新世帯

献立の凡夫へもどる百年忌

百年忌御寺が帰りさみを出し

霊寶にころ柿一ツ祐天寺

 

此頃小便組と称する妾奉公の悪俗流行す

風俗七遊談(宝暦六年刊本)に曰「所々を目見へにあるき捨金を取て抱へられ程もなく暇を出されまた仕立金を取て抱へられ程なく病気をいひ立て暇を取りいとまを取ては又すみかくの如くする者を小便組といふ年も二十七八に成て顔色もひねて色事に仕成て小宿の出合にあるき今日を通る是を山猫といふなり」と又、楓軒寓話に「明和安永ノ頃江都ニ小便組、仲間押、座頭金ナドト云ヘル悪俗アリ小便組ハ少婦ノ客貌総美ナルモノヲ売リテ大家ノ婢トシ主人ト同ク寝処シ小遣ヲ漏サシム主人患ヘテ退カシムレバ終ニ其金ヲカヘス事ナシ又数所ニ転売して此ノ如シ一主人アリ竊ニ醫ニ謀リ小便遣漏を治セン事ヲ請リ醫即チ灼艾大サ鶏卵バカリナルヲ用フ婢其傷ニ堪へずこれよりして脱遣スル事ナシ外主人モ皆是ニ倣ひ終に其弊絶エタリ云々とありこの外蜀山人の李不尽通詩選笑知、山東京伝作の江戸生艶気樺焼などにも出でたり

小便をいめば器量がどつとせず

一つかけはしやうやうをこのむ事

たれるばんたひ小袖を二ツ着る

小便のくせに客顔びれいなり

お妾のおつなやまいは寝しやうべん

小便と後にそ思ひしられたり

せううちのきみかと殿も初手は聞

かねてたくみし事なればたれるなり

新尼の小便組とさんげして

おめかけは小べん無用しろりと見

お妾はまづ火いぢりを断られ

小便をするは玉藻の飾類なり

手水組では無いかなと局いひ

組をたてめかけに出るはにくひ事

内証の泠で娘のねしやうべん

小便を垂れる女も一器量

小便も一味徒党の長局

火いぢりをしたあす妾いとま

妾にはちつと禁句な花の山

お美男に小便の気をうばはれる

小便も此やしきではこらへる気

客顔美麗そこで垂れここで垂れ

ここで三両かしこで五両とつて垂れ

顔に似合はぬ下症だと局いひ

御布団へ寝手水をさと局いひ

小便でお流れとなる仕度金

身退かんとする時に妾垂れ

たれるはづ妾が姿は柳也

たれる晩古ひ小袖を二ツ着る

たれた翌しらあん顔で美しさ

一チ声二ふし三が小便也

中間の総名折助という事此頃の流行唄に「折助殿はなぜおそいわらじができぬか御門どめか」といへり

神代飾波云下男を俗におしなべて折助といへれどもとは一人の名にてむかし武家雇はれの下男の中に赤坂辺住居の折といへる者稀なる客顔美麗にて世にめでられし故に折助とも赤坂奴とも云ひもてはやされしが今は通称になり云々

ちうげんは二百がわらで見えぬ也

権蔵といふ中間ンが作り出し

折助はわらぼねオツて鷹をかひ

中間はみけんかぎりに縄をない

此頃所々往来に不細工なる羅漢弘法大師などの木像台に置賽銭箱を前に備へいづれの寺と書付け行路人の賽銭を乞ふ事流行甚だしかりしと

辻羅漢出ては子供にいぢめられ

 

三叉埋立始る

三又は新大橋の下三ツ合の川のわかれなり川柳には万治高尾(二代)の吊し斬りてふ俗説を詠める例句其の多きを占む又諸書に散見する高尾自刄説仙台候落籍の伝説等は皆無稽の盲説なれども参考として三又の句と共に万治高尾及薄雲に関する柳句を一括して爰に収録すべし

三つまたで玉のこしからころげ落ち

三または金で武勇をふるう所

三または素人の死ぬ所でなし

三つ股は高尾以来のどんぶりこ

三またで難船にあふおしい事

三ツまたへとんだ茶かまがのき並び

心中をたてずに乗ると玉の船

船まではあやかりものとみんな云ひ

あいいやでありんしと聞き抜はに申し

前表はうすきちぎりにぶら下り

玉のこしぜんたい高尾乗ル気なし

船ぎりて玉の輿には乗らぬ也

名高い女をぽかんとむごい事

椎の木の方に向つて高尾泣き

たかおくくり過て切られなんしたよ

美しい顔をふくらし高尾乗り

一人乗つたがけいせいのたから船

けいせいのあいそづかしを舟でいひ

そのままに高尾がのるとしづむ也

船に乗る時分正味の高尾なり

福来たるこなはち死すは高尾なり

雀が鷹をしてやつたは舟の内

切捨にするには高い女郎也

綱わたりすると高尾も玉のこし

むごい死にやうやうきひと高尾なり

度々ふくら雀にしたでつるされる

堤切にしたは他人の高尾也

むごい事高尾つぶしにうつてやり

死に行く高尾みんなにうらやまれ

ゆだんをすると船中で高尾され

船中で左様な事といひつのり

徳をとるより名を取ったは高尾

氏より育国主でもふればふる

芝雀さま御出と高尾うるさがり

命より大事にしたは高尾なり

存念がかからひではと三浦いひ

高尾ぼうれいもみぢ見へのりうつり

爰に哀れをそめしは十九歳

すなおにするとお高さま〱

三浦吉原すずめさまと云

あたら物ばい女にしたは高尾也

明ケろくを打つとお立チと三浦いひ

ぜんたい高尾米屋へは行く気なし

朝がへり竹に雀の鳴く時分

むよくの金盛まつせへ名をのこし

ばかものと高尾にむごい評がつき

奥中で高尾ら顔を待ちぼうけ

むつ言といふは高尾がいひはじめ

なひけやいぐらいは高尾しりんせん

釣䑓で高尾へおくる信夫摺

五斗俵を高尾自由にとりまはし

毘首羯麿の作といふやうな下駄

六ツ過によく見りや加羅に相連なし

下駄屋でもよつぽと加羅をぬすむなり

下駄ツきらしは世の常の人でなし

胡麻揚の臭が下駄におつ消され

歩行くたび一二両づつ下駄がへり

お釈迦様と同木の下駄が出来

二十四そうに下駄をうるとんだ事

はきもの御用心を三浦屋で張り

唐木やはじまつて下駄を一度うり

下駄いじる度ビにほしがる若イ者

二三日はよつてたかつて下駄咄し

天竺の下駄で日本の坂を下り

薄氷をみちり〱と加羅でふみ

えんがきれても大事ない下駄をくれ

足の裏まで匂ツてももてぬ也

きやらへ穴六ツ明ケても歯がたたず

きらずを付て加羅の下駄みがいてる

おでいにそみた結構なきやらをやり

ふところへはじめて高尾五百入れ

尻がちいさいと三浦屋までふそく

あらためにあふとはたかい紅葉也

高尾からはつきりわかる江戸の張

やれじやれるなよと秤にかけて居る

御持佛の下から下駄を出して見せ

せんべいを下駄と草履の中で焼

米でうけ出スとくるわがうまるとこ

その中で高尾は女郎のかいがあり

しろうとにしてもめつた無い貞女

明晩はせんだいさまと茶屋だまし

吉原のぐわいぶんになる意地をはり

高尾へは嶋賞金の客二人り

高尾はとんだばかものと妾いひ

そn外は表だたずに高尾ふり

外の客をば人しらす高尾ふり

あわぬ角力はだてがせき高尾山

あの御家とかく川にて金をすて

さわ栗の下駄で通った方がもて

つな様といふ文高尾かかぬなり

もみじはしづみとうふやはうかむ也

高尾しすともほえづらはかかぬなり

せんげんたる黒髪を切り伊達をする

神田川堀わる人をふり通し

酒興の目隠し堀割りの御茶の水

吉原で初めて一のふりてなり

大鳥毛高尾りつぱにふり通し

前表も積出す時もつるされる

大鳥毛ふつたも流石高尾也

匃奴をばとう〱きらひ高尾死に

しら魚の火を高尾だとその当座

お放埒恋の重荷を舟に掛る

鮟鱇のやうに船にて御手料理

奥州の刺吏をふつたが手柄也

笠と下駄おツつかつ徒の御大録

まことのけいせいかひ笠と下駄也

金銀米せんだいぶん持た客

舟へのる前夜高尾はにくうごき

紅葉と鹿を笠で買下駄で買

三浦屋でかうび信女と回向する

高尾の思ひでもと御家あぶながり

ふいごのけぶから高尾はあらはれる

なぐさみに高尾を口によせてみる

冥途にて高尾おや又秤うえ

にえ切らぬ連は高尾の墓へ行

下駄とやき味噌に高尾引はられ

うき世をひに見ず島田は頼む也

京女郎だと嶋田とはじつ切れ

島が来た晩家内中ふきげんさ

ふつていな物を島田は色にもち

島田より金谷が先へ請けいたし

島田より金谷のほうの御気がせき

島田くずしには高尾はゆはぬなり

おそろしいかほで島田をやり手ぬめ

島へは行気だが仙台河岸はいや

島が来たそうでちよつちよと高尾立チ

島田とは同じ木ならぬ下駄をめし

島田めは銭にならぬと遣手いひ

めがたきと思へど島田歯がたたず

けいせいのしまだ高尾はゆひはじめ

あげづめのうち川どめに島田あひ

島田より金谷の方へうけ出され

島田つれ下駄とやきみそ程ちがい

やきもその方へ高尾は行きたがり

籠宿でかりずと来なと高尾いひ

下駄とやき味噌ほど島田逢ってる

浮世をすてたから島田いかぬ也

じみな形りするが高尾がふかま也

むこい事島田金谷の間で死

力孤にして及ぬは島田なり

うす雲は当世高尾は古風なり

なびいたうす雲をば請出さぬ也

うすくもがせなかその頃ゆびだらけ

ふりそうな名のうすぐもはふらぬ也

薄雲は義理にもなびく所コで無し

紅葉ちる頭は薄雲たなびけり

薄雲はみちのくと名をかへたがり

薄雲ハ又候下駄のもえつくい

うす雲だからふろふかと初手おもひ

薄雲が親かた何ンでもとおもひ

猫のよふな傾城は薄雲なり

奥州の薄雲高尾はれやらず

錦木を薄雲ぢきに取入れる

二代目はむつの花さく国へ行

もう日にかけそうなものだとうすぐも

うすくもも高尾もおやは鳶のもの

薄雲はふりそうな名でふらぬ也

 

大島蓼太芭蕉庵を再興す。暁䑓東国行脚。樗良北国行脚

 

本年多田爺遊子方官を著す、是より続て柳巷花衛の情態を綴りたる半紙半切の小冊子行はる、之を洒落本或いは菎蒻本と唱ふ此頃より草雙紙伝う 滑稽を主とし外題を四遍の色摺に変したりとぞ

 

平賀源内俳諧流行の傾向を見て俳諧三十捧を著し時勢の非なるを痛罵せり

 

胡越滅方海著 勢多巴詩、萬葉物臭香著 掃溜先生詩集初篇、私牽幕著 諷題三咏、出方第滅多著 片城先生詩集、海堂飛雲著 毛護夢先生紀行等の狂詩書梓行せらる

 

俳諧名物鑑(果然)

誹諧武玉川十六編(蘭長宇編)

芭蕉庵再興集(蓼太)

雪おろし(蓼太)

落穂種

笑ひ続(素丸)

一枝筌

 

 

千七百七十二年

安永元年壬辰  十一月二十五日改元

五十五歳

 

誹風柳多留七編板行

本年三世川柳(孝達)生るとの説あれとも誠とし難し

 

十月二十日佐藤一齋生

村田了阿生

菊池五山生

田喜庵護物生

小嶋大梅生

 

二月七日惣領甚六没奥州桑折法圓寺に葬る

三月九日伊藤錦里鳳陽没年六十三

六月十五日川西成蔵文渕没

七月三日佐脇嵩之没年六十六

七月二十三日草古没 京都の人行脚に出て越後邑松城下に没

八月五日村士淡齋没年七十三

八月五日廣岡宗瑞(二世)没年五十二 通称戸太夫 二世白兎園以龍庵 白銀䑓一叟 柳門 竹堂 片枯先生 梅人等の諸号あり 江戸の人水戸の藩士となる

八月二十二日首籐水晶没年三十三

八月二十四日鶴秀伏見に没す

八月二十七日土佐光芳大蔵少輔没年七十三

九月十一日松木竿秋没年七十八 初橋本氏 香稻庵と号す 辞世

名月のあとにも胸の光哉

九月十三日上阪可焉没年七十五(或云七十九)

九月十三日井上石渓没年八十四

十月二十四日伊藤長衛没年八十八 通称正蔵 號介亭 仁斎の三子 書画を能くす 高槻候の儒臣となる

十月三十日由美原泉没年八十一

十一月六日加保茶元成没年六十 新吉原京町大文字屋市兵衛が狂名なり 宗圓と号す 市兵衛河岸にありし時南瓜を多く買ひ置き妓の惣菜に用ひ産業をつめて京町へ出てしとて人皆かぼちゃ〱と異名せしなり 顔かたちも童の謡ふ「所は京町大文字屋のかぼちゃとて其名越市兵衛と申ます」うたの如く背低くて猿まなこなりければ自ら此歌をうたひて人を笑はせしとぞ 其の頃都下に一枚絵を鬻ぐ

大かほちゃさとりのそしの姿なり

今もって大文字やの市兵衛

十一月十六日橘庵六窓没

十二月十二日田辺晋齋没年八十一歳

十二月二十八日熊代熊斐没年八十(或云七十九)

宋紫石没年七十八

 

正月十五日田沼意次老中格となる

 

二月二十九日目黒行人坂大圓寺庫裡より出火 同日又本郷菊坂田町道具屋與八より出火延焼甚だ広く麹町神田下谷を焼ひて真吉原を灰燼にし千住大橋を延焼し此風吹返して横山町に飛火す 焼死者四百余人 怪我人六千七百余人に達し其の惨状云ふべからずと 吉原假宅以前の外は深川 目黒不動、目白不動、粟餅、餅花等に関する柳句を爰に収録す

五色には二色足らぬ不動の目

目の色をかへて不動の名を弘め

不動橋売られそもないお貌つき

不動様かえと初会をついて見る

柿のたね有ルをたように目黒道

人の行く方へと行けば目黒なり

はや道へ二百は無事な目黒なり

品川といつて出るには目黒なり

途中から目黒のじやみる智恵が出来

目黒在正九月に髱をだし

目黒から廻るはまだも律儀者

目黒の夜寶日以後の遊山なり

目ぐろたこやくしそしてとおやじきき

女房と目黒へ行けば御機嫌さ

間もないに目黒へ行くはいらぬもの

ふとときな目黒秋出て冬帰り

目黒から十月帰る不届さ

二日目にかへる目黒はふといやつ

てめへ野暮なもんだ目黒へ行気か

畳を叩き立てごこの目黒だよ

座敷牢目黒のばちと母はいひ

母親はみんな目黒のばちといひ

目黒から言訳のない品が出来

小ならば御免と目黒から帰り

言訳のお土産を召せと桐屋いひ

いつはりの詞の花はつけに咲き

此辺の餅だと親父目が黒し

そこいらの飴だと親仁目が黒し

木に餅のなるので母はまやかされ

木に餅のなった話は目黒なり

木に餅のなる程目黒にて勤め

たをやかな木へのほらせる餅の花

目黒から引ツ切りもなくすすめこみ

木に餅のなった啌ではもうくはず

餅花が四四ツ手の中へ二ツ三ツ

餅花と柿は四ツ手になったやう

餅花を買て尋るひよく塚

餅花の片手はひびの薬なり

餅花を下戸取あつめ持て来る

餅花は古句のよふにつかわれる

餅花も家の鼠にあらし山

餅花を捨て命をみやげにし

餅花をさげて難所へさしかかり

餅花はせうち〱と若いもの

餅花でごまかさうとはふといやつ

餅花の下向東海道をくる

もち花をさげてていしゆに引きつられ

もち花はどふてもなんと二てうかり

餅花を二十九日の昼くばり

餅花を買ひにやらせて飯をくひ

餅花をくたびれた気で受納する

餅花を丁寧につけ叱られる

餅花の贋と本手を女房見る

餅花を四五本へらす雨やとり

二つ三つつけて餅花子にわたし

はなつはりめらともち花下ケて来る

しわん坊連れの餅花ことつかり

餅花が有るかと白米わらはせる

餅へ入れたのを男は軒へさし

粟餅は犬に呉れろと気が遠ひ

くらはずばいいは黙れと粟の餅

栄華の内に粟餅が堅うなる

一夜の栄華粟餅のみやげなり

目黒の不首尾粟餅が石のやう

十禮の手斧はじめは不動尊

不動尊ぶち破るやうに祈られる

王明動不いのらせるこわい事

つがも無いとは不動より下の事

兄弟に泣かれてこまるふどうさま

ふ動迄女房をつれる通りもの

ふ動さま縛って置てつく工面

おや分の内儀不動に待って居る

ふ動さまどうぞ富をに聞あきる

けんしんのおちど不動をくらわせる

海遠し浪切り不動とはいかに

 

二月二十四日四谷内籐新宿に問屋場宿次を建立傳馬を出し遊女を置事御免あり 四月十四日内籐新宿遊女町見世開橋本屋といへるは老大家なりとぞ 青山録平自記の明和誌に曰く 内藤新宿めし売女出来る客人藝子をあげる其たび〱新造一人づつあげることなり藝者新造といふこと是よりはじまる餘風よし原へうつる

とんだはたごや旅人をあてにせず

桃林女房の苦が一つ殖え

窈窕たる宿女君子を迷はせる

めし盛はひもじひ者が買たがり

飯盛の顔は大てい杓子なり

めしもりは夜食をしいる気味が有

飯盛も陣屋位は傾ける

飯盛のあぶれはすえた心もち

飯盛が寝ぼけて二百棒にふり

口三ツならべ飯盛うつくしき

二三人ざつなもりてを出して置

しやくし面尻目で飯を盛りつける

飯を盛り親を養ふ孝行さ

喰兼る親へ反哺の飯を盛り

喰兼る親で娘がめしを盛り

めしもりをはかりにかけて十匁

外の傾城をかけると十匁

旅は道連れ駒下駄で二三丁

駒下駄で馬糞よけ〱茶屋を出る

馬糞へおちし一ト本の女郎花

宿引を呼んでここでは出来るのか

ひとどきさ旅宿をさして家を出

定宿を名乗てひどい場をのがれ

同行は身をのがれんと前へひき

旅日記盛らせた飯はくひかくし

旅籠屋の草履引は七つ過

道の記の枕二つは喰ひかくし

旅日記此二百はへ〱

名物は附け飯盛はくひかくし

みやげにもならぬ杓子を旅で買ひ

連れ同士くわくしつになる宿をとり

切れぶみの奥へ飯もりさまを書き

めしもりにはまりころりとやろう也

安いものだと旅人の朝がへり

いつ来なるなどとびん切なで付る

たれながらそけへよりなとあごで云ひ

そそらずとよつていきなとたれていひ

ちかい内来なといひ〱小便し

江戸へかと格子を洗ひ〱聞き

大口舌へたにさはるとくらひ付

あまつ子をみらんなやつが買に来る

かたいやつ四十八銅きつと置

出女のかかみへうつる馬のつら

出合のかいこんでくるやなぎごり

大ごまり娵出女にとつかまり

見た事も無イにだきつく留メ女

据風呂の脉を見にくる留女

留女片袖もつてわびて居る

とめ女おとりのやうに出して置

留女十六丁の損をさせ

留女もめん〱の別れ也

きぬ〱にかしらといふ鍵の音

弓手にはどびん馬手には釣の銭

とやの子を出して日なしへ云訳し

此他板橋、千住の宿場女郎屋及び船橋の飯盛のことを咏める柳句を次に収録し参考とす

王子から臭い狐がついて来る

あやまつた稲荷王子を買った朝

板ばしと聞て迎ひはふたりへり

寒念仏千住のふみをことづかり

半分は千住の客は犬できれ

素見さんそれじや千住と笑はれる

千住品川紫のたもとなり

宿通ひやめべえなト村の母

名を聞けば八兵衛といふ女郎也

八兵衛は女あしなは男なり

煑へ切らぬ足も片々今井橋

船橋屋名は八兵衛と知ったふり

八兵衛は市兵衛町で見た女

七兵衛やつかい八兵衛の立姿

一二丁ある船橋のまはし部屋

「付記」

   軽井沢の鄙ぶり

茶や馬やどが付てくるかるい沢

馬を買ふほどでうけ出すかるい沢

飯よりも盛り人をしいるかるい沢

はなやかなめんぷくを着る軽井沢

大津絵の生きてはたらくかるい沢

布子のかいどりでびらしやら軽井沢

ばくだいな振袖の出るかるい沢

どぎついを吸付けて出すかるい沢

おりよかつてくれさつしやいと軽井沢

客さまなそべらしやいと軽井沢

それさまアでかく御座ると軽井沢

めうぎはるなをねだつてる軽井沢

江戸衆は数がいけぬとかるい沢

丸顔をみそにして居る軽井沢

わり床に戸板など出すかる井沢

さあちくとそべりなさろと軽井沢

山越しにつん逃げべいとかるい沢

きやく様のらでが鳴るぞと軽井沢

関守の折ふし通ふかるい沢

うけ出して鈴をふらせるかるい沢

ぶこつなるけいせいの出る軽井沢

五月女をすすいでは出すかるい沢

四會目を四くらといふはかるい沢

此月も三度四くらとかるい沢

麦飯で文を封じる軽井沢

むかい湯に来たりや寄りなと軽井沢

苧をうんで居るのをといふ軽井沢

麦さくではらいなさろと軽井沢

ばんじやくだこづかつせいと軽井沢

松明でそそつて歩くかるい沢

そこまめでいつづけを打つかるい沢

きぬ〱にわらんぢを履く軽井沢

きぬ〱に手綱かいくりかるい沢

骨太トな女郎衆のでる軽井沢

がんじやうな遊君の出る軽井沢

ふり袖に似た山の有るかるい沢

麦秋に書出しを遣かるい沢

身あがりをつれのらへ出る軽井沢

馬をつらせて見へをするかる井さわ

かんひよこな地廻りのくる軽井沢

秋の雪ほんたうに降る軽井沢

軽井沢膳のなかばへすすめに来

軽井沢銭にあかしたくしを差し

軽井沢馬ぬす人のしりが来る

かるい沢太夫ばん下をくゆらせる

軽井沢太夫もえたつあかねうら

軽井沢おしよく定紋つきの夜具

かるい沢太夫あかねの三ふとん

かるい沢織女も交る大一座

軽井沢ざいどうふかき身と生れ

かるい沢杓子定規な文がくる

かるい沢絹三疋のどらをうち

軽井沢ぬくとめられつぬくとめず

軽井沢待身なりやこそ簀子ざん

軽井沢狐の鳴かぬ日はあれど

かる井沢田地でんぱたみんな売

軽井沢おもたい夜具を出して着せ

はたおらぬよめん女かるい沢の也

春秋にあかねぶとんをねだるなり

木曽路ではおかる枕をさせる也

 

大火の当時通塩町弐丁目に住める雪中庵蓼太塩町に火かかると見えければ其の侭文䑓に草稿を載せ茶罐に白湯を入れ深川六間堀要津寺の庵に立退く其の夜火災の為に問ひ来る人を留めて百韻の会を為す、 緋様を忘れて青き柳かな  の吟あり

 

四五月交疫流行

 

六月中村仲蔵狂気の沙汰あり読売等でる虚説なりとぞ

よみ売は箸一ぜんをわけて持ち

よみうりは二タ人揃つてせきをせき

よみうりは一冊うると咳はらひ

読売は何をふんだかうたをやめ

読売の通りに諷ふ浅黄裏

大野郎が儀と石版売りあるき

ひやうばん〱所はかわらはし

 

気ちがひは絵を書く時は笹を持ち

気ちがひの膳は遠くへすへて見る

気違ひのひざをそばからかけて遣り

気違ひのふんどししたとといふ斗

気違ひに成ったでとめの理が聞え

気ちがひの力と食は二人前

此通り気は慥だと気が違ひ

さわぐまいものかとぎ屋の気が違ひ

親ゆえに違ふとは出ぬ物狂ひ

花の枝持つが男のとの狂ひ

椀久は茶人のほめる物狂ひ

 

七月目黒行人坂の火付武州熊谷無宿長五郎坊主直秀千住にて燔刑に行はる

 

八月二日夜大風雨被害甚大なり江戸難風大騒一枚摺出る

とんだ雨だと瓦師は大さわぎ

ねどころをはしごの通る大あらし

やね板をふみ〱覚えませぬ風

大風の頭にたらいとかがみたて

大風は空定なき町をふき

大風が五けんつづきへふいて行

大嵐柄斗持て此通り

傘が家の軒歩く大あらし

傘に手足の出来るひどいふり

大あらし傘とけんくわをするやふに

屋根葺を呼んで盥の雨を見せ

用のある人斗通るきついしけ

御勝手嵐のあした幕が出る

 

九月弐朱判銀(南鐐)を鋳る

 

大川中洲新地埋立成

 

十一月朔日上野本坊焼失 此時次の落首あり

上野にて四坊追放御坊やけ

  合せて九坊明和九なとし

十一月改元の時次の落首ありしと

年号は安く永くとかわれども

  諸色高くて今に明和九

明和九は霜月きりで辰の年

  もふ安永と餅を舂こむ

改元の日は片言を店へふれ

 

十一月初旬より疫病大に流行 道中雲助并火消屋敷抱の鳶悉く死す名付て雲助風と云ふ

雲助は東海道をかけまはり

雲助のないが御庭の不足なり

尼寺をおしへ雲助百もらひ

地ふくの際で雲助に壱分遣り

とんぼうを殺してくもは酒をのみ

問屋場でくもがとんぼへ巣をかける

宙に飛ぶ駕かき腕は雲に龍

蜻蛤に蜘もてこずる箱根山

 

宝暦明和此以前は毎十二月御祓おさめよ古札おさめと呼廻る年中佛神の古守札に銭を添て是に与ふこと此頃途絶えたり

 

再校増補江戸砂子梓行せらる

 

今若葉

誹諧武玉川十七編(猪入道)

秋の月(曉台)

 

 

千七百七十三年

安永二年葵巳   五十六歳

 

誹風柳多留八編梓行

 

歌川國政生

角田利栄生

蓮元生

 

正月四日神田道僖定武没年六十四

正月十六日二代目澤村宇十郎没

正月二十四日瀧鶴䑓没年六十五

二月十五日深見頥齋没年五十九歳

二月十七日並木正三平陰没年四十四(或云五十二)

三月十五日本田冲翁壺山没年六十

閏三月十一日田辺二郎太夫貞齋没

閏三月十三日二代目瀬川菊之丞(王子路考)没年三十六(或云三十三)

四月二日市野節士望雲齋没

四月二十一日湯浅随古没年五十四

五月十九日枠井青城没年五十八

六月二日書家飯田規文謙齋没年五十八

六月九日横田几山没年七十五

九月二十二日吉益東洞没年七十二

十一月七日森滄洲没年五十五

十一月二十八日林信言没年五十三

 

去年より引続いて疫病甚だしく江戸中にて春より夏まで死者凡そ十九万人に及ぶと云う 大方中人以上なり

 

五月医学館再興官より寄付金のことを達せらる

 

七月朔日より摂州四天王寺聖徳太子湯島天神社内に於て六十日間開帳霊寶等頗多し 此聖徳太子六月二十日江戸着の時江戸中町々職人等競ふて猩々緋、緋羅紗、天鵞絨、緞子、縮緬の類を以て造りたる大幟を持ち御迎に出る 是れ開帳迎に目立たる幟を持出る始也 御迎の大幟悉く天神社の地内に立又天王寺蕪を三方に乗せ置之を鬻ぎしと云ふ

太子講うちきな手合あらばこそ

なみあみだぶつ是からは根元記

ほめながら合点のゆかぬ寶もの

職人は骨をのぼりに折てあけ

霊寶のおし合斗おがんで来

内霊寶五尺からだでおがまれず

未来記で見れば高時肴也

入道を東魚は蛸の身立也

未来記は現在敵をうつ工風

天狗まで歌を唄ったいいお寺

なま臭い事未来記に書かれたり

未来記は佛家で知らぬ武の瀉度

未来記は現在にふかきはかりごと

未来記は天草切つて何もなし

佛法の棟梁かぶは天王寺

長い額寺號も一字飾なり

字飾りの額蕪汁をくつてよみ

御厩へ取揚婆駆けつける

大阪の寺に天狗はふしを付ケ

茉厩の壁に芽を吹いた佛の沓

佛法はしやうとく好な太子なり

西鳥も東魚も箸にはさまれて

未来記に過去帳もある天王寺

聖徳が好で一ケ寺御建立

未来記は四天王寺の貴重なる寶物にして聖徳太子の御染草に成れりと伝へらる 又小野道風の書きたる長額は四天王寺付近に産する蕪菁と共に最も有名なるものなり

 

十月十七日より十一月朔日迄雑司ケ谷鬼子母神開帳是は十五日に亜相公成せられ御拝ありし故なりとぞ

 

冬の初めより投扇興流行す 二年ばかり人々持囃しけるに幾程もなく廃れたり

投扇は薄手の猪口の持こころ

 

踊子の島田髷に緋縮緬の丸絎を掛る一般にりゅうこうす

廻りあふ迄丸ぐけへ壱本さし

丸絎の仕上につかふ鯨さし

むらさきの丸ぐけ井戸へぬつと出る

 

本年狂名を酒の上熟寝といふ者寶合といふ戯をなし狂文を書きしと云ふ

 

秋 谷口蕪村 三浦樗良、高井几薫と共に油小路ある嵐山が病を訪ひ一夜の四歌仙をつくれり

 

吸露庵綾足作の本朝水滸伝梓行せらる之を読本の始とす

俳諧新選(嘯山)

花寶集(湖十)

帒表紙(其明)

俳諧世説(蘭更)

金花傳(康ユ)

説叢大全(素丸)

玉藻集(蕪村)

 

 

千七百七十四年

安永三年甲午   五十七歳

 

誹風柳多留九編板行

 

狩野伊川院生

四代目澤村宗十郎生

原念齋生

 

正月二十日狩野洞庭興信没

三月十八日建部凉袋没年五十六歳(六十七、五十八、五十三の諸説あり)井島弘福寺に葬る 字は孟喬 初名葛鼠又都因ともいへり 吸露庵と号す 江戸浅草雷神門前に住し風神の背に袋を負へる状を見てをかしとて自ら俳号を凉袋と名のりまた凌袋、凌太、綾足ともいふ 画を好んで寒葉齋の號あり 後京都に移り絵事を業とし小説を綴り専ら片歌を唱ふ 晩年東国に遊び熊谷驛に至り病を得て門人の宅に没す

四月河合見風没

五月十二日赤尾鷺洲殻没

五月二十八日通蓮處居寂 姓名逸す 又號嵯峨居士冷泉為村郷に和歌を学びて大悟の歌道を開くと云ふ

七月十五日古筆了延(七世)没年七十一

八月十一日元祖鶴賀加賀八太夫新内没年六十一 本姓岡田五郎次郎湯方御家人なり

しん内が通ると息子身拵え

八月十六日三代目坂田藤十郎車連射連没年七十四

九月二日菅原誠意没年三十五

九月二日二代目中村七三郎少長没年七十二

九月七日田中李琳固有庵没

十月十八日三代目芳澤あやめ一鳳没年五十五

十月二十二日松籟庵太蕪没

十月二十三日鵜殿士寧没年六十五

十一月二十日多湖松江没年六十六

十二月十日宮崎筠圃没年五十八

十二月二十二日植木筑峯没年五十五

 

三月又々諸家の留守居役寄合のことに付令あり 驕奢悪風を警めらる

 

四月両国に放屁男を見世物にす霧降花咲男と云ふ大に評判あり 平賀鳩渓放屁論を作る 花咲男といふ絵草子出る

両国へ屁を嗅ぎに行く四里四方

銭出して屁をかぐはなの咲キ男

尻口でものをいわせて銭をとり

屁をひツたより気の毒なおならなり

汝等は何を笑ふと隠居の屁

紙帳では自業自得の屁の臭

すかし屁で百万遍の中だるみ

屁をひつておかしくも無い一人者

さとつてはブウとひる屁も佛也

読み人知らず座中皆くさがらせ

師の屁をも矢張七尺去ってかぎ

だアれでも無いと綿の師屁をかぶり

一大事花嫁どうか屁がでそう

屁をひつてだあまつて居る内気もの

嫁のへをきいたものは長者になる

屁の論に泣くのもさすが女なり

姑婆咳と一しよにひとつひり

屁の玉を目の前に見る風呂の中

合ひ力屁の出た方が負けるなり

へをひつた子どもをさがす師匠さま

すかしては隠るる程あらはるる

御屁まで帳面に付御大病

馬の屁で四五人こまる渡し舟

へつくさい味噌川越の替り也

その外のとうふやはへもひらぬ也

雪隠で出るふんべつは屁の如し

雪隠の屋根は大かた屁の字形り

韓信に意地のわるいは屁をかがせ

屁の主が出て花嫁は安堵也

屁の音を聞くと和尚は物思ひ

屁ならまだいいがおならのきのどくさ

屁の事は臭きを後の憂也

いよ玉やなぞとへツぴりわるふざけ

屁ひりの神千住の方にあるなり

いつそ屁をひるとみの輪へかへす也

馬の屁の眉間をかする小しゅらひ

あんまりないびり姑め屁をかづけ

姑の屁をひつたので気がほとけ

早くよと斗りは紺屋屁ともせず

鳥の町不首尾無やつは屁もひらず

てうし迄母おやは屁をひつかける

大イそうなへの音トをきく四谷口

屁壱つになるせつ情をおやぢとき

伏勢はすかし屁斗ひつて居る

頭足の役は屁が出て越度なし

さつまいもへにもならぬと上戸いい

片意地な下女どこまでも屁をちんじ

屁のさわぎひりてが知れて嫁あんど

花よめのおなら五臓をまよつてい

店セ先で屁の中落を書て居る

小便の頭で屁をひる安花火

屁の論でよめ一生の意地を出し

美濃の屁を近江のはなにくさがらせ

首ツ引屁が二ツ出て勝負なし

居風呂の屁の出る所は鼻の先

屁どろぼういけしや〱とつまんで居

やうじ見せひりたをされる仁王の屁

屁をひつた方が居角力負になり

湯の中でひる屁の玉は肩へ浮キ

うばが屁は子のほつぺたでまきらかし

かるい澤たいこ曲ク屁でおちを取り

こたつの屁めしがあるよと母しかり

馬のはきひたが河童の屁はきかず

 

此冬江戸寒気甚だしく川々凍あひて通船自由ならざりしと

留桶で汲むをやつかむ寒い事

駄ちん馬かかし引いてくさむい事

供部にらしやを着ている寒い事

たばこ入くふかと思ふさむい事

泥中のはちすほつてる寒い事

近江一景ながめ有ル寒い事

三みせんで世間をおこす寒い事

めしたこのあきないに出る寒い事

ふし穴を座頭の見出す寒い事

わが首真綿で〆る寒い事

下女がほうむらさきに成る寒い事

寒いこと真綿で首を〆ている

川口へ吉野ののぼるさむい事

ひえまするなどと火鉢で洗ふやう

寒い事下女身の筋に口があき

水に刄が出来て寒サが切れるやう

寒い事しんの国から僕が出る

物干で黄色な聲の寒ざらし

姉は弾く弟は寒気御見舞

寒見舞からにほはせる大三十日

汁粉もち出て来る顔の寒むそうさ

夜や寒き衣やうすき仆れ者

手がききんせんとめそ〱禿泣き

寒見舞鴨先き〱w飛びあるき

寒聲も金にするのは哀れなり

せつきやうの寒聲畠中へ出る

筆先をやつへしなめる寒見廻

甚寒と立派に述べて汗をふき

寒い事ほうを切られた人が来る

寒ひ事団扇づかいを餅屋する

さむい事たばこ入レへもくらい付

手ぬぐいをたてかけて置く寒い事

あんころの吸物を売る寒い事

寒い事飛で湯に入る裸虫

寒ひ事鉈で牡丹をこなしてる

人の鮓絵に書て売る寒ひ事

鍛冶屋の音が耳へ入る寒ひ事

 

寒念仏夫婦の中をさむがらせ

寒念仏いきすぎをいふ洗ひ髪

寒念仏みりり〱と歩くなり

寒念仏知った女で他言せず

寒念仏ころぶを見れば女なり

寒念仏千住の文をことづかる

寒念仏鬼で目をつく切廻向

寒念仏ざらの手からも心ざし

寒念仏世に捨てられた月を誉め

寒念仏首実験の時もあり

寒念仏雪のふる夜かもん日也

寒念仏そば湯を呑でえこうする

寒念仏いつも朝湯の開闢し

寒念仏そば湯の禮にちやんと打ち

寒念仏そば湯疝気へひびく大木魚

かん念仏三ミせんをきくもとり足

白いのに其後逢はぬ寒念仏

聲色でかへるは宵の寒念仏

開かぬ戸を外で手伝ふ寒念仏

わり床につとめて歩く寒念仏

ふぐ汁の表をばかな寒念仏

入もせぬ聲のよくなる寒念仏

さむい事みじめな後生ながひ来る

ぺんぺこと一所にしまふ寒念仏

元日も無佛世界の寒念仏

下女が足あたたまる頃寒念仏

 

鳥山燕絵本に吹きぼかし彩色を工夫し出すと云ふ

 

家雅見種

俳諧新々式(蘭更)

幣ふくろ(士朗部貢)

俳諧午のいさみ

 

 

千七百七十五年

安永四年乙未   五十八歳

 

誹風柳多留十編梓行

 

式亭三馬生

三井鐵齋生

藍亭普米生

 

正月二十二日近藤義清没年五十六

二月二十八日七代目中村勘三郎雀童没年五十三

四月三日元祖中村新九郎一蝶没年五十二

四月十一日二代目吾妻藤蔵園枝没年五十三

四月十三日池野霞樵大雅堂没年五十四

五月二十三日二日坊没年六十四

六月六日小澤鐵舟没年五十二 浮月房と号す 京都の人  辞世

肉眼を離れて見たし蓮の花

七月四日翠扇女没 柏莚の妻

七月二十九日中井仙徑没年七十一 春里庵、千徑と号す 京都の人 辞世

覇王樹の何共なしに秋暮ぬ

八月四日宮本修古没年五十七

八月十日新井邦孝没年五十三

九月八日千代尼没年七十四(或云七十五)加賀松任澤表具師福増屋六兵衛の女 夫を弥八と云ふ 幼名はつ 剃髪して素園、妙林と称す 盧元坊行脚して松任に来りし時其の旅舎を訪ふて師弟を結ぶ 後支考 又乙由に従ふ 辞世あり

月も見てわれも此世をかしく哉

九月十三日中島五始没年六十六

十月二十一日住吉廣守没年七十三

十二月三日益田鶴樓没 本町四丁目五君香薬店主 白石門人 詩を能くす

十二月二十二日松崎觀海没年五十一

十二月二十四日町田圓齋翁没年七十一

十二月二十八日廣瀬了派没年七十一

亀遊(明西)没年六十余

 

去年より投扇興流行し本年投壺の技行はる

 

二月四日青山主馬所領を没収せらる連座せらるる者数人あり

 

三月和蘭人参府

 

四月諸大名の参勤従者の員数を制限せらる

 

四月芝切通し時の鐘再興

 

夏中洲繁昌 夏夜枝豆売りの来る此時に始まる

枝豆は気の有る顔へ鞘はしり

枝豆はからに成てもまよハせる

枝豆が旦那の顔へつっぱじけ

枝豆は思案の外な所へとび

枝豆でこちらむかするはかり事

枝豆でつツぱつて来る重のふた

枝豆の流矢憎ひ顔へ来る

文使ひ枝豆売とすり違ひ

仲国が馬枝豆をふるまはれ

 

十二月新吉原松葉屋遊女三代目瀬川鳥山検校に受出さる(安永七年の條下参看)

表紙をはねると松葉屋半左衛門

松葉屋はつい〱に買ふ桜艸

花の外には松葉屋へ行くもあり

大一座松葉の中へつつぱいり

 

亀井戸天神に樓門建つ屋上四神を安置す

 

岡場所全盛を極め当時四ケ所の多きに及ぶと云ふ

岡場所のありんすなどはづあふへい

岡場所はくらはせるのが晦乞

岡場所で禿といへば逃て行

岡場所は湯の花くさい禿が出

岡場所のきざは子をとろ子とろ也

岡場所のたいこはどばの片手わざ

岡場所は遣手と女房どんぐるみ

岡場所は手より畳が人を呼び

岡場所へちやらのつくるは駕か切レ

岡場所はむけんの銭でらちか明キ

岡場所で無ひをまま母恩にかけ

岡場所で金をつかつて笑はれる

岡場所のきざは草鞋でふ意に来る

岡場所はこれがいやだとうろたへる

ありんすといつて岡場所はりこまれ

あいちつと岡場所とははりこまれ

生門を明けて岡場所ゆだんせず

味噌こしてからは岡場の袖の梅

東夷南蛮西戎は岡場所

 

根津へでもやりたいといふあぶれ駕

根津の客湯島の芝居ねだられる

根津の客使ふも三日一歩なり

根津の客家のひづみに口が過ぎ

根津の客能書と見えて竹で書き

根津客髪結床からすつと行

根津の駕四百匁程は重い筈

根津の妓夫作料などとしやれていひ

根津の妓夫醤油の樽に腰をかけ

根津の妓夫勤めを土場へ取りに来る

根津の文勿論のこと釘のおをれ

御つとめは四五二〆さと根津の妓夫

お腰の手斧をと根津の妓夫が取り

うづふれたがきだと呵る根津の及ウ

中宿で根津へ行くのは羽がきあず

五十まし宙を飛んでく根津の駕

かや町で金にして行く根津の客

行くと先づ邪魔だとわたす根津の客

元服の甚だおそい根津の客

商人はこまつかしいと根津でいひ

年明のこつぱたき〱根津のうさ

おつを切りくんで根津から女房呼び

どの銭をつかひなんなと根津でいひ

一二はい程で来なよと根津でいひ

はなぐれのこわいあまだと根津でいひ

山伏をすめにつけたと根津でいひ

まぐろ買根津へへな〱 き込み

桟敷から身につかないと根津へ行き

町内をらんびんにして根津にいる

白鳥ウをかんこ鳥だと根津で云イ

たりひつみいハずに居なと根津でいひ

じやうけすに釣をよこせと根津でいい

烟草にせうぜと根津の文を出し

木舞かき根津のいりわけ聞いている

白鳥がないてさびれる根津の里

あら縄をがつしやうづつが根津でかひ

今以て根津の焼物すめかねる

前銭の客だと根津で大事がり

お見立〱と醤油樽を下り

飯盛にやよすぎけいせいには成らず

生酔を引いてこぢよくはもてあまし

西戒と山僧たてをついて居る

月ももせずに西山をさがすなり

平見世の餓鬼がとこぢよく泣いてくる

三角へ通ふは四角張つた客

三角へ丸と四角な客が来る

下銭で梅や柳の下を行き

無縁坂掻いて下りるこつぱ客

きき酒のきげん櫓へこけるなり

神明を拝んでいるにモツシモシ

墓桶を下げて見とれるかくし町

かくし町何ンの気もない気味もあり

けいどうのいひ分け日なし聞飽きる

 

阿蘭陀wヨ糖、三国一の霰糖の菓子及び輿勘平の膏薬売等本年より流行す

 

暮雨庵臺佐渡に遊ぶ

 

住吉千句興行 澤露川三十三回忌

 

本年戀川春町金々先生栄花夢を著し盛んに行はる

之より青本の趣向は一変し戯作の面目を漸次発達せしめたり 此頃上田秋成の雨月物語梓行せらる

 

付合小鏡(蓼太)

夢ひらき(百萬)

雪丸げ

桃の實

名所方角集(素外)

獨あるき(白牛)

三春日記(蓼太)

 

 

千七百七十六年

安永五年丙申   五十九歳

 

誹風柳多留十一編梓行

天狗初庚申二冊出づ 画入川柳本正美画、誹風末摘花初編梓行雪仙齋尚徳の挿絵あり 板元は星運堂 此二書ハ川柳絵入本の嚆矢なるべし

 

狩谷掖齋生

清水濱臣生

濱松歌國(颯々亭南水)生

岩井半四郎(杜若)生

 

正月四日村士玉水没年四十八

二月九日春日龍洲没年七十一

二月二十六日石田牛渚没年六十一

三月十三日五代目河東(平四郎)没

三月二十二日松角南架(納涼庵)没

三月二十三日田村元雄藍水没

三月二十八日宮原雪堂没年六十一 貞松軒と号す京都の人  辞世

今ぞ着る法の旅路の花ころも

四月二十八日大内熊耳没年八十

六月十六日小塚竹渓没年六十三

六月朔日鈴木檀州没年六十二

六月雪穿舎山幸没

七月十七日歩十没 湖十の妻

七月二十九日荻生道齋没年七十四

八月八日高葛坡没年五十三

八月九日宇佐美恵助灊水没年六十七

十月十日谷川士清淡齋没年七十

十月二十日小倉鹿門没年七十四

十一月二十七日伊藤益道没年六十八

十二月十五日切部桃隣(二世)没年八十一 太白堂二世桃翁 呉竹軒五無庵と号す 幕府の家士

十二月十九日今井昆山没年六十

 

春より秋に至る迄麻疹流行す

 

此頃より武州杉田の梅を見に行く人稍多し

本牧のはなへ杉田の梅かをる

杉田道ふくいくとする春のたび

桃林は伏見杉田は香に匂ひ

 

若水へ笑顔の移る庭の梅

梅斗魔所の手引はせぬ木也

梅が香は座禅の鼻の邪魔になり

風の来るたびに隣の梅をほめ

齟生酔梅はをる気なし

我国の梅とたいこが酔覚し

梅花を折って肥たごへ挿して来る

まだ干葉をかけたままある村の梅

気が気ぢやねえのに笑ふ年の梅

鉢植の梅日当りを追廻し

梅の寝姿を見て来て草臥る

弟目に咲いても梅は花の兄

梅ひとつおちて鳴きやむ雨蛙

偽は人間にあり室の梅

梅にうぐひすさくらに生酔也

なま梅をあづけて子もりしかられる

水仙にしをがくれば梅笑ふ

媒の日は鍋も茶釜も梅がもと

やきながら女房のたべるかんろ梅

母苦労ゆふべも梅が三つへり

梅づけをぶじなうちからよめは喰ひ

梅干の小言は娵のづつう也

売家にあるじ顔なる梅咲て

よめのほう丁梅づけの大こなり

まだとしやわかいひなさまに梅

大根をたんざくにして梅に付け

梅干に餅の戸板を染め直し

梅の木が大きな森に二三本

梅屋敷まだ生酔の顔を見ず

かわくといへば梅屋敷もちつとだ

梅やしきから天ぢくへおし廻し

梅屋敷龍眼肉を干てあり

うろこのやうな苔もある臥龍梅

梅やしきから東風が吹きほりへつけ

鶯の初音で龍も眼をさまし

ねん〱花の高名は臥龍梅

臥龍梅見て妙計をたくむなり

梅見とは新板変りました嘘

いつぞやの梅もうそだとやかましさ

臥龍とは息子を誘ふ謀事

大ぐしを頭にさして梅をほめ

咲いたなと座頭は鼻で梅をほめ

うぬかろすめと梅の木へぼうを出し

御ほうびに梅かづいたと母に見せ

文の末へ梅の折枝一つかき

梅の盛りには生酔出来ぬ也

梅に鶯竹には帳面也

梅に鶯柳にゆうれいなり

鶯は上手にあるく梅の枝

十三日小鳥は梅につるされる

つき山の梅をおとしたむづかしさ

梅玉のそろばん二十五けた有り

梅漬は地獄落しで色が付

ねむい目は柿見えぬ目は梅であき

げん兵衛ととく兵衛雪に梅やしき

梅干も花ぞ昔を思出し

梅干が有ても粹で娵安堵

梅干は男日でりの供に連れ

梅干を豆どろぼうの番におき

梅干は新造の咳にほき出され

梅干の露かはらけにしみたらず

 

去年より薩摩座小平太座にて戀娘昔八丈といふ新淨瑠璃大に当る 其の内文句「そりや聞へません才三様」と云句童子も之を誦すと云 才三格子縞お駒染と云衣服はやる お駒飴といふ飴売出る(享保十二年の條下参考)

 

市村座春狂言大入にて市川八百蔵助六岩井半四郎揚巻の役別て大当りのよし 吉原の揚巻ある日桟敷をかり切傘五百本進物にせしといふ説ありとぞ

助六は江戸一番の頭痛持

助六は大水桶で舌を出し

助六は緋ちりめんからよみかへり

助六の無ひ総角は源氏也

鉢巻をせぬと助六太神楽

雨ふりにばかり助六出たと見え

先箱で出る助六はわり下水

福山はちとあやふやな傘もかし

 

此頃真崎稲荷の茶屋の老嫗に馴る狐あり 嫗お出とよべは必ず出る 名付て御出狐と云ふ

真崎で息子おいでにとりつかれ

おきつねはたとへ化ケても高がしれ

 

稲妻の折れを狐はくはへてる

御無沙汰の狐とりいが高くなり

別当は狐や馬で茶をわかし

朝大師などと狐を馬にのせ

屋敷替白い狐の言ひおくり

正一位てつちに告てのたまハく

御めかけに付てほこらをねだり出し

人の尾を大晦日には狐が見

狐火の折〱野路をほころばし

狐火を見よふか獅子に化よふか

狐つき旦那のはぢの店おろし

狐つき大家しかつて恥をかき

狐付キ出来て隣は妻を去り

狐つきおちると元の無筆なり

百社をうつたあしたから狐つき

看病をにぎやかにするきつねつき

ふんごみで取まいいて来る狐つき

えり人でかん病に出る狐つき

見世へ出て元値をしやべる狐つき

唖にとり付こまつてる馬鹿きつね

療治場で聞けば此頃おれに化け

油揚をさげたばかりで夜をあかし

馬の番共案山子に禮を述べてくひ

黒札の禮には馬鹿な顔で来る

繁昌な見世きつね迄買ひに来る

狐つり女房が来ても油断せず

狐つり猫がかかつてもちにつき

狐つり思ひもふけぬ鳶をつり

狐つり衣を一つもらけたり

たしなめば総身の痒い狐つり

舛罠をいひつけて出る狐つり

狩人はきつね釣りをばまだるがり

 

此頃地紙形の錦絵芝居の役者似顔出る 折目を付け置扇の古る骨に張て扇とす

 

新吉原にて俄といへる戯れ大に流行す仲之町に埒を結びたりとぞ

燈籠が消えて俄に騒ぎ出し

金棒のあとから太鼓ついてくる

 

当時銀の延煙管流行す

銀ぎせるあつたら事に手ではたき

銀ぎせるふられてきずをつけ始め

銀ぎせる銀のやうだとおやじいひ

銀ぎせるおとした噺三度きき

銀ぎせるつまつたときも銀でほり

銀ぎせる立かけて置く三つぶとん

銀ぎせるかさんに置いてうなる也

銀ぎせる拾ったしなのいもで持て

銀ぎせる松川をのむつらい事

銀ぎせる畳をたたき〱めり

銀ぎせる中だめにしてはなしかけ

銀ぎせるおとし張りにはよし給へ

銀ぎせる親父は夢で二ふく呑

銀ぎせるとくなものだとたわけもの

てうしへの路ぎんに払ふ銀ぎせる

そのきせるめつかるなよと母いひ

ぜいたくをいひ〱廻す銀ぎせる

まま母は銀のきせるのせうこにん

二代めに銀のきせるてふつつぶし

弟のは銀ではないとこわい母

銀きせるつばなでやにを通す也

銀ぎせるこれみろかしにぶつひしやき

不機嫌な時につぶれる銀ぎせる

昔ない事はきせるを質におき

 

力士伊達ケ関 名を谷風梶之助と改む 谷風梶之助は奥州宮城野霞目村の産 寛延三年八月八日生小字を與四郎と云ひ明和六年力士となり秀の山と号し後伊達ケ関と改め安永五年十月二十七歳の時谷風梶之助と改む 身長六尺二寸五分 體量四十三貫 肩の厚さ三尺古今に絶したる名力士なり

 

十一月盲人の藝術を以て渡世する者は検校の支配たるべきを令せらる

 

五月十三日芭蕉堂の再興落成す

 

堺町楽屋新道に女の力持見世物出る 蜀山人の半日閑話に曰く、此女元は湯島の大根畑の娼妓なるよし 車に俵を乗せて是を指す 名を柳川ともよと云 紋所は巴の紋なり 力婦傳といふ書出る是からが女角力とそ引なり

 

一茶家を逐はれ後江戸に出つ

 

本年中秋の頃行ハれし落書三幅對十六項中より二三を掲ぐ

此度ハ古今無類の大当り御手柄の三幅對

 市川八百蔵 筆太夫がおこま 池原雲伯

十分上り詰是から下る斗りの三幅對

 田沼主殿頭 中村仲蔵 石谷豊前守

男にすぎた女房の ・・・

 鳥山の瀬川 清水御殿 松平遠江守

濟そふてすまぬ ・・・

 浄土宗の公事 若旦那の縁組 薬研堀の売物

とう〱こじつきし ・・・

 二朱銀 三ツ股の新地 瀬川菊之丞

今流行の ・・・

 きし嶋 丸角が見世 稲葉越中の守

何といふても親玉の ・・・

 松平右近将監 市川海老蔵 豊竹住大夫

 

誹諧武玉川十八編(紀水)

小紫垣(湖十)

種御二編(堤亭)

住吉千句(蓼太)

俳諧其蓬(團齋)

三冊子(闌天)

芭蕉翁付合集(蕪村)

誹諧このはしら(祇徳)

誹諧初の枝折(常仙)

 

 

千七百七十七年

安永六年丁酉   六十歳

 

誹風柳多留十二編板行

 

田能村竹田生

巻菱湖生

曙庵秋擧生

二世歌川豊國生

清元延壽齋生

朝寝坊夢楽生

 

二月八日徳力龍澗没

三月二十日浅田八百彦没年八十一 十合齋扇翁と号す 京都の人 辞世

東へも西へも行かしはなの雲

五月十六日名越南渓没年七十九

五月二十八日森蘭澤没年五十六

六月十日加藤宇万伎没年五十七

六月十一日稲垣長章没 号白叟 通称茂左衛門 春基門人 大野土井の臣にて儒宗たり又白ーとも号す 世に白ー、鼇渚、観海、金峰を太宰門の四天王と云ふ

六月十八日中村喜代三花暁没年五十七

六月二十一日堀楓亭没年二十六

七月三日二代目八百蔵中車没年四十三(或云四十二)当時市中の会葬者数千人 古来役者死してより斯る盛事を聞かずといへり 遊治の少年淫蕩の婦女恰も老姑を失へるが如しと云ふ 龜遊自画の江戸贔の貝八百八町と云ふ中車追善の戯作出づ

紋付に娘中車ののびを追ひ

七月十七日歌川女没年六十一 越前三国某楼の遊女 名泊瀬川実名ぎん 晩年江戸に出で剃髪して龍谷と号し東国を行脚せり 辞世の句

奥底の知れぬ寒さや海の音

八月二十五日高山北溟没

九月九日富澤辰十郎連袖没年五十二

九月十四日賀川子玄玄悦没年七十八 産科医賀川流の祖

十月二十五日八代目中村勘三郎冠子没年五十九

十一月十九日元祖中村野鹽袖歌没年二十六

十一月二十九日石田賦泉没年五十七 普求門 京都の人 辞世

けふといふ今日そまことの雪佛

十二月二十九日 藤川八蔵八甫没年四十一

 

此の春江戸自慢ち云一枚摺出る 江戸名物を役者番付にしたるものにて大に行はる 後編江戸自慢も出る

 

三月二十日より六月朔日迄浅草観世音千五十年忌開帳

 

四月三日浅草門跡前に日本一黍団子出来る 屋号むかしや桃太郎と云ふ

 

四月二十一日御座間田沼主殿意次七千石加増あり 若年寄水野忠友側用人に進む 此頃田沼の権勢漸く盛に水野と共に大小の事を決す

 

四月浪華中の劇場にて奈河龜助の伽羅先代萩狂言始て成る

一眼で御家の曲りため直し

国家老實に大国の片目なり

片目でも光のつよひ国家老

たけになき忠義雀の国家老

むつ時分門にかなめの国家老

名はちひさひが気の広い国家老

主人相しらず門番国家老

門番へ化けたは一つ眼なり

我門のかために殿もおんこまり

堅いはず御門は石でねだは鐵

いい方の目もいらぬ気で国を立

だてに目は二ついらぬと小十郎

両眼も及ばぬ伊達の片目なり

お鼻緒は何をすげたと小十郎

朝がへり一つ眼ににらまれる

時平の子孫らしいはら田なり

御子孫の甲斐もないのは原田なり

雷にへそをとられし原田甲斐

吉方をしまひたひと原田が密書

原田のみつ書におつとせいとかき

きんてつの侍えんの下に居る

金花山より名の光る鐵之助

鐵の助鼠で忠の名を残し

忠臣は椽橋の下に住ミ

御寝所の下は忠義のねづの番

鉄扇え先ず蜘の巣をはらひのけ

一鉄な男ねずみをうちころし

むつの子を既に鼠がひくところ

子雀をねらふ鼠のおそろしさ

甲斐犬に喰れそこなふ雀の子

其狆浅岡厚くほふむらせ

伊達一家重りになつた乳母が尻

気のきいた板むつの子の洗ひやう

其板はみんな正目のおんさばき

むつの鳴りしづめたは二十七巴

甘口でない板倉の手前味噌

九つの太鼓でかはる御評定

九つの太鼓がないと陸奥はやみ

酒が出たので評定が長うなり

 

三月頃より両国橋広小路にてとんだ霊寶の見世物大に流行す 霊寶は皆細工物にて三尊師、不動明王、役行者、後鬼、前鬼等其の他種々あり 鳥亭焉馬述作の開帳とんだ霊寶略縁紀といへる寶物目録を見世物場にて売る

何べんも同じ事云ふ霊寶場

 

どうてつにとんだれいほうばかり有

霊寶にうすき味わるい寺があり

小間ものや内霊寶が金もうけ

ほめながら合点のゆかぬ寶もの

 

七月芝愛宕山圓n宸ノおいて出羽国湯殿山黄金堂玄良坊佐久間お竹大日如来開帳す

延宝年中の頃江戸大傳馬町問屋佐久間平八(或云善八 又 勘解由)の下女にお竹と云ふもの深く三寶に皈依し水盤に光明怪奇の事ありて件の流しを芝新堀端三縁山塔中心光院へおさむ委しく縁起あり お竹実は湯殿山大日如来の化身なりとの伝記などその縁起に云ふ所妾誕夢稽信ずるに足らず兎園小説に於竹大日如来縁起の辧あり就て見るべし

ながしのわきで大日をくどいてる

知らぬ事とて大日へ這って行き

しらぬが佛お竹どん気はないか

お竹どのどうだとぼんぷ尻をぶち

後生だと口説かれお竹こまる也

手の中の報謝ばかりをお竹する

股ぐらの報謝ばかりはお竹せず

ゆどのさんへ願をかけて御手がつき

假りに女と現はれて飯を炊き

ごし〱はお竹六祖はへんたらこ

六祖は搗くに大日はといでいる

朋輩のお松は飯をいつそ捨て

朋輩のお松観音様だらけ

ぼんならぬ女と佐久間おもつてる

佛にめしをたかせたは佐久間なり

一チの寶ものはお竹のうけ状

生国の極楽者を佐久間置き

佛とも知らず一両二分で置き

濟度の内で大日は木綿物

大日は真岡普賢は縮緬緬

知らぬが佛竹々とこきつかひ

行處は湯殿流しは置土産

御ぜんたき菩薩と化して煙となり

お竹が尻をたたいたらくわんと鳴り

お竹きて佐久間の犬は首湯出

めしたきのお竹に犬は尾をふらず

お竹の十念犬曰くおそれるぜ

光りさす下女も菩薩のひろひぐひ

遊女にはぼさつ下女には菩薩なり

お妾に佛下女には如来なり

妾佛遊女に菩薩下女如来

関東で下女上方で傾城

佐久間の下女は箔附のちぢれ髪

右の肩あらはしお竹流しもと

大日如来の水くミつめり

ゆどのさんへ願をかけて御手がつき

ほうばいのお松はめしをいつそすて

明輩の下女は流しを飯だらけ

假りに女とあらはれてめしをたき

のちに穴なし有りてんま町の下女

 

夏より伊豆大島焼る 品川沖にて夜々火光を見たりと

 

八月本町回向院に於て粟津義仲寺芭蕉翁を開扉す

世を去った翁旭とうしろあひ

風流と武勇と背中合はせ也

木曽の碑の裏にこごえた翁草

木曽殿にふられたやうた句を案じ

木曽殿と翁のやうなけちなばん

手塚ともいふべき所に芭蕉塚

後から旭のもれる松尾の碑

参考として木曽義仲、巴、猫間、今井等に関する柳句を次に収録す

たがよ〱と実盛は木曽へおち

旭出て二十余年の夢はさめ

平家方不吉北から旭が出

夕日をば招き旭に逃げるなり

そりや木曽が来るとでんぐりかへす也

朝日さす大内山のむつかしさ

しなのから京へ出て一ツこくをいひ

信濃でも京へ出たのはずないなり

大きな内でぞんざへるしなのもの

車には座りのわるい木曽丸太

車でかけをおつたは木曽よし仲

車に酔うて大内の笑ひもの

御所車義仲いつそあぶながり

髪の毛を塗て軍か若かへり

五所の緒の車はいいが大ぐらひ

五ツ緒の落車をすでにする所

たちまち白髪浦島と木曽の陣

ひたたれは打チ敷キにもと木曽納メ

状箱がくると呼ばれる太夫坊

九はいめの茶漬の所へ猫間来る

ねこ殿と云われて公家は鼠まひ

鼠米なぞを猫間へしひる也

そばがきを猫間の供へやたら強ひ

むじしれぬ事をねことのあいしらい

なぶつても猫のやうなる勅使也

ちよくしさんなどと巴はやすくする

つよそうな女ねこまへもりつける

おやわんをちよくしうしろへかくす也

装束の袖へ親椀かくすなり

猫は魔の物だに木曽は粗忽也

木曽殿は客をぢやらして飯を喰ひ

ぬかとかいたかと木曽殿えつき也

高もりは木曽このかたがはじめ也

大内のふはむきになるめしをしひ

大ぐらひ也と木曽をば讒をする

そして又みそもたまさとねこまいひ

そろ〱と御所が木曽どのぶまに成り

喰物で勅勘得たは木曽斗

朝日でも終には勅にかたぶかれ

なから半じやくで仕舞たは義仲

やみ〱と旭は泥の中に消え

晴嵐に泥だらけなるはなれ馬

巴にも粟津が原の緒残念

負けこける頃は睦月の末つかた

旭の光うばつたは星月夜

けんそな木曽をふみならす鞍馬牛

木曽どののあとと指さす田にしとり

田の中でともへ〱と三聲する

木曽殿はいい陣太鼓もちたまひ

巴にも見抜かれ給ふ内兜

朝日にはとける巴の雪のはだ

木曽殿ばかり山吹へ実をならせ

山吹を大ひきづりと巴いひ

木曽どののめかけ一ト人はうまぬ筈

木曽をだきしめひおどしをねだる也

木曽どのは緒部屋さままで腕をこき

髪さけのあるは巴の具足なり

初めから鞆絵なぎなた疵はあり

くさずりにかからぬやうに巴たれ

小便の時に巴は陣を引き

生つばきはき〱巴切って出る

官軍とおめか付とがいじり合ひ

わるいことよしなと巴首をぬき

お妾は大きな腹で首を抜き

手軽くはまいらぬ木曽のおもひ者

重忠は巴と組んで手を洗ひ

義盛は〆殺すなとそつといひ

よしもりにともえ尻からいけとられ

残念だのんしと巴生捕られ

兼平の手本めつたに習はれず

くりからのやうに兼平落馬する

兼平はりつぱに落馬した男

馬からりつぱに落ちたは兼平

兼平はくりからといふ晦乞

くりからで木曽の勇の肌を見せ

死水を取ったは今井一人なり

兼平が塚をとりまく早苗とり

みち盛はひやうひやくまじり鎧を着

道盛は寝巻の上へ鎧を着

 

此頃愛宕下薬師堂水茶屋の桜川お仙といふ美婦名高し 世人仙䑓路考ともいふ 洒落本桜川仙女傳出づ

 

此頃書家三井親和の篆書殊の外世に喜ばれて行はれしかば親和染とて其の筆跡の唐様をちらし篆字のかすれたる形を煙草入女帯浴衣手拭などに染付けたる物大いに流行す 明和誌に曰 明和までは縮緬に板締めといへる染なし緋桃色の類なり其頃深川に住三井親和といふ書家篆書をよくす右の書を染親和染とて流行す是板締めのはじめなり

仕立屋の無筆親和を裏がへし

書は深川あきないは駿河町

 

当年浅草蔵前の蔵宿(札差とも云ふ)町人禁獄せらる 是は礼金を取って金を貸す事を罪せらるるなり 幾程もなく許さる

其の頃「落ちた玉いくつ十六両一分まだ利は高いな此米売って小判に直さう小判どうした役所のえんですべつてころんで油一斗とられた其油どうした地頭どのの庭でゆすつて取って女郎買ってしまつた其あとどうした他行して留守でみんな牢へつツぱいた」と云ふ落書ありけるとぞ

蔵前を出る玉落の定九郎

蔵宿は侍冥利聞きあきる

御蔵前数へて居ても貨さぬ所

御値段がよいと蔵宿かぶりふり

蔵宿の千代其手はくはぬなり

蔵宿ハ立たぬ〱は屁ともせず

蔵宿でよんどころなく反りを打ち

御ふ勝手しやぼんのやうな玉が落ち

 

此頃hux其の外種々の名目を附し富類似の興行を為す事を禁止せらる

hに摺子木とつて縁近し

松の内皆いかさまに引つかかり

 

此頃の落書前編に洩れたる後編三幅對二十五項中より二三を節録

親より増るともおとらぬ三幅對

 市川団十郎 観世新九郎 阿部備中守

澤山にできた ・・・

 大名の借金 御免の富 御膳そばきり

江戸の気をよく呑込んだめつたに評判のよい

 山下金作 豊竹此太夫 一増又六郎

次第に下る ・・・

 銭の相場 大谷廣次 絹布の値段

次第に長くなる ・・・

 周防の鼻の下 ふり袖の尺 持参金の残り

今の世の藝頭 ・・・

 藤間おか祢 宗匠の田女 芝居のお傳

上藝者といふ ・・・

 亀井町おふん 萬屋おたか 両国のおしん

 

此時代は老中田沼主殿頭意次の全盛期にて四民上下とも奢侈甚しく政綱又弛みて武士道は地に払はむとするの有様なりしかば新吉原に於ける遊女太夫等が衣類器物調度に贅を尽し数奇を凝したるは今日殆んど想像だも及ばざる程なりき次に後見草の記事を抄出してその一斑を知るの便に供す

「新吉原の遊女屋にて其家の太夫と呼るる傾城の部屋屋敷の結構いはん方なし先床襖は今織の笹緞子の類を以て張り鏡天井是は船天井か子天井をやつせしなど思ひ〱の風流を尽し或は金泥にて実生雲を画しあれば又時の絵師の状素を撰み四季の花美しく画せたるもあり其外まいら床違棚の類ひ或は高蒔絵にし或は沈金彫に素又夜の物に至りては錦の緋縮の裏付はいやしきかたにして金花布猩々緋などいふ異国の織物を第一となせり髪の飾調度の類も夫に準じ衣服は特に美を尽し彼は是に劣らじ是は彼にまけじと我一にと争ひし程に金糸もて作れる袖簑を様々の模様付たる紅縮緬の上に重ね或は羽二重を漆にて塗り一面に梨地を蒔せ所々つなぎといふ物を螺填なしたる類もあり中にも扇屋の龍川といふ太夫などは鳶色の天鵝絨に牡丹に狂へる唐獅子を五色の唐絲にて縫はせ其上にあく迄薄く打延たる白銀を細ま絲にてたち夫を以て織たる西洋の羅紗を重ね縫はせ上衣になしたり見る人是をうつくしと誉むればいとやすげに引裂て人にあたへ其破れ跡より下地の縫物あらはるるを一時の誉れとなしたり凡奴件の衣纔か五六日の間に着かへ又後着と唱へ改め作れり惣て一衣の價四五十金より七八十金に及ぶとなり云々」

実に後見草の著者がいへる如く当時は斯かる贅沢の限りを尽して底止するところを知らざりしば流石の幕吏も遂に打捨難しとや思ひけん 本年五月二十八日牧野大隅守の役宅に於て吟味ありける由談海続編に見えたりその時の夜具の模様と太夫の名は次の如し

猩々緋金糸にて紋ちらし惣もよふ夜具七ツふとん

  新吉原江戸町壱丁目扇屋宇左衛門抱鳰て流

浅黄縞繻子裏緋縮緬染出し龍田川模様夜具七ツふとん

  同人抱          花扇

紺地錦夜具五ツふとん

  同丁国屋弥八抱      白玉 寿まき

赤古金襴夜具かかミ七ツふとん

  京町壱丁目四ツ目や庄助抱 小夜衣

  江戸町二丁目丁屋庄蔵抱  雛鶴

緋縮緬錦もよう夜具ふとん

  同丁大菱や久右衛門内   ミつ花

飾所にない進物夜具へ熨斗をつけ

内の布団が二三十出来るなり

本惚と見抜いて夜具をねだるなり

夜具一つ布団を三つなだるなり

船宿にある内夜具へ人だかり

夜や寒きとは傾城のねだりごと

物着星見せる客にはよりかかり

馬鹿者もあると仕立屋居郎なし

夜着布団大じやもつらの客がくれ

紋所を一つ半分つけたがり

夜るの着ものとは大きな無心なり

此夜具もつまりやせんとおそろしさ

我夜具へ女郎を寝かすきついこと

唐草の柏饀には息子あり

夜具の約束血判せぬばかり

夜具ふとん先づごふく屋でもてる也

紅葉から錦の夜具はおもしろし

なんぼう怖ろしきものがたりは夜具

夜具ふとんいつか親父の耳へ入り

内の夜具とはすつぽんと御月様

もてねエでどうするものかやぐ承知

通ひの高の登るはず夜具を入れ

けいせいの夜具もえひさるこわい事

夜具ふとんあいそづかしが二三人

高さ三尺ゆうよあるふとんなり

其高さ三尺有余あるを敷

余儀なき無心三井へあつらへる

たまげたつらで呉服屋を覗イてる

積といふやつて浅黄はそんをする

あて事も無い夜具息子あつらへる

てう法な積を傾城持ている

ふとんを三つあたたかなやつがやり

三つぶとん九まいかさねる面白さ

三つぶとん下手なまり程足をあげ

三つぶとんぼん女の及ぶとこでなし

三つぶとんうそをいふならはしごなり

三つぶとんひくいびやぶを立テ廻し

三つぶとんそばて袖口買て居る

三つぶとんよツ程へちかくなり

三つぶとん下りこぶしにすいつける

三つぶとんしやくやづつうにきめうなり

三つぶとんうてうてんへは程ちあし

三つぶとん敷くのではなくつむのなり

三つぶとん立ツとひやう風へ首が出る

三つぶとんやわらかにしてはにたたず

三つぶとん天水桶に程ちかし

三つぶとん天水桶の下へしき

三つぶとん親父はかはぬ様子なり

三つぶとんかぶりつめると辿りおち

三つぶとん大奉書の熨斗包

三つぶとん敷くでは無くつむの也

三つ蒲団牽頭らしいが壱人附

三つぶとんウンと云つたが夫つきり

三つ蒲団孝不孝あるぬり枕

三つぶとん二人で敷て一ツ夜具

三つぶとん承知〱で五人切れ

三つぶとん坊主禿の肩をさし

ふとん三つはむせつぽいねたり事

いなか大じん三つぶのをかうつもり

人界の物とは見えぬ三布団

凡人の夜具とは見えぬ三つぶとん

どつさり〱と三蒲団しき

後世おそるべし三ツ津ぶつかさね

我身津めつてねだられぬ三蒲団

仕立屋を一軒埋る三蒲団

息子の三ツ組はとんだ高いもの

敷ぞめはりつぱに馬鹿をつくす也

敷そめの夜具天井へもうちつと

爰に一ト人のえいゆう有り敷そめ

天にあらば月地にあらば敷初

痛イ事三日のうちにふとん出来

だまされた人に三ツ井ハ夜具を売

敷そめは目貫のやうにぶつ坐り

撫牛夢は敷初苦労なり

夜具ふとん吉原中の蕎麦をくひ

敷そめの隣座敷は癪を出し

蒸籠の隣遣手のわめく聲

吉原へ蕎麦喰に行くきついこと

日をぐつと見定め夜具やふとん解

鳳凰となつて一羽の敷ふとん

切たての紅閨にふすいたい事

畳から三尺高ひおもしろさ

其夜からそばで三ばい女郎喰ひ

けふできた床をとらせるきつい事

鳴呼のくはだて敷初をするつもり

寝心がようありんすといふが礼

蕎麦腹でふくれ返つた床をとり

今日の上客とお針に蕎麦を強ひ

総名代として婆々ア蕎麦の禮

敷そめは先づ呉服屋でもてるなり

蕎麦の膳下ゲてあらたな床をとり

息子の苦労は夜具うかと請合

女郎の三ツがいもしたむすこなり

女郎のねだり事はきもが潰れる

敷キ初メのもへたつ中にじやもつつら

夜具の返礼すり上げ〱

痛い事二八で見世の軒を埋め

敷初のそばはよつ程のびた客

高ひはづ三段上へがねどこなり

だんばしごどう切にしてしよつて来る

頷いた切で出来ぬ三つぶとん

客タ人切れて敷初りつぱなり

やれ〱嬉しやと夜具をくけ仕廻

 

初て黄表紙の袋入本出づ 其体裁は大半紙二つ截に摺り紙数五丁にて藍摺の一重表紙を附し紫絲もて綴ぢたる也

 

種御三編(糸條)

富士筑波集(祇徳)

古來庵句集(存義)

誹諧古今句鑑(素外)

むかし口(無名)

 

 

 

 

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